第四四三号(昭二〇・四・二五)

  皇国隆替の決戦
  大東亜大使会議と桑港会議
  
戦災跡地等で野菜の自作       農 商 省
  港をあげて神風荷役         運輸通信省
  
樟脳で飛ばせ新鋭機        大 蔵 省

戦災跡地等で野菜の自作

主食にも優る野菜の重要性

 戦時下、都市に対して野菜を供給するといふことは、その生産の確保が困難な許りでなく、鉄道やトラツク等の輸送力の逼迫に依つて、非常な影響を受けることは、交戦国、何処の国でも、また何時の戦争の時でも同様で、わが国も「菜食の国」として有名であり、野菜の豊かな国なのですが、やはりこの例に洩れず、最近の不足期には、東京、大阪等の大都市では、一日一人十匁に満たない配給のこともあつたのです。
 今日、食物はもう、主食とか副食とかの区別をする時代ではありませんが、野菜を食べるのは一面、主食といはれる米、麦等と一緒に満腹感を与へ、熱量の源泉となる外に、一緒に食べた米、麦、魚、肉等のやうな他の食物が、栄養分として働くために、無くてはならないビタミンを、これから摂るといふ大きな目的も忘れられないのです。ビタミンにはいろ/\あつて、中には外の食物から摂れるものもありますが、このなかでも、最も大切なビタミンA、B、C、D、Eといふやうな多くのビタミンが、この野菜から摂れるのです。事実、われ/\はこの野菜に依つて、必要なビタミンの過半を賄つてゐるのです。[一字不明]してこのビタミンの必要量はそれ程多くはないのですが、常にきらさずに摂ることが必要なので、このビタミンの補給のために、野菜の供給といふことは極めて大切なことなのです。
 そこで米、麦等と同様に、野菜も是非確保して行く必要があるのです。

疎開跡や戦災地を畑にするには何うするか

都市自給態勢の強化

 野菜の生産は輸送の事情を睨み合せて、なるべく消費都市に近い所で確保するといふことが必要なのですが、しかしその地域の農業の事情や、輸送関係は戦局の進展に伴つてます/\困難となつて来ますので、野菜の供給不足はいよ/\困難となつてくるのです。
 そこで一歩進んで、この決戦下には出来るだけ都市自身で自給することが大切なのです。
 都市では、多くの畑を得ることが困難であり、その上、農業に素人の人が多いので、たくさんのものは生産されないとはいへ、供給の不足の時に、特に空襲等によつて交通が杜絶えた時に、応急に間に合ふものを少しでも持つてゐるといふことは、どんなに気強いことか知れません。
 空襲激化の今日、この備へが、是非必要なことはいふまでもないことです。しかも最近東京都を初めその他の大都市には、疎開跡地や戦災地等が相当に出来ました。これは畑を持たない都市に畑になる所がたくさん出来たわけです。
 そこでこのやうな所には、無為に放置することなく、食糧生産のために早速活用しなければならないのです。
 潰れたコンクリート、散乱するトタン板、赤褐色の壁土、どす黒い焼跡、これら不愉快な跡を一日も早く解消して、青々とした野菜畑にすることによつて、どれだけわれ/\の眼は慰められ、疲れが醫され、それから出来る新鮮な野菜は如何にわれ/\の健康を増進してくれるでせうか。禍を転じて福となす、爆撃によつて戦意を沮喪させんとする敵の意図を破摧して、わが旺盛な戦意を戦災跡地に青々と繁らすのは正に今です。
 疎開跡地や戦災地には、潰れたコンクリートや瓦かけ等が散乱してゐますので、まづこれを取片付けなければなりません。潰れた壁は肥し気がないものですから、取除けるか、深く掘起して、下のよい土と反転しなければなりません。また石炭殻等が厚くなつてゐる所も、同様に反転する必要があります。たゞ、非常に厚い場合には反転出来ず、普通では畑にならないこともあります。
 要するに邪魔物を取除いて、下の土を出し、これを掘起せば、立派な畑といふわけです。其処の情況や場所に依つて、自然、開墾の仕方が違ふことになりませう。

「坪起し」と「条起し」

 邪魔物の少い開墾し易い所は、勿論全面をきれいにして、すつかり畑にするやうにします。隣組、町内会等の近くの所、戦災地の周辺等は、手入れも十分届くのですから、多少骨は折れても、出来るだけよく片付けて、一坪でも多く畑に利用することです。大きな戦災地は附近に利用者も少く、播種後十分な手入れの出来ないことや、またぐづ/\してゐては作付の時期も過ぎてしまふこと等を考へて自然、学徒その他の勤労隊等によつて、極く簡易な開墾により、簡単に片付けられる邪魔物だけを取除いて、其処だけを掘起す、所謂『坪起し』または『条起(すぢおこ)し』のやり方でどしどし開墾するのが一番です。そして、これには丁度かういふやり方で作るのに一番適当な南瓜(かぼちや)をどしどし蒔付けることです。
 かうして畑にした所は、一般に農家の畑のやうに肥えた所は先づないと思つて差支へありませんから、出来れば全体に掘起した所は二--三尺毎に深さ七、八寸程の溝を掘り、「坪起し」をした所は適当の穴を掘つて、これにゴミや藁屑その他何んでも腐るものを投込み(一坪一貫目位)この上から下肥を注いで(一坪一升位)基肥とし、上から土を覆つて、畦を作つて、種を蒔けばよいわけです。
 戦災地等の灰はそのまゝ土に鋤込んでやればよい肥料になります。掘起す深さは大体五--六寸でよいでせう。

何を作ればよいか

 前にもいつたやうに、都市では第一に毎日、普段に必要な野菜、すなはち「青物」といはれるものを作るべきでせう。
 野菜には非常に種類が多いのですが、中でも作り易く早く獲れて、たとひ出来が悪くても獲れるもの--といふと、結局葉もの--体菜、小松菜、不断草等や、根もの--かぶ、人参(三寸人参、五寸人参)、大根といつたやうなものになります。勿論十分手入れの出来る場合には、茄子でも胡瓜でもトマトでも結構です。
 また甘藷馬鈴薯等の藷類は野菜としても用ひられ、同時に主食としても役立つものですから、時節柄大いに作るべきです。
 それから何といつても疎開地、戦災地に一番の作物は南瓜です。これは藷類とよく似て澱粉質が多く栄養に富んでゐて、而も蔓物なので、疎開地や戦災地のやうな邪魔物が多くなかなか全体を畑にすることが困難な所を利用する場合には、全体を掘起さなくとも一坪に一箇所、場合によつては二--三坪に一箇所位の割合で直径二--三尺の所を掘起して床(くらつきと云ふ)を作つてこれに種を蒔いて置けば、他の所はその儘にしても、蔓が一面に伸びてすつかり緑化して、ゴロゴロと成つて一段歩で三百貫位の南瓜が獲れます。 
 尚、これらに次いで玉蜀黍ですが、これは未熟の内にとつて茹でたり焼いたりして食べることをお奨めします。油の補給の為に胡麻大豆菜豆等の豆類等もよいものです。
 もう蒔き時に入りました。次ぎの蒔き時に遅れないやうに一日も早く一坪でも多く畑を作り、野菜を蒔付けようではありませんか。

種類 蒔き時 備考
体菜 四月中 成るべく早く蒔くこと
山東菜 四月中
小松菜 四月中
不断草 八月一杯何時でもまける 今直ぐと六月頃の二回蒔いて置くと年中とれる
時無大根 四月中  
美濃早生
大根
五月乃至八月  
廿日大根 四月中 十五日位を距てゝ二、三回蒔いておくと引続いてとれる
時無小蕪  
三寸・五寸人参 八月一杯何時でも蒔ける 今直ぐと六月下旬の二回に蒔いておくとよい
南瓜 五月一杯 白皮南瓜、鶴首南瓜は六月一杯蒔いてもよい。然し何れも早く蒔く方が収穫がよい
甘藷 五月中旬乃至六月下旬  
玉蜀黍 四月中  
胡麻 五月乃至六月  
大豆 六月乃至七月  
菜豆 四月乃至五月  


農商省