第四四七・四四八合併号(昭二〇・六・二〇)

 勝ち抜く食糧
  
最近の食糧事情
  
新選「夏の七草」
  
山草も決戦食の仲間入り
 新らしい外食券制度        農 商 省
 夏の衛生  蝿、蚊、虱退治    厚 生 省

新選 夏の七草

 日本学術振興会の野生植物活用研究委員会では、本誌二月十四日号で冬から春にかけての野菜不足の時期に際し、十種類の野草を選定してその食用を一般にお薦めしましたが、こゝに夏を迎へるに当り、更に今度は、全国的に何処にでもある極めて普通な夏の野草で、しかも量の多い種類七つを選び、これを春の七草や秋の七草の例に傚ひ、あらたに「夏の七草」といふ名をつけて、一般にその食用をお薦めすることに致しました。この前におすゝめしたアザミの類、ノビルの類等は夏になつても利用が出来ますし、クヮンザウの類は暑くなると百合に似た綺麗な花が咲いて、この花も茹でて三杯酢や煮物にするとおいしく食べられます。この度は生のものだけでなく、乾燥品や粉末として、冬その他の不時の用にも役立たせることをもお薦めして置きました。この目的の為にはこゝに選定した夏の七草以外にも、例へばフキ、ギバウシ類の葉、草ではありませんがクサギの葉なども十分に適ふものですから、利用して下さい。食生活がいよ/\窮屈になつてゐる現在、この野草の利用にも大いに工夫、努力をすることが大事です。

一、アカザ

 この類は最も普通な夏草で、空地や荒蕪地(あれち)は固より耕地にも沢山に生じ、五六月頃から盛夏(まなつ)にかけて大いに繁茂し、秋近くなると一メートルから一メートル半にも達します。アカザの名称は芽の心が赤い所から出たもので、これが赤くなくて白つぽいものも沢山ありますが、それらはシロザ若しくはアヲザと呼ばれてゐます。アカザでもシロザでも恰好は大体似たもので、茎は成長すると太く硬くなり、枝を出し、これに長い柄のある三角形または菱形の葉を沢山交互につけます。縁には波形の浅い切れ込みがあり、質は柔かで緑色をしてゐますが、白いあらひ粉をふりかけたやうに見えることがあり、特にシロザの若葉ではそれが目立つて見えます。これがアカザの方ですと、若葉の色が紅色の粉をふきつけたやうで、とても美しいものです。また別にコアカザと称するものがあり、アカザやシロザに比べて全体が小柄で、手ざはりも一層柔かであり、葉は緑色で質が薄く、形が長目で切れ込みが深いので区別することが出来ます。挿図の右下に一枚書いた葉がコアカザの葉です。アカザの類は何れも味がよく、何の癖もなく、ハウレンサウに似た風味があり、そのまゝ茹でるなり、いためるなりして浸し物、和へ物、汁の実等に最も適し、殊に茹でりまたはいためたりしたのを御飯にまぜて食べると非常においしく、これで飯の量を増し、栄養を高めることが出来ます。茹でる時には水を少な目にして蒸すやうば要領にすれば養分が逃げず、また燃料の節約にもなります。なほ、炒める際には少量の塩を加へます。アカザやシロザは秋になつて枝上に小さい実が出来る頃まで相当長期に亘つて用ひられる特点がありますが、コアカザの方は利用期間が短いのが欠点です。但し茹でた時の美しい緑色はコアカザの方が優つてゐます。秋にはアカザの実を集めて油でいり、味噌醤油で煮るとおいしい変つた食べ物が出来ます。また秋になつてアカザの葉が多少かたくなつたと思ふ時は、鍋または焙爐(いりなべ)にかけて揉み、粉末とし、塩を加へて振りかけを作ると非常においしく、これは青物貯蔵の一法となり、冬場のビタミン不足を補ふ一助として絶好のものです。また葉をそのまゝ乾して貯へて置いてもよいのです。