文部省教学局編纂

日本諸学研究報告 第五編  (経済学)

 

 日本諸学振興委員会は國體、日本精神の本義に基き我が国諸学の発展振興に貢献し、延て
教育の刷新に資するの目的を以て昭和十一年九月八日文部省訓令による規定に基き設置せ
られたもので、其の目的達成の為順次諸学の学会竝公開講演会を開催する事になつてゐる。
 本委員会はその第一回事業として教育学会竝同公開講演会(昭和十一年十一月)、第二
回として哲学会竝同公開講演会(同十二年十月)、第三回として国語国文学会竝同公開講
演会(同年十一月)、第四回として歴史学会竝同公開講演会(同十三年六月)を夫々開催し、
第五回として経済学会竝同公開講演会を十三年十月六日より八日まで三日間開催した。
 本報告は右経済学会竝同公開講演会に於ける研究発表及講演の速記を印刷に附したもの
である。
 尚参考の為日本諸学振興委員会規定竝職員、学界日程、公開講演会次第を掲げた。

昭和十四年三月

                       教 学 局

 

日本諸学振興委員会規定 (昭和十一年九月八日文部省訓令)

 (略)

日本諸学振興委員会職員 (昭和十三年十月現在)

委員長 教学局長官 菊池豊三郎
常任委員 文部省専門学務局長 山川建
       教学局部長 阿原謙蔵
       教学局部長 葛西千秋
       教学局教学官 孫田秀春
       東京帝国大学教授 土方成美
       同           和辻哲郎
       京都帝国大学教授 作田荘一
       同           田辺元
       同           西田直二郎
       同           植田寿蔵
       九州帝国大学教授 長沼賢海
       神戸商業大学教授兼京都帝国大学教授 斉藤常三郎
       東京文理科大学教授 篠原助市
       鹿島文理科大学教授 西晋一郎
       国民精神文化研究所員 紀平正美
                       高楠順次郎
                       筧克彦
                       黒坂勝美
                       宇野哲人
                       辻善之助
                       吉田熊次
                       藤村作
                       吉沢義則
                       深作安文
 (以下略)

 

 

 

日本諸学振興委員会研究報告 第五篇(経済学) 目次

◎ 学会

挨拶   文部大臣 男爵 荒木貞夫

○ 研究発表 (五十音順)

 ○ 午前の部 (発表一人二十五分以内)

防共政策の基礎づけ 神戸商業大学教授  五百籏頭真治郎 (1894-1958)

我が國體と経済学  京都帝国大学教授経済学博士  石川興二(1892-1976)

日本貿易の伸展性に関する一研究  東京商科大学教授  猪谷善一 (1899-1980)

西洋経済学に於ける反省  高岡高等商業学校教授  大熊 信行 (1893-1977)

我が國體と経済組織  立命館大学教授  太田義夫

徳川時代百姓一揆の継起性  京都帝国大学教授経済学博士  黒正巌 (1895-1949)

日貨ソシヤル・ダンピング論に現れた白人本位の経済理論  高橋経済研究所長   高橋亀吉 (1894-1977) 

国家と経済  慶應義塾大学教授 竹村忠雄

日本経済学の建設と日本精神  京都帝国大学教授兼九州帝国大学教授経済学博士  谷口, 吉彦 (1891-1956)

世界経済に於ける日本の発展の基調 三菱経済研究所常任理事  長岡徳治

国家主義と其の経済原理  早稲田大学教授経済学博士  林癸未夫 (1883-1947)

制度派経済学の批判  関西学院大学教授経済学博士 古屋美貞(1893-)

統制経済の精神  東京帝国大学教授経済学博士  本位田祥男(1892-1978) 

日本経済史研究の発展  京都帝国大学教授経済学博士  本庄栄治郎(1888-1973)

経済学の国民的性格  大阪商科大学教授経済学博士  堀経夫(1896-1981)

日本財政学の可能と任務  九州帝国大学教授  三田村一郎

計画経済に見落とされてゐる基本問題  国民精神文化研究所員 山本勝市(1896-1986)

 ○ 午後の部 (発表一人十五分以内)

国家と経済の関係から見た純粋経済学批判  文部省督学官  大畑文七(1898-)

商業の本義  大阪市教育部長経済学博士  菅野和太郎(1895-1976)

報徳経済学  国民精神文化研究所員 小出孝三(1907-)

事変下の農業問題を主題として 東京帝国大学助手  崎村茂樹

世界経済に於ける日本の発展の基調 三菱経済研究所主幹 佐倉重夫

統制経済の基礎 青山学院講師 笹尾洋二郎

純粋経済学と日本国民経済学との距離 京都帝国大学助教授 柴田敬(1902-)

勢力説に於ける存在拘束性 京都帝国大学教授 文学博士 高田保馬(1883-1971)

國體と経済 -- 皇道経済の要領 --  大阪商科大学教授 経済学博士 川崎仁義

豊臣秀吉の農民政策 東北帝国大学助教授 中村吉治(1905-1986)

国家と経済 東京帝国大学助手 難波田春夫(1906-1991)

日本精神に於ける富文武三道 北海道庁立倶知安中学校長 藤井幸永(1897-)

日本国防経済の世界史的意義 前関西大学教授 古川武

経済価値の統制 関西大学教授 経済学博士 正井敬次(1883-)

国民経済学に於ける目的論的考察 名古屋高等商業学校教授 宮田喜代蔵(1896-1977)


◎ 公開講演会

挨拶 文部大臣 男爵 荒木貞夫(1877-1966)


○ 講演

日本経済学への道 東京帝国大学教授 経済学博士 土方成美(1890-)

現代国学としての日本経済学の原理 京都帝国大学 経済学博士 作田荘一(1878-)

時局下の経済問題 日本商工会議所理事 経済学博士 木村増太郎(1884-)

時局と経済学 慶應義塾大学総長 経済学博士 小泉信三(1888-1966)

 

学会挨拶

文部大臣男爵 荒木貞夫

 本日茲に日本諸学振興委員会第一回経済学会が開催されるに当りまして、聊か所懐の一端を披瀝して御挨拶と致したいと存じます。
 御承知の如く世界は今や一大転換の期に際会致して居ります。即ち今回の事変は新なる世界秩序創造の契機として、真に世界史的意義を有するものでありまして、亜細亜の盟主たる我が国は今や世界の日本として、極めて重要なる動きを示して居るのであります。昨夏事変の勃発致しましてより既に一年有余、外にありましては忠勇武烈、皇軍の進むところ戦争の成果は愈々揚り、中外ひとしく其の威武を仰ぎ、内にありましては協心戮力、銃後赤誠の昂まるところ国民の総力は益々結晶して、必勝の意気高く、漢口の攻略も将に成らんとして居るのでありました、着々征戦の目的貫徹に邁進しつつありますことは、寔に力強き限りであります。而して之れ偏に 天皇陛下の御稜威によりますものでありまして、恐懼感激に堪へない次第であります。
 今や時局は長期戦体制下に、愈々其の重大なる意義を示しつゝありまして、緊迫せる世界の情勢又楽観を許さず、諸般に渉り、国民の覚悟を要求するところ極めて大なるものがあるのであります。就中、国家の経済問題の如きは其の最も重要なるものの一つでありまして、我等国民は当に事変と経済との重大なる関係を洞察致しまして、挙国一致、国の総力を挙げて時艱を克服する覚悟の下に、諸種の方策を講じ、又大いに経済力の拡充強化を図らねばならないのであります。是れ即ち当面武力戦遂行の為のみならず、今後の国力を充実し、飛躍的発展の基礎を培養する所以であります。
 惟ふに、経済は決して単なる物質自然的のみの現象ではありませんので、確固たる精神を俟つて始めてその真義を発揚し、一国発展の力ともなり得るのであります。窮乏に喘いだ大戦後の独逸が、

(略)

 

研究発表

 

防共政策の基礎づけ  神戸商業大学教授 五百旗頭真治郎

 (略)