第四四三号(昭二〇・四・二五)

  皇国隆替の決戦
  大東亜大使会議と桑港会議
  戦災跡地等で野菜の自作       農 商 省
  港をあげて神風荷役         運輸通信省
  樟脳で飛ばせ新鋭機        大 蔵 省

大東亜大使会議と桑港会議

 敵が数ケ月前か
ら鳴物入りで宣伝
してゐた桑港会議
が、去る四月二十
五日から開かれ
た。こゝに集るも
の、平和を愛好す
ると称する四十数
ケ国の代表者であ
り、彼等は「緊密
且つ継続的協力に
より、攻撃を防止
し、戦争の政治的、
経済的、社会的原
因を除去するため
に平和と安全との
維持を目的とする
一般国際機構の樹
立」を相談しよう
といふのである。
 彼等が好んでい
ふ平和愛好者の資
格といふものは何か。かのクリミ
ア会議の協定に従へば、三月一
日までに日独に対して宣戦を布告
した国家だけを桑港会議に招請す
るといふのであつて、平和を愛好
するが故に戦争を回避してゐる中
立国は平和愛好者でないから、こ
の会議には出席する資格がないと
いふことであつた。
 そこで米英からこの協定を突き
つけられた中立国は、桑港会議に
参加するために戦争を始めるか、
米英の支配する国際社会から除け
者にされることを覚悟して、飽く
まで中立を維持するか、その何れ
かを選ばねばならぬ立場に立つ
た。かくて、トルコを始め、シリ
ア、レバノン、エジプト、南米諸
国等は、米英から疎外されること
を恐れ、この脅迫に屈して、何等
敵対関係のない日独両国に相次い
で宣戦し、アルゼンチンまでが遂
に参戦するに至つた。
 米英のかゝる脅迫を基礎とし
て、宣戦脱落国と、いはゞ平和を放
棄した国々をかき集めて開かれた
のがこの桑港会議であり、かゝる
会議においてたとひ何事が論議さ
れようとも、中小諸国に与へられ
る役割は最初から明白であつた。
怖ぢ畏れつゝ米英の提案に黙従
し、民主主義的的合意の名におい
て、彼等の企図する大国専制組織
に賛同すること、そかが中小諸国
に振り当てられてゐる役割なので
ある。
 この会議の結果として、いはゆ
る国際安全保障機構が決定され、
宣伝されるかも知れないが、それ
が如何に美辞麗句を以て綴られよ
うとも、その本質において米英ソ
専制の制度化にあることは、かの
ダンバートン・オークス案以来の
彼等の方針と態度とからして明瞭
である。ダンバートン・オークス案
に見る如く、国際平和機関の安全
保障理事会の常任理事国に、米英
ソの外に重慶、フランスを加へて
ゐるのも、決してこれらを同格に
考へてゐるわけではなく、一つは
国際機構からアジア人を閉め出し
てゐる事実を偽装するための謀略
であり、一つは政治的考慮から加
へられたものに過ぎない。しかも
この機構運営に関する投票手続を
見ると、中小諸国は常任理事国一
致の意見によつて、何事でも侵略
国の烙印を捺され、武力制裁を受
けねばならぬ立場に置かれるのに
反し、常任理事国たる大国は自己
の惹起した紛争についても投票権
を行使し、たとひ他の一切の国が
賛同して決定しても、これを不成
立に終らしめることができるとい
ふのであつた。
 かゝる見解を基礎としてでつち
上げられる国際機構が、大国専制
の制度化であることは火をみるよ
りも明白であるばかりでなく、大
国に対しては全く無力であり、戦
争が殆んど例外なしに大国間の利
害の対立から勃発してゐる事実を
考慮すれば、戦争防止に対しては
その能力なしといはねばならな
い。しかも米英ソ間の現実関係に
思ひを致すとき、この会議こそ平
和機構樹立のための会議ではな
く、米英とソ聯とが来るべき第三
次大戦における戦略的侵略をめざ
して闘争するところの戦争機構樹
立のための会議としての危険をさ
へ内蔵してゐたのである。
 即ち、米英ソの三国関係は、表
面上は調つてゐても、一たび内情
をのぞけば、米国は世界制覇確立
のために、英国はその帝国維持の
ために、そしてソ連は自国の戦略
的安全性増大のために、それぞれ
異れる戦争目的を以て戦つてゐる
のであつて、これらの目的は互に
矛盾し相対立するのである。特に
帝国主義的侵略によりて世界を制
覇せんとする国と、自国を囲繞す
る資本主義との決戦に備へること
を最高の国策としてゐる社会主義
国家との矛盾は決定的である。案
の定、会議は劈頭からこの対立を
表面化した。ソ連は先づポーラン
ド政権参加と共にウクライナ、白
ロシア両共和国を含めてのいはゆ
る三票要求をなし、更に議長問題
でも、米代表ステチニアス議長案
に対し、招請四国代表の順番制を
要求するなどの波紋を投じた。
 たとひこの会議において、米英
ソ三国がその関係の破綻を回避
し、兎も角、国際平和機構を設置
し得たとしても、これによつて得
られる平和は、その他の諸国の隷
属を条件とする、強制された平和
である外はないであらう。
 その強制された平和が如何なる
ものであるかは、欧州のいはゆる
解放地域の現状が何よりも雄弁に
証明してくれてゐる。そこにある
ものは平和とか、秩序とかいふも
のではなく、絶望的な戦火と飢饉
と騒擾と混乱であり、ただほしい
まゝにゐるものは、米英の支配と
圧制のみである。そこには民族の
自由も、その共存共栄もあり得な
いのである。
 敵陣営がかゝる魂胆から世界平
和の美名にかくれ、小国の犠牲
の下に世界を壟断せんとする桑港
会議を開かんとしてゐる矢先、こ
れに先立ち四月二十三日東京に大
東亜大使会議が開かれ、大東亜一
丸となつて断乎米英の野望を粉砕
し、真の世界新秩序を建設せんと
の血盟固き共同声明が発せられた
ことは真に意義深いことである。
 会場も一年半前に大東亜会議が
開かれたと同じ帝国議事堂、帝国
政府東郷外務大臣兼大東亜大臣並
びに在京の、満、華、泰、比、緬
の各国大使に自由印度仮政府を加
へた大東亜各国代表が悉く一堂に
会し、本国政府間の予備的協議に
基づき、大東亜戦争完遂の方途及
び共同戦争目的に基づく世界秩序
建設の理念につき、隔意なき意見
の交換を行つた結果、満場一致を
以て別項の如き共同声明を採択、
これを中外に発表したのである。
 この共同声明は、さきの大東亜
共同宣言をさらに一歩前進せし
め、大東亜各国がその抱懐する共
同の戦争目的に基づき、その世界
秩序建設のため、指導原則を重ね
て声明したものである。敵側が戦
後計画の名の下に、全世界に亘り
米英の軍事基地を設定し、兵カを
駐屯して国際警察を独占的且つ恣
に引受けんとし、終済的には重要
資源、国際交通を独占的に支配
し、国際金融及ひ通商を米英の恣
意に委ねしめるため、名を国際協
力に籍りて、実は米英の世界経済
壟断を制度化し、植民地搾取及び
後進の抑圧によつて維持し得べき
米英の独占的繁栄の現状を永続化
せんとし、更に政治的には、前述
の如くいはゆる民主主義を標榜し
ながら、大国による国際政治の専
断をはかりつゝあるに対し、事実
に即して大東亜の在り方を閘明
し、彼等の非望に対して、あらゆ
る困難を克服し、アジアの、総力を
結集して戦争を完遂せんとの決意
を表はしたものが、この共同声明
であり、この大東亜大使会議であ
つたのである。
 この共同声明採択に引きつゞき
一、印度支那国の独立完遂支援
に関する決議
二、東印度の独立達成支援に関
する決議
三、大東亜会議の常設的連絡機
関に関する決議
四、印度仮政府へ本会議の討論
内容並びに決議及び決議通報
方に関する決議
が採択されたことも、大東亜各国
各民族相互の固き結束と決意とを
表明したものとして、この会議の
大きな収穫といつてよからう。

共同声明
 大東亜各国は米英の飽くなき侵略に対し、相携へて大東亜を米英の桎梏より解放し、其の自存自栄を全うせんが為、有らゆる艱難を克服して共同戦争の完遂に邁進し 今日に及べり。
 然るに米英は、強力を以て中立諸国を圧迫して之を戦争の具に供し、名を他国の解放に藉りて其の勢力範囲の拡大と内政干渉とを恣にし、更に敵対する諸国に対しては、国家の存立、民族生存の基礎は素より、其の固有の文化をも抹殺せんと企図しつゝあり。米英が今日抱懐しつゝある其の戦後計画な るものは、有らゆる政治的粉飾にも拘らず、専ら強力を基礎として自己の欲する秩序を強制擁護せんとするものにして、米英は国際政治を其の専制下に置き、恣に全世界の警察に当らんとし、又世界経済をも壟断し、以て其の帝国主義的世界支配を愈々恒久化せんことを策しつゝあり。斯て爾余の各国各民族は、其生存と繁栄との為公正且均等の地位を保障せられず、特に大東亜諸民族に対しては、依然として偏見、差別観を露呈して変る所なし。彼我の戦争目的に於ける決定的相違は、実に米英が斯る不正なる国際秩序を飽く迄維持強化せんとするに反し、大東亜の各国は斯る専制、独占、差別を排除し、飽く迄正義を基調とする真の秩序を建設んと欲する点 に存す。
 大東亜各国は曩に共同宣言を発して大東亜戦争の意義と目的とを閘明せるが、今や米英の暴力に依り、国際正義と人類の福祉とが全く蹂躙せられんとしつゝあるを黙視し得ず、茲に大東亜各国は其の抱懐する共同の戦争目的に基く、真の世界秩序建設の為の指導原則を重ねて中外に明ならしめ、一方之を阻止破壊せんとする米英の非望に対しては、飽く迄其の総力を結集して戦争を完遂せんとする牢固たる決意を新に表明せんとす。

一、国際秩序確立の根本的基礎を政治的平等、経済的互恵及固有文化尊重の原則の下、人種等に基く一切の差別を撤廃し、親和協力を趣旨とする共存共栄の理念に置くべし
二、国の大小を問はず、政治的に平等の地位を保障せられ、且其の向上発展に付均等の機会を与へらるべく、政治形態は各国の欲する所に従ひ、他国の干渉を受くることなかるベし
三、植民地的地位に在る諸民族を解放して各其の所を得しめ、倶に人類文明の進展に寄与すべき途を拓くベし
四、資源、通商、国際交通の壟断を排除して経済の相互協力を図り、以て世界に於ける経済上の不均衡を匡正し、各国民の創意と勤労とに即応したる経済的繁栄の普遍化を図るべし
五、各国文化の伝統を相互に尊重 すると共に、文化交流に依り、国際親和並に人類の発展を促進すベし
六、不脅威、不侵略の原則の下、他国の脅威と為るべき軍備を排除し、且通商上の障害を除去し、武力に依るは固より、経済的手段に依る他国の圧迫乃至挑発を防止すべし
七、安全保障機構に付ては、大国の専断並に全世界に亘る劃一的方法を避け、実情に即したる地方的安全保障の体制を主体とし、所要の世界的保障機構を併用する世界各般の情勢に即応し、国際秩序を平和的に改変するの方途を啓くべし