第四四九号(昭二〇・六・二七)

 本土新戦場への覚悟        大本営報道部
 主要列車改正時刻表
 決戦下の乗車心得

本土新戦場への覚悟   大本営報道部

沖縄決戦の勝機逸す

 去る三月二十三日、敵機動部隊がわが
南西諸島海面に出現以来、今日まで三ヶ
月間に亘る「沖縄の攻防戦」は、文字通
り陸、海、空を殉血に染め尽したすさま
じい「全軍特攻」の決戦であつた。
 そしてその「全軍特攻」の尊き犠牲に
おいて、わが航空部隊並びに水上部隊が
収めた戦果は、敵艦船の撃沈破実に六百
責に達し、地上部隊の戦果は、既に敵兵
八万名を出血せしめるといふ圧倒的なも
のであつた。従つて敵の蒙つた打撃が、
如何に甚大なものであつたかは言ふまで
もない。即ちわが航空、水上部隊が収め
た確認せる戦果のみより見ても、沖縄作
戦開始当時における敵海上保有兵力の
 航空母艦及び巡洋艦      約五割
 特設航空母艦及び戦艦     約二割
 駆逐艦             約二、五割
 艦種不詳             百数十隻
に及ぶ莫大量を屠つてゐるのである。
 しかし、かくの如き艦船と兵員の莫大
なる損耗にも拘はらず
 一、敵は次ぎから次ぎへと後続兵力を
  投入し、なかんづく航空基地の獲得
  に全力を集中、沖縄本島北、中両飛
  行場、伊江島飛行場等の「沈まざる
  陸上基地」獲得によつて「沈む航空
  母艦」の喪失を補填し
 一、これに対しわが方また全力を傾注
  して航空兵力の補給に努めたるも、
  夥しき消耗量を補填するに十分な
  らず
 一、その結果、彼我航空兵力の優劣懸
  隔は次第に顕著となり、遂に遺憾な
  がら制空権は敵の掌握するところと
  なり
 かくてわが方は、敵機動部隊撃滅の乾
坤一擲の勝機を空しく逸し去つたのみな
らず、沖縄本島地上部隊への補給増援も
極めて困難となつたのである。
 これに反し敵は制空権、従つて制海権
の獲得によつて沖縄本島への兵力投入を
増強し、その結果沖縄本島のわが地上部
隊は、屍山血河の勇戦にも拘はらず、逐
次押され気味となり、五月下旬に至りて
首里--那覇の戦線を撤収、六月に入るや
小禄地区また敵の蹂躙するところとなり
遂に六月二十日、沖縄方面最高指揮官牛
島満中将は敵主力に対し、全戦力をあげ
て最後の攻撃を実施したのである。

敵は本土上陸を指向

 元来、敵の沖縄作戦の狙ひが、先づ同
方面に有力なる空軍基地を設定すると共
に、艦隊泊地をも併進せしめ、それによ
つて
 一、沖縄、マリアナ、硫黄島の三空軍
  基地相策応してわが本土に対する爆
  撃作戦を強化し
 一、沖縄を泊地とする空母兵力、潜水
  艦等をもつて、わが本土に対する南
  洋、大陸よりの資源補給を完封し
 一、しかして以上の爆撃、封鎖両作戦
  の併進によつて、わが戦力の弱化す
  るを俟つて一挙に本土上陸の最終作
  戦を強行し
対日戦争の完遂を企図せんとするにある
ことは極めて明白である。従つて将来敵
の爆撃並びに封鎖の作戦が、こゝに規模
と頻度において益々深刻化することは火
を見るよりも明らかである。
 欧州戦争の最終期においては、敵のド
イツ本土に対する爆撃は連日延八千機に
達してゐる。敵は欧州戦終結を契機とし
て、その在欧兵力を挙げて対日戦に転用
すると称してゐるが、もとより敵の在欧
空軍一万数千機が、そのまゝ右から左へ
廻し得るものでないことは言ふまでもな
い。しかし、兎に角相当な空軍兵力が対
日戦に参加することは十分予想せねば
ならぬ。故に爆撃の如きも単に軍事
施設とか船舶、港湾、交通、工場、
都市のみに限らず、恐らく山間僻地
の農山漁村にまでも加へられ、わが
皇土全域は殆んど完膚なきまでに
空爆の試練を蒙ることであらう。
 空爆の実状については、既に国民全体
が直接、或ひは間接に体験した如く、そ
の惨禍はもとより甚大である。しかし
如何に強烈な敵の爆弾や、焼夷弾を
もつてしても、絶対に破壊し得ない
ものは、父祖三千年来の伝承に生き
る一億の闘魂である。そしてわれわ
れはこの三千年来の闘魂を、焦土に
起上つた同胞の眉宇に既にはつき
りと看取することが出来たのであ
る。
 またわれ/\は敵弾を浴びて破壊され
た幾多の工場を目撃したし、従つてその
結果がわが生産力の上に影響なしとは誰
しも断言し得ぬであらう。しかし爆撃に
よる生産力の低下を過大評価するものあ
りとせば、われ/\は即座に、山村へ、
僻地へと運ばれる工作機械の奔流を指さ
ねばならぬであらう。また現に渓谷に
こだまする電動機の咆哮と、そこに群集
する産業戦士の敢闘が果して何を物語つ
てゐるかを訴へねばならぬであらう。そ
して然る時、われ/\は敵襲による生
産破壊を嘆ずる前に、力強き生産再
建の確信を感得するのである。
 しかも爆撃そのもののみによつて国家
が敗れた例はないのである。英国も、ソ
連も、緒戦においてはドイツ空軍の圧倒
的爆撃を蒙つて満身創痍となりながらも
決して潰滅しなかつたのみならず、その
破壊されたる生産力をもつて英国や、ソ
連は逆にドイツを屈服せしめ得たのであ

・・・・・・・(印刷ミスか?この部分不明)・・・・・・・

のみによつて、崩壊し去つたものではな
く、最後の瞬間において呆気なき敗北を
齎したものは、実にゲルマン民族の戦
意喪失による国内崩壊の結果であつたの
である。
 「最後の勝利は最後の五分間を戦ひ抜い
たものが獲得する」と米内海相は喝破し
ている。そしてその「最後の五分間」を
戦ひ抜く最大の武器が国民の闘魂にある
ことは、盟邦独・伊がわれ/\に苦き戦
訓を遺してゐるのである。

日本的特攻戦備あり

 沖縄戦局の一段落を宣伝する敵は、早
くも「東京進軍」を頻りに豪語しはじめ
てゐる。敵が果して何れの地点に上陸し
来るかは軽々しき予断を許さぬが、何れ
にしても戦局の段階が「沖縄決戦」から
「本土決戦」へと移行し来つたことだけは
正に疑ひの余地なきところである。従つ
てわれ/\は、敵が何時、如何なる場所
に侵襲し来るとも、絶対悔ひなき戦備と
狼狽なき覚悟を堅持せねばならぬ。

・・・・・・・(印刷ミスか?この部分不明)・・・・・・・

深く秘められたことであらうし、そし
てまた大日本帝国の必勝を確信せぬ者は
一人とてもないであらう。しかし若し愛
国の至情迸しるところ戦局の前途に一抹
の不安を抱く者あらば、われ/\はこゝ
に虚心坦懐に「勝つ途」を共に探求せね
ばならない。そして「勝つ途」の探求は
ガダルカナル以来ニューギニア、マリア
ナ、比島、硫黄島、沖縄へと「押返され
た足跡」への赤裸なる反省に発足せねば
ならぬ。
 緒戦におけるあの輝かしき「ソロモン
への攻勢」にも拘はらず、爾来四ヶ年に
亘つてじり/\と押返され、遂に「本土
の防戦」へと戦勢を逆転せしめたのは何
故かといへば、それは
 一、戦場遠く本土より離れてをり、た
   めにこれが補給路余りに長大にして
   兵力補給を意の如く行ひ得なかつた
   こと
 一、わが生産力なかんづく航空機生産
   量が、戦線の消耗量を十分に補填し
   得なかつたこと

・・・・・・・(印刷ミスか?この部分不明)・・・・・・・

る。
 即ち敵は我に数倍する長遠なる補給線
を持ちながら、その補給線の長遠化に伴
ふ莫大なる損耗の不利を、補給物量の圧
倒的尨大量によつて補填し、その補給線
の末端においてなほ且つわが戦力を制圧
したのである。従つて補給線の長短より
生ずる彼我戦略態勢の優劣は、彼我の補
給量を正確に認識せずしては決して軽断
を許さぬのである。
 この故にいま本土決戦に臨むわが戦略
態勢を、依然補給線の長短のみより論ず
ることは固より危険である。しかし補給
線より見たる本土の国防地理的戦略態勢
の優位性が、ソロモンや、マリアナや、
比島、或ひは沖縄の場合と同日の談ではな
いことだけは、この際明確に指摘されね
ばならぬ。何故かなれば、ソロモンや、
マリアナや、比島の場合においては、敵は
固より五、六千浬の長大なる補給線の
不利を甘受せねばならなかつたのである
が、我も亦たとひ敵の数分の一ではある
のしても、とに角一、二千浬の補給線を
克服せねばならぬ苦悩があつたし、また
沖縄の場合においてもなほ且つ九州を去
る六百粁の洋上孤島の戦ひであつたから
である。
 ところが本土決戦においては、わが本
土の飛行場は、そのまゝわが空軍特攻隊
や神雷特攻隊の「第一線基地」となり、
またわが本土の港湾はそのまゝ神潮特別
攻撃隊や、水上特別攻撃隊の「最前線根
拠地」となつたのであつて、かくてわが
補給線は戦場を本土に迎へた現段階にお
いては既に「零」となつたのである。し
かるにこれに対して敵は本国を相去る実
に「一万浬」の長遠なる補給線の末端に
おいて、我に対抗せねばならぬのであつ
て、わが補給量はたとひ敵に遠く及ばず
と雖も、かくの如き圧倒的優位にあるわ
が地理的戦略態勢をも、なほ且つ活用し
得ぬ程に無力なものでは、絶対にないので
ある。
 更にまた生産面より見るも、わが戦略
態勢は極めて有利であるといはねばなら
ぬ。何故かなれば、日本は幸ひ四辺海を
もつて囲まれてをり、従つて敵がわが本
土へ侵入するには海路を艦船による以外
にはないのであるから、われ/\は航空
機をもつて敵の来寇艦船を叩き潰しさへ
すればよいのである。 
 しかも我には敵の絶対追従し得ない、
「空の特別攻撃隊」などがある。従つてこ
れを決戦兵器の生産面より見れば、敵巨
艦一隻の建造に要する期間「数ヶ年」と
その経費「数億弗」に対し、われは特攻
機一機の生産に僅かに「数日」と、「数万
円」を要するに過ぎぬ。またこれを彼我
戦力消耗の面より見れば、敵一艦の搭乗
員「数千名」と、物量「数万噸」の損失
に対し、われは僅かに一機の搭乗員「一
名」と、爆薬「一噸」を喪ふに過ぎぬ。
従つてこれを決戦兵器生産量の点より見
るも、わが「一機一艦」戦法によれば、
われは敵の来寇艦船の数と同数の特攻機
さへ常備すればよいとも極論し得るので
ある。
 故にかくの如くに考へて来れば、敵が
たとひ空軍並びに潜水艦等によつて南方
や大陸資源の、わが本土への搬入を完封
するとしても、或ひはまた今後大規模な
る空爆によつて、わが本土の生産施設に
相当の損害を与へるとも、それ位のこと
で絶対優位に立つわが生産戦略態勢が根
底より崩壊するが如きことは断じてない
筈である。
 そしてこの地理的戦略態勢の優位を、
敵の追随を許さぬ特攻戦法によつて活用
する時に、わが有利なる生産戦略態勢が
依然作戦部面の要請に応じ得ぬ筈は絶対
にない。即ちそこにこそ米内海相が強調
した「日本的戦備」の可能性と、従つて
敵撃滅の戦力が明白に発見されるのであ
る。

我に勝利の確算あり

 しかして、かくの如き日本的特攻戦備
をもつて、敵がわが本土に侵襲し来らば、
わが「空の特別攻撃隊」はこれを海上に
おいて屠り、若し免れて上陸し来らば、
その時こそは阿南陸相の断言する如く、
「未だ戦はんと欲して戦ひ得ざりしわが
陸軍主力が控へてゐる」のであり、しかも
その陸軍主力は一億国民の待望に対して
「来るべき本土決戦において赫々たる勝
利の事実をもつて応へる」と、勝算の確
信を力強く披瀝してゐるのである。そし
てかくの如き勝利の確算の因つて来ると
ころを、阿南陸相は「ガダルカナル以来
わが軍は離島において孤立無援、所在兵
力のみをもつて敵全軍の集中攻撃の矢面
に立たねばならなかつた。然し今や本土
決戦においては彼我立場を異にする。今
度こそは我は十二分の準備を整へ、縦長
の兵力をもつて連続不断の攻撃を強行す
ることが出来る」と説き、また鈴木首相
は「本土戦場とならば地の利、人の和、
悉く敵に優ること万々である。即ち我は
優勢なる大軍を所要の地点に集中するこ
とも、これに対する補給も容易に遂行し
得る」と述べ、国民の前に満々たる確信
を端的に表明してゐるのである。
 かくてわが陸、海軍は、既に勝利の確
算をもつて本土決戦の最終作戦を虎視眈
眈と待機してゐるのである。然しこの勝
利の確算は、決して一片の希望的楽観論
や、安易なる他力本願的境地の上に打建
てられたものではない。この勝利の確算
こそは、文字通りなる「全軍特攻」によ
つて、死中に活を求める「必中必殺」戦
法の上にはじめて発見されるものであ
る。
 敵は既に光輝あるわが國體の破壊と、
日本民族の永久抹殺を堂々世界に宣言し
てゐるのであつて、このことは鈴木首相
が「敵の揚言する無条件降伏なるものは
日本一億国民の死といふことである」と
われ/\の前にはつきりと言明してゐ
るところである。即ち若しも本土決戦
に敗れらならば、われ/\一億国民
はこの地球上から永遠に姿を消さ
ねばならぬのである。
 死か、生か、いまわれ/\一億国民は
各自の生命を賭けて、いよいよ本土決戦
の最後の関頭に立つたのである。そして
わが皇軍は既に「全軍特攻隊」となつて、
皇國護持の礎石に殉ぜんとしてゐるので
ある。本土が戦場と化した現在において
は、既に軍、民の区別もなければ、前線、
銃後の距離もない。しかも近代戦は国
民の総力戦である。従つて若し万一にも
この総力戦を傍観する者や、私利貪戻(どんれい)
ために戦争完遂を妨害する者があるとす
れば、それらの人々は意識せると否とに
拘はらず、それこそ恐るべき戦争犯罪者
たるの汚名を永遠に甘受せねばならぬの
である。
 ヒトラー総統は既に祖国防衛の戦線に
斃れ、ムッソリーニ首相また非業の最期
を遂げ、かくて嘗てわが盟邦独伊の巨
星は相次いで地に墜ち、欧州再建の雄図
は達成の前夜において空しく終焉を告げ
た。然したとひ欧州の盟邦が敵の軍門に
降るとも、わが大日本帝国は、大東亜戦
争が日本民族死活の決戦である以上、勝
ち抜くまでは断じて銃を棄てるものでは
ない。
 この期に及んでなほ且つ戦争を
拱手傍観せんとする者や、戦局の重
圧から逃避して一時の苟安を貪ら
うとする者あらば、活眼を見開いて
敗戦諸国の悲惨なる現状を見るべ
きである。然らば戦争に敗れた場合の
苦痛に較ぶれば、戦争に勝つために捧げ
る犠牲くらゐは物の数ではないことを痛感
するであらう。

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版組み段階でミスがあったと思われる。