民族闘争と文化戦 野一色利衛訳編
緒 言
現代は正に総力戦時代である。此の未曾有の史代転換期に当り、全世界の殆んど凡ての国家と民族は其の総力を挙げ全力を傾けて血みどろの死活戦を遂行しつゝある。
英米の帝国主義的侵略下に多年搾取と圧迫に苦しみつゝあつた全世界の諸民族は、今や枢軸国によつて掲げられた新秩序建設戦の聖なる蜂火に呼応して、蹶然立ち上りつゝある。既に南方諸民族は我が皇軍の指導下に大東亜共栄圏建設の為に雄々しく奮起しつゝあり、印度、挨及等に於ても随所に自由と独立の為の民族運動が凡ゆる弾圧を排除して花々しく展開されつゝある。
民族と民族との間には平和なる共同生活が行はれ文化の交流が行はれる場合と、種々の形態の激しい民族闘争と文化戦が不断に行はれる場合とがある。特に一民族が他民族に対し政治的優位即ち政治的特権を有し凡ゆる種類の強カなる圧迫を加へる処には、総力的民族闘争が展開される。即ち武力・政治経済・文化等の諸闘争が其処に見られる。就中、民族間に行はれる政治的文化戦は思想・宗教・藝術・言語・教育・文化等を繞つて熾烈に展開される。支配民族は凡ゆる行政戦略をめぐらして自己の政治的優位を確保せんとし、之に対し被支配民族は自治乃至は独立を獲得せんが為に全力を傾倒する。これに劣らす経済闘争も盛んに行はれ、時として武力による攻防戦も展開され戦争状態を呈することもある。蓋し諸民族をして各々その処を得しめその堵に安んぜしめる八紘一宇の皇道原理に準拠せざる限り、民族闘争は、永遠に地上から消滅しないであらう。
政治的闘争の手段として宣伝の有する重大性は既に世間周知の事である。政治的宣伝手段として利用される合言葉(スローガン又は標語)・流行・切手等が群集心理に及ぼす影響作用は文化政策や文化戦の遂行上大いに着目さる可きは云ふ迄もないこどであらう。
ソ聯に於ける反宗教宣伝は単に世界観上の問題ではなく、政治的意義を有する文化戦であることに注意せねばならぬ。
一時欧州を席巻して武威を天下に轟かせたナボレオンは単なる武力戦的英雄に非ずして、他方戦略を心得てゐた人物なることに着目しなければならぬ。
特に彼が如何なる言論政策をその武力戦闘に織り込んだかに興味ある問題でなければならぬ。
吾人は本書に於て右に掲げたるが如き諸問題即ち世界に於ける民族闘争の種々相と文化戦の譜形態を考察し、以て我が総力戦遂行上の一参考資料孝たらしめんことを期したる次第である。
昭和十七年秋 訳編者
目 次
第一篇 シューマッヘル 思想戦(政治的精神闘争)
一、現代に於ける思想戦の重要性
二、思想戦の歴史
三、思想戦の対象と方法
四、思想戦の心理的作用範域
五、思想戦の目標
六、思想戦の指導機関
七、思想戦の戦術
八、思想戦の手段
第二篇 フムメル 民族闘争に於ける文化(諸民族間の政治的文化戦)
一、政治的文化闘争の意義
二、言語を繞る文化闘争
三、学校教育を繞る文化闘争
四、政治的文化闘争に於ける宗教
五、政治的文化闘争の手段としての学術
六、政治的文仏闘争の手段としての藝術
七、政治的文化闘争の対象しての民族的文化財
第三篇 ツューマッヘル 世界諸民族の政治闘尊に於ける行政の役割(行政的闘争の戦賂)
一、行政的闘争の意義
二、行政的闘争の攻撃武器としての人事政策
三、行政的闘争に於ける組織的方法
四、行政的闘争の防禦手段
五、行政的闘争に於ける首都の位置
六、結 語
第四篇 シッツルミンガー (政治的宣伝に於ける合言葉・切手・流行の役割)
一、政治的宣伝の諸形態と群集心理(原著序文)
二、政治的宣伝の手段して合言葉
三、政治的宣伝の補助手段としての切手
四、政治的志向の示威及び表現としての流行
第五篇 マルクス主義の反宗教闘争 ソ聯に於ける「戦闘的無神論者同盟」の反宗教宣伝(シュツルミンガー)
序論 マルキシズムの宗教論概要と其の批判
一、ソ聯に於ける無神論宣伝の基礎、任務並びに目標
二、反宗教運動の歴史
三、戦闘的無神論者同盟の組織及び活動
四、特殊の宣伝領域
一、キリスト教国
二、職業別に依る宣伝
三、其の他種々の人々に対する反宗教宣伝
五、結 語
第六篇 ツュツルミンガー ナボレオンの新聞政策
一、宣伝の天才としてのナポレオン
二、プレタン・ド・ラルメー(軍隊情報)
三、宣 言
四、新聞政策
一、将軍時代の新聞政策
二、執政官時代の新聞政策
三、皇帝時代の新聞改革
出文協承認番号 ア 200202
昭和十七年十二月五日 印刷
昭和十七年十二月十日 発行
世界に於ける 民族闘争と文化戦
定価 二圓也
訳編者 野一色利衛
発行者 東京市京橋区銀座二ノ二 上村勝彌
印刷社 東京市麻布区新広尾町三ノ八七 並木順作
発行所 第一公論社 東京市京橋区銀座
振替 東京 六一八八六
電話 京橋 六四七三
配給所 日本出版配給株式会社 東京市神田区淡路町二ノ九