第四四三号(昭二〇・四・二五)

  皇国隆替の決戦
  大東亜大使会議と桑港会議
  戦災跡地等で野菜の自作       農 商 省
  港をあげて神風荷役         運輸通信省
  樟脳で飛ばせ新鋭機        大 蔵 省

 

皇國隆替の決戦  大本営海軍報道部

  沖縄に足場を求める
  不逞な敵の作戦企図

 去る三月二十三日、南西諸島近海に殺到し
た敵機動部隊は、同二十五日には慶良間列島
に上陸、越えて四月一日に至り遂に沖縄本島
に上陸、茲に沖縄決戦の火蓋を切つたのであ
る。
 硫黄島の強奪に一応の成功を収めた敵が、
その後僅かに三旬にして、次ぎの戦場を長駆
南西諸島に求めた作戦企図が
一、マリアナと比島を基盤とする対日包囲
陣を硫黄島と沖縄とを基盤とする対日
包囲陣に圧縮前進せしめんとするもので
あり
一、従つて南西諸島の占領によつて、比島
の空軍基地と、艦隊泊地とを沖縄に推進

一、南西諸島を根拠地として日本と南方、
台湾、大陸、朝鮮等との連絡路線を遮断し
て、日本を文字通り本土のみに完封し
一、マリアナ、硫黄島の空軍基地に加ふる
に、南西諸島の空軍基地を以てして本土
爆撃を徹底化し
一、以上の如き基礎作戦の一段落を俟つ
て、本土上陸の最終作戦を全面的に本格
化し
 かくて日本を屈服せしめんとするものなる
ことはいふまでもない。
 従つて沖縄決戦の意義は、単なる沖縄島の
攻防争奪のみに非ずして、日米決戦の全局を
決定する乾坤一擲の重大性を意味するもので
ある。
そして、その故にこそ今回の沖縄決戦
は、日米開戦以来の最大の規模と、最高の激
闘とにおいて展開されつゝある未曾有の一大
決戦であり、われ/\は豊田聯合艦隊司令長
官が全軍に布告せる「皇國の隆替本戦闘にあ
り、各部隊躯をもつて皇國護持の礎石たるべ
し」との悲壮なる訓示を、この際もう一度静
かに想起せねばならぬのである。

全軍特攻既に敵艦船四百隻を撃沈

 然り、沖縄海面の戦闘こそは「皇國の隆替」
を決する大東亜戦争の決戦であり、従つてこ
の一戦こそは、どんなことがあつても勝ち抜
かねばならぬ。日本民族生死の決戦である。
断じて勝ち抜かねばならぬ。それは国家の絶
対命令であり、またわれ/\一億の血の叫び
である。そしてその故にこそ、全機すべてが
「一機一艦」の特別攻撃隊となり、全軍ことご
とくが肉弾攻撃隊となつて「皇國護持の礎石」
たらんとしてゐるのである。「海の特攻隊」特
殊潜航艇は、開戦劈頭の真珠湾頭に初登場し、
陸、海軍「空の特攻隊」は、比島の戦場に相次
いで出撃した。しかし今や沖縄決戦において
は、既に全軍が一人残らず特攻隊となつたの
である。「全軍特攻」それは全く東西古今の戦
史に比類なき、恐らくは空前絶後の作戦構想
であらう。沖縄決戦の帰結はそれほどに重大
であり、その決戦様相はそれほどに苛烈とな
つたのである。
 朝となく夜となく基地を進発するわが空軍
は、ことごとくが征きて還らざる特攻隊であ
り、来る日も、来る日も特攻機の連続総攻撃
である。そしてその全機特攻の尊き肉弾の犠
牲の償ひとして、去る三月二十三日、敵機動
部隊が沖縄海面に姿を現はして以来今日まで
僅かに四週間にして、わが方の収めたる戦果
は確認されたものだけでも、敵艦線撃沈破数
は別表の如く、無慮四百隻に達してゐるので
ある。

物量恃む敵の巨艦も今ひと押しで崩る

 敵は沖縄作戦に動員した
艦船の数は一千四百隻に上
ると発表し、例によつて物
量の尨大なるを誇示してゐ
る。しかしこの一千四百隻
といふのは、恐らく後方の
補給、連絡に使用するもの
をも含めた総数を指すもの
であつて、実際に沖縄海面
の戦闘に参加した数は、一
千四百隻の半数つまり七百
隻位と思はれる。従つて、
今日までに挙げたわが戦果
四百隻は、敵正面兵力の約
六割を撃沈破したことにな
るので、敵の蒙つた損害が
正に致命的なることは疑ふ
余地なきところである。然
し損害そのものはたとひ致命傷であらうと
も、若しその損害を補填するに十分なる補給
さへ可能なら
ば、その致命
傷も容易に回
復し得るので
あるから、わ
れわれは絶対
に戦果の偉大なるに楽観するが如きことがあ
つてはならぬのである。
 静かに日米開戦以来の戦歴を繙けば、われわ
れは既にソロモンに、マリアナに、そして比
島にと、幾度か決戦の段階
に遭遇したことを発見する
のである。そしてそれらの
決戦段階において、我は常
に圧倒的な大戦果を収め得
たのである。然しそれにも
拘はらず、我は遺憾ながら
ソロモンを後退し、マリア
ナに玉砕し、そして比島も
また恨みを呑んで敵の蹂躙
に委ね、かくてわれ/\は
千載一遇の神機を幾度か空
しく逸し去らざるを得なか
つたのは一体何故であつた
かを、今こそ正しく再認識
せねばならぬ。然る時われ
われは誰しも、沖縄の戦果
に事態を楽観することの如
何に危険なるかを痛感する
と同時に、更にまた沖縄決
戦の鍵が正に制空権の争奪
の帰趨にあることをも直ち
に発見するであらう。
 戦果に楽観することは絶対に禁物である。
然し流石に物量を誇る驕敵も、わが肉弾体当
りを浴びて蒙る損傷の余りにも甚しきため
に、漸く苦戦の色が顕著となつて来た。いま
一押しで敵の巨体も、ぐら/\と崩れさうで
ある。われ/\は今こそ押して、押して、押し
まくらねばならぬ。敵に立ち直る隙を与へて
はならぬ。敵は尨大なる物量を擁してゐるの
であるから、隙を与へたならば再び態勢を整
備して沖縄作戦を強行するに違ひない。
敵が
既に沖縄方面に揚陸せる兵力は六箇師約十万
であり、我は四月二十三日までにその一万五
千名を出血せしめたとはいへ、敵は隙さへ得
れば損害を補填して、飽迄も沖縄作戦の企図
を強行するであらう。

勝敗決す制空権争奪 航空機の補給を急げ

 現下の沖縄の決戦様相は、確かにわが尽忠
の肉弾反撃を浴びて、敵の巨体がよろめいて
ゐる形である。我は固より必死の反撃である
が、敵もまた死物狂ひの猪突猛撃である。然
し敵が焦慮猪突するところにこそ、我は敵
殲滅の神機を発見するのである。そして現下
の局面を押切つて戦勢の主導権をわが手に把
握すれば、戦勝への途は豁然として開かれる
であらう。しかし、若しもこの勝機を空しく
取逃したならば、爾後の作戦条件は恐らく最
悪の事態に立至るであらうことをわれ/\は
銘記せねばならぬのである。

 そして現戦局を決定する主戦兵器が飛行機
であり、しかも敵物量を破砕し得る唯一の戦
法が「一機一艦」の体当り以外にないことは
既に明白であるから、沖縄決戦を勝ち抜くた
めには、連日連夜の総攻撃に大挙出撃する特
攻機の莫大なる消耗を、速かに補充すること
が絶対条件である。従つて若しもこの特攻機
の莫大なる消耗が速かに補填されなかつたな
らば、わが戦力の漸減は不可避となり、折角
の勝機も徒らに永遠の痛恨事と化するのみで
ある。
 敵艦船の撃沈破既に四百隻、そして沖縄海
面の戦果は相次いで一億待望の耳朶を豪快に
ゆすぶり続けてゐるのである。しかし、その戦
果こそは、今春の再開議会において米内海相
が「忍びざるを忍び、耐へ得ざるを耐へて隠忍
神機を待つ」と告白したその温存蓄積せる飛
行機によつて挙げられらものなることに想到
せねばならぬ。待ちに待つた胸のすく大戦果
である。しかし、われ/\は戦果の快報に雀
躍欣喜する前に、その戦果の陰に莫大なる特
攻機を消耗せること、従つてまたこれが生産
補給こそ、「皇國の隆替」を決するものなるこ
とを考へ、今こそ物心すべてを捧げて一億各
人が戦力増強に直結せねばならぬ秋である。

 沖縄の決戦場には、いま全軍特攻の肉弾に
よつて「皇國護持の礎石」が築かれんとしてゐ
るのである。われ/\もまた人も、物も一切
を叩き込んで、決戦兵器たる飛行機の奔流の
如き補給を誓はねばならぬ。隘路だとか、障
害だとか、そんな生易しい遁辞の許される段
階ではない。何故かなれば大東亜戦争は、一
億の「生か、死か」を決する最終の決戦であ
り、従つてこの一戦こそは是が非でも断じて
勝たねばならぬからである。