第四四六号(昭二〇・六・六)
戦時教育令の解説 文 部 省
七生報復あるのみ 下村 宏
国民義勇隊問答
農村防空体制の確立 農 商 省
戦時教育令の解説
宣戦の大詔を拝してより茲に三年有半、わが忠勇なる陸海将兵の奮戦力闘は克く皇國神武の精髄を中外に宣揚する所あつたが、巨大なる物量を以てする敵の反撃また漸く増大し来り、加ふるにドイツの潰滅に伴ひ、欧州情勢は茲に急転を告ぐるに至つた。かくて独り大東亜に毅然たるわが邦に対し、敵の全攻撃力の集中することも必至の情勢となり、既に危急なる戦局は更に深刻緊迫の度を加へ、皇國の存立、東亜の保全、ふたつながら危殆に瀕し、世界の道義また地を払はんとしてゐる。
この重大なる秋に際し、畏くも青少年学徒に賜はりたる勅語奉戴日の記念すべき五月二十二日に、國體の本義、教育の大本に基づき戦時教育令を御公布あらせられ、戦時における教育の目標を閘明せらるゝと共に、教職員及び学徒の使命を昭示し給ひ、大東亜戦争に際しその嚮ふべきところを諭示し給うたのである。聖慮洵に深遠、恐懼感激に堪へざるところである。
戦時教育令は殆んど異例とも申すべき特別の御上諭を拝して、本令御制定の由来を紹述せられ、恐れ多くも戦局の危急に臨み 陛下親しく忠誠純真なる青少年学徒の奮起を嘉し給ひ、而して更にその奮起に期待あらせられ、いよ/\その使命達成に邁進せしめんとの優渥なる思召しに出づるものである。
この有難き 陛下の御信任を恭ふし、この任を与へられたる教職員学徒はもとより、苟も文教に携はるものにして、この光栄に恐懼感激、決死以て君恩に報い、狂瀾を既倒に回(めぐ)らさんことを誓はざるものがあらうか。
次ぎに今回制定されたこの戦時教育令の内容を問答体で解説を試みることにしよう。
戦時教育の大本
問 戦時教育令の要旨はどんなことか。
答 上諭及び第一条第二条において、戦時における教育の目標並びに教職員及び学徒の使命が明示されてゐることである、第三条以下はその使命達成に必要なる具体的実施方法を規定したもので、第三条は戦時におえkる教職員及び学徒の使命を達成せしめる方法として学徒隊を組織することを規定し、第四条は動員の強化に伴ふ学校教育の特別措置を規定し、第五条は戦時教育実施に伴ふ特別措置としての卒業認定に関し規定したものである。第六条は外地の関係につき規定したものである。以上が本令の大体の要旨である。
問 学徒隊の性格はどういふものか。
答 学徒隊は全国の青少年学徒の総力を結集して、戦時に緊切なる要務に挺身せしむると共に、戦時に緊要なる教育訓練を行ふ組織である。
問 戦時に緊切なる要務とはどんなものか。
答 食糧増産、軍需生産、防空防衛、重要研究等の要務である。
問 戦時に緊要な教育訓練とは何か。
答 軍事に関する教育、生産技術に関する教育、防空防衛に関する教育等である。
学徒隊の組織に関する事項
問 学徒隊組織の大綱はどんな構想か。
答 教職員及び学徒を以て学校毎に組織する場合、地域毎に学徒隊の連合体を組織する場合、職場毎に組織する場合の三本建である。学校、地域及び職場の学徒隊の構成は別表の通りである。
問 学徒隊は教職員及び学徒を以て組織することになつてゐるが、その場合、教職員及び学徒の範囲はどうか。
答 教職員中には講師、事務職員を含むのである。雇傭人も教職員に準じ学徒隊に入れて差支ない。
本令において学徒は国民学校の児童、青年学校、中等学校、師範学校、高等専門学校等の生徒、大学の学生をいひ、朝鮮、台湾、関東州及び満洲国並びに南洋群島にも及ぶことになつてゐる。陸海軍の学校、学習院その他各省の養成施設は除外される。
問 学校毎に学徒隊を組織する場合、学徒隊長には誰がなるか。
答 勿論学校長がなる。
問 学徒隊は如何なる方針で編成するか。
答 学徒隊は要務への挺身の組織であると共に教育訓練の組織であるから、原則として学部、学科、学年、学級等を単位として編成する。但し特技隊その他、学年、学級等に依らざる編成が必要な場合には特別な編成をなすことが出来る。
青年学校及び国民学校については部落、字等の地域単位の組織をも考慮して編成し、地域的な青少年活動の活溌な展開を期待する。学徒隊は必要に応じ大隊、小隊、班等に分つことになつてゐる。
問 学徒隊を大隊、中隊、小隊、班等に分つ場合の基準があるか。
答 大隊の基準は五十名程度を以て小隊とし、学級を単位に小隊を編成する。小隊を班に分ち、班は十名乃至十五名程度とする。三乃至五小隊を以て中隊を編成する。中隊は学年を単位に編成する。三乃至五中隊を以て大隊を編成する。以上は大隊の基準であるから、職場の生産事情に即応し且つ教育訓練に便利な組織であれば結構である。
問 大隊、中隊、小隊、班等の長は誰がなるか。
答 教職員及び学徒の中から適任者を選定し、学徒隊長が命ずる。
殊に職場学徒隊においては、上級学校の学徒が下級学校の、または上級学年の学徒が下級学年の小隊長、中隊長、班長等になることも結構である。
問 一学校の学徒隊のみが職場に挺身した場合、何故職場学徒隊を組織しないか。
答 学校の学徒隊がそのまゝ職場の学徒隊となるから、改めて職場学徒隊を組織する必要がないからである。
問 職場学徒隊を組織する理由は何処にあるか。
答 学校が同一の職場に挺身した場合、学徒の教育訓練実施の上からも、生産遂行の上からも、生活指導、作業指導の面からも一元的な強力な組織が必要であるからである。
問 二校以上が同一の職場に挺身した場合、原則として職場学徒隊を組織することになつてゐるが、例外はないか。
答 それは例へばある。挺身してゐる学徒数が大体五十名以下の職場、または挺身期間が三十日未満の場合、その他要務の性質により職場学徒隊を組織する必要がない場合等である。
問 職場学徒隊の隊長及び副隊長を選任する場合、どんな資格が必要か。
答 学徒隊長は学校長の中より、副隊長は教職員(学校長を含む)の中より地位、年齢、閲歴等の如何に拘はらず、真に隊長として隊員を指揮統率し得る実力ある人物であることが選定条件である。
問 職場学徒隊における学校長の地位はどうなるか。
答 職場学徒隊の参与として学徒隊の指導に参画する。
学徒隊の運営に関する事項
問 職場学徒隊の運営上特別の組織を考慮してゐるか。
答 学徒勤労部課及び学徒勤労協議会が設置されることになる。
問 学徒隊運営の根本精神はどこにあるか。
答 戦時教育令の趣旨を体して尽忠の精神に徹し、互に切磋琢磨し、自発能動の精神を発揮せしむるやう指導することが肝要である。
問 学徒隊の挺身及びその停止は誰が命ずるか。
答 大学高等専門学校の学徒隊に関しては文部大臣、中等学校以下の学徒隊に関しては地方長官が行ふことになつてゐる。但し緊急を要する場合には上級の隊長が直属の隊長に命令することが出来る外、学校長自らも命令し得ることになつてゐる。
問 学徒隊の挺身を申請する場合の手続はどうするか。
答 要務の性質、場所、期間、員数を明記して、大学高等専門学校の学徒隊の場合には文部大臣に、中等学校以下の学徒隊の場合には学校所在地の地方長官に申請する。
問 学徒勤労令との関係はどうなるか。
答 学徒勤労令に規定された要務に挺身する場合には学徒勤労令の規定に依り挺身する。但しこの場合、学校報国隊としてでなく学徒隊として挺身することになる。
問 青年学校及び国民学校初等科の学徒隊は学徒勤労令の適用を受けないが、これらを動員する場合の手続はどうするか。
答 先程申述べた通り一般原則によるわけである。即ち原則として地方長官が命令する。緊急の場合には上級隊長である都市の学徒隊長または学校長が挺身を命ずる。
問 学徒隊の挺身の停止を命ずる場合は如何なる場合か。
答 要務の内容に変更を来し、学徒隊の挺身を継続する必要はないと認められた場合、及び要務実施の諸条件が適正を欠き戦時教育令の本旨に悖ると認められる場合であり、この停止は関係機関と協議の上行ふことになつてゐる。
問 学徒隊の行ふ教育訓練の指導監督は誰が行ふか。
答 大学高等専門学校の学徒隊については、職場学徒隊の場合でも文部大臣が行ひ、中等学校以下の学校の学徒隊については学校所在地の地方長官が行ふことになる。
問 学徒隊の指揮命令は誰が行ふか。
答 学徒隊の指揮命令を行ふものは学徒隊長であるが、上級の学徒隊長は直属の学徒隊長を指揮命令することが出来る。
文部大臣または地方長官は監督官庁の立場において、直属でなくても何れの学徒隊長をも直接指揮命令出来る。但し職場学徒隊に関しては当該職場の所在地に地方官のみが指揮命令をなし得ることとし、職場学徒隊の上級隊長である都道府県学徒隊長の指揮命令が二途に出ないやうにしたわけである。従つて職場学徒隊については、一般的事項に関しては当該職場の所在地の地方長官が指揮命令を行ふが、学徒隊の挺身及びその停止並びに教育訓練の指導監督は学校所在地の地方長官が行ふことになつてゐる。
問 職場学徒隊の作業上の指導は誰が行ふか。
答 討議職場の責任者が行ふことになつてゐる。
問 工場等における青年学校学徒隊は職場学徒隊の構成分子になるか。
答 工場等の青年学校学徒隊は学徒隊が要務に挺身してゐるといふよりは寧ろ雇傭契約に基づき勤労に従事してゐると見るべきであるから、職場学徒隊の中には入らない。
問 職場学徒隊の結成に伴ひ職場における青年学校学徒隊の教育訓練の指導には変更はないか。
答 職場における青年学校学徒隊長は教育訓練に関しては職場学徒隊長の指揮を受けることとし、職場における学徒隊の教育訓練の一元的教化を図つたわけである。
学徒隊と大日本青少
年団及び学校報国団
問 学徒隊結成に伴ひ、大日本青少年団はどうなるか。
答 大日本青少年団は発展的に解散し、その事業は学徒隊に継承されることになつた。然し青少年団の特性を活かすやうに組織運営上考慮されている。
問 青年学校生徒ならざる青年団員はどうなるか。
答 出来るだけ青年学校の本科、研究科、専修科に入学せしめ、青年学校生徒として指導して行きたい。
問 青年学校の教職員に非ざる指導者はどうなるか。
答 適当な者は青年学校又は国民学校の教職員に切替へ、従来の体験を活かし青年学校及び国民学校の学徒隊の指導に当らしめたい。
問 市町村長が青少年団長であつたが、今後はどうなるか。
答 青年学校及び国民学校の名誉隊長となることになつてゐる。
問 青少年団の単位団や事務局の財産関係はどうなるか。
答 単位団の財産は学徒隊の後援機関を設置してそれに引継ぎ、今後の学徒隊活動を円滑ならしめたい。事務局は今後設置を予想せられる中央地方を通じての学徒隊に関する指導機構の中に吸収されることと思ふ。
問 青少年団の団旗やマークはどうするか。
答 資材不足の折柄、学徒隊に関する隊旗やマークを新たに作製することも容易でないから、従来の団旗、マークはその儘使用しても差支ない。
問 学徒隊結成に伴ひ、学校報国団はどうなるか。
答 学校報国団の学校報国隊は解散するが、学校報国団は学徒隊の福利厚生教養援護の団体として存続せしめる。
従つて学校報国団費の徴集は差支ない。
学徒隊と国民義勇隊
との関係
問 学徒隊と国民義勇隊との関係はどうなるか。
答 学徒隊は国民義勇隊と別個の組織であるが、一面その組織(但し国民学校初等科を除く)以て国民義勇隊となる。従つて学徒隊に入つてゐれば、地域職域の国民義勇隊に入る必要はないわけである。この場合、学徒義勇隊と呼称する。
指揮系統に関しては、青年学校学徒義勇隊及び国民学校学徒義勇隊は市町村の国民義勇隊長の指揮を受け、中等学校以上の学徒義勇隊は都道府県の国民義勇隊本部長の指揮を受けることになる。
なほ職場学徒義勇隊はその職場においては該当職域国民義勇隊長の指揮を受けることになる。
学徒隊は学徒義勇隊としてそのまゝ戦闘隊に転移し得ることになる。
学校教育の特別措置
問 学校教育の実施に関する特別の措置とはどんなことか。
答 教科課程または学科課程、授業日数、授業時数等につき重点的または機宜の措置を講ずると共に、短期間に所要の課程を集約して課する等、教育の内容及びその方法につき弾力性と機動性を発揮し得る措置を講じ、決戦教育の実施に関し遺憾なきやうにしたわけである。
問 卒業認定とはどんなことか。
答 令第五条の卒業認定は修業年限は短縮せずに特別の場合に個々に卒業認定を行ふ趣旨である。即ち召集、徴集等の事由に因り陸海軍の軍人となつた場合、戦時に緊切なる要務に挺身して死亡しまたは傷痍を受け修学困難となつた場合は最高学年在学者は卒業と認められる。また最高学年在学者でなくても、抜群の功績があり学徒の亀鑑となるべきものは、特に二階級特進の意味で卒業認定をなし得るやうになつてゐる。その他医学等の如く戦時に緊要なる専攻学科を修むる者にして在学年限または修業年限内の一定期間内に所定の課程を修めたものは卒業が出来るやうになつた。
学徒隊結成の時期及
び暫定措置
問 学徒隊結成の時期は何時までかゝるか。
答 出来るだけ早く完了せしめたいと思ふ。遅くも六月下旬には完了の見込である。
問 学徒隊結成までの暫定措置はどうするか。
答 学徒隊結成完了までは大日本青少年団及び学校報国団の活動を存続せしめ、青少年学徒の活動を一時的にも渋滞せしめない方針である。
(文部省)