第三〇五号(昭一七・八・一ニ)
  我が対敵放送戦
  統制会の進展          商工省
  単一化された油脂統制機構     農林省
  大東亜の鉱業、工業及び電力基本方策 商工省
  米国の策動と中南米の近情
  大東亜戦争日誌

 

我が対敵放送戦 

  一秒間に地球を七廻り半するといふ
恐るべき性能をもつ電波が、戦争に欠
くことのできない国際ニュース戦、世界
宣伝戦において、極めて有力な武器
であることはご承知のところでありま
せう。第一次世界大戦当時には存在し
なかつたラジオといふこの新しい武
器は、今次の欧州大戦、さらに大東亜
戦争においてめぎましい活躍をし、敵
に対しては姿なき尖兵となり、強力な
声の爆弾となつて敵の心臓部深く飛び
込み、敵の抗戦意志を打ち砕き、敵を
動揺解体させるといふ大きな役割を演
じてゐるのであります。作戦と呼応し
て活発に行はれる対敵電波戦は、武
力戦に劣らぬ效果を発揮し、作戦を有
利に導いてゐるのであります。およ
そ戦争と宣伝とは、密接不可分のもの
でありまして、対外宣伝、対敵思想戦
の巧拙如何は、実に戦争目的完遂の
成否にも影響して来るのであります。

 戦争とラジオ

 前世界大戦におきましては、対外宣
伝は主として海底電線によつて行はれ
たのでありますが、一九一四年八月五
日、即ち英国がドイツに対して宣戦を
布告したその五日、ドイツの所有して
ゐた海底電線は英軍によつて切断さ
れてしまひました。これがドイツに致
命的な打撃を与へたのです。ドイツの
海底電線を切断した英国は、簡単
に世界の通信を独占することが出
来たのであります。即ち人々はロンド
ンの中央検閲局が許可したニュース以
外は、何事も知ることが出来なかつた
のであります。このことは聯合国のみ
ならず、あらゆる中立国に対しても、
大きな影響を与へましたが「今日では
まるで信じられないやうな話でありま
す。
 前大戦はその四ケ年を通じて戦争そ
のものゝ本舞台には大した変化なく[ ]
ドイツ軍は殆んど領土を侵されず、決
定的な敗退もなく終つたのでありまし
たが、海底電線を敵に断されたため、
ドイツの対外宣伝は全く不可能とな
り、また外国からの情報蒐集の途も断
たれ、このためにドイツは非常な苦境
に陥りました。「ドイツは宣伝戦のた
めに敗れた
」といふ批評は強ち的外
れでは決してなかつたのであります。
 ところが、前大戦後、研究室から街
頭に出現いたしましたラジオは、その
独特の性能の故に最も強力な対外宣伝
の武器として認められ、列国は競つて
これを利用し、これが拡充整備に狂奔
するに至つたのであります。前大戦で
苦盃を喫したドイツは、特にラジオの
重要性を認識し、ヒトラー総統自らラ
ジオ事業発達のために力と尽し、ラジ
オはドイツ復興に大きな貢献をしたの
であります。
 「自動車と飛行機とラジオなしには、
われ/\は今日のドイツを獲得し得な
かつたらう」とは、後年ヒトラ一総統の
述べた言葉であります。ドイツ放送会
社シュロイデル部長は
 「精神と世界観の闘争である今度の
戦争において、ラジオは磨ぎ澄まされた
とならねばならぬ。戦争は鋼鉄の武
器によつてのみ行はれるものではな
い。ラジオの放送もまた最前線に立つ
てゐるのだ。この連続速射は休息する
ときがない。世界の空を飛ぶラジオと
いふ姿なき砲弾には、真実といふ火薬
が充填されるのだ」
と述べてゐます。
 かくて前大戦と今次大戦との大きな
相違は「有線より無線へ」「海底より大
空へ」の大変化であります。ラジオは
一瞬にして国境を越え海洋を渡る。た
とへ海底電線は切断されても、空中幾千
幾百里を瞬時に飛び越えて刻々ニュー
ス速報の使命が果せるのは無線電信、
ラジオ、電送写真等、いはゆる「無線」
のお蔭であります。大東亜戦争におけ
る大本営発表はいふまでもなく、米英
の内情も、濠洲やインドの情勢も、
欧州の戦況も、中立国の動向もすべて
無線によつて刻々に報道されてをり、
ハワイ大空襲や、英艦プリンス・オブ・
ウェールズ号沈没の歴史的写真が、陸
上も海上も直接運絡[ママ]のない欧州や南米
に送られ、各国の新聞を飾つてをりま
すのも無線のお蔭であります。

 短波放送の偉力

 さて、電波の利用は大別して、モー
ルス符号等を以てする電信放送と、人
間の言葉や音楽等の音声による放送

がありますが、そのうち特に一般的で影
響力の大きいのは音声によるラジオで
あります。またこのラジオにも短波、
中波、長波等の種類がありますが、こ
のうち、中波は近距離用として国内放
送に用ひられるのに対し、短波は遠距
離に声を到達させる特性
をもつてをり
ますので、主として対外宣伝用に利用
されてをります。
 わが国では、一般に短波の受信機を
備へることは許可されてゐませんし、そ
の販売も厳重に禁止されてをりますの
で、一般の皆様の御家庭では、外国か
ら来る短波放送を直接お聞きになる機
会はありませんが、外国ではラジオの
受信機は、長短波とも聴取できる受信
機が非常に普及
してをりますので、外
国からの放送が遠慮会釈もなく受信
機に飛び込んで来るのであります。現
に日本から毎日米国に向けて送つてを
ります海外放送は、米国人が好むと好
まざるとにかゝはらず、米国の一般家
庭の受信機に飛び込み、米国人が外国
の放送を聴かうと思つて受信機の針を
動かしますと、突然、日本の放送が飛
び込んで来て、いやでも応でも日本の
声を聴かざるを得ない
といふ実情であ
ります。
 短波による対外放送は在外同胞を対
象とするほか。
 (一)敵国に対する宣伝のため
 (二)第三国に対する宣伝のため
 (三)友好国間の友好関係を増進するため
の三つの目的で行はれますが、この最
後の友好国間の放送には、普通「国際放
」といはれる方法があります。これ
は、一国がその送信所から相手の受信所
に短波で番組を送り、受信国はそれを
自国の長波または中波に乗せて国内に
放送するものであります。従つて、国
際放送は番組を送り出す国と受ける国
との合意、打合によつてはじめて成立
するのでありますから、友好国間乃至
は平時的状態にある国との間に行はれ
ます。現在、日独伊間に保薄ゝ協定に基
づいて行はれてをります「日独交換放
送」、「日伊交換放送」等は即ちこれであ
ります。
 しかし一方、列国は対立する敵国
および第三国の国民に向つて自己の主
張と立場を宣伝しようとするのであ
ります。そこで列国は、電波のもつ特
性を利用して相手国の受信所を経由し
ないで、直接相手国の一般家庭の受信
機にこちらの声を叩き込む
方法を採用
したのであります。これが前述の「国
際放送」に対して普通「海外放送」と呼
ばれてゐるものでありまして、列国は
競つて「海外放送」の整備拡充に努力
し、この「海外放送」を利用してニュー
ス放送だけでなく、種々様々な政治的、
謀略的放送を旺んに行つてをります。

 我が放送戦

 日本は夙に今日の世界宣伝戦を予想
し、今から七年前、即ち昭和十年六月
一日、海外放送を開始しましたが、爾
来、今日に至るまで数次の拡充を行ひ今
次大東亜戦争が勃発致しますや、特に
米国、フィリピン、マレー、泰、ビルマ
蘭印、濠洲等に対し、作戦と呼応して
活発な対敵、対第三国宣伝を展開して
来ました。
 現在、日本の海外放送は、地域別に
欧州向、中南米、北米東部向、北米
西部、ハワイ向、濠洲、支那向、仏
印、ビルマ、マレー、比島、東インド
向、インド、西南アジア向の放送を行
つてをり
、この放送に使はれてゐる言
葉は、日本語、ドイツ語、イタリア語、
英語、フランス語、スペイン語、ポル
ガル語、支那標準語、広東語、福建
語、タイ語、ビルマ語、マレー語、ヒ
ソヅー語、インド土語、タガログ語、
アラビア語の十八ケ国語に上つてをり
ます。
 放送時間は、同じ時刻に別の方向へ
異つた番組を放送します関係から、延時
間毎日二十五時間を越え、機械が電波
を放射してをります延時間は毎日五十
二時間に及び、わが海外放送の電波は文
字通り昼夜不眠不休の活動をしてをり
ます。近く送信機の増設によりわが海
外放送は更に一大飛躍をなすことにな
り、目下着々と準備を進めて
をります。
なほこの海外放送には、多数の外国人も
従事してをり、彼等は深夜遅くまでマ
イクの前に立つてそれ/"\故国に呼び
かけつゝ、聖戦遂行下の日本にマイク
を通じて積極的に協力してゐるのであ
ります。
 大東亜戦争の勃発と共に、我が海外放
送は全機能を動員し、大東亜戦争の遂
行目的に向つて作戦、外交と緊密に呼応
しつゝ活発な大思想戦を展開し、聖
戦の真意を中外に究明して米英の放つ
デマ放送を片ッ端から果敢に粉砕し

我が公正な、主張と正確な事実の報道に
努めてまゐりました。

 作戦呼応の活躍

 十二月八日の大詔は海外放送により
謹んで全世界に放送され、波濤万里、
母国を遠く離れて、或ひは敵地に、或
ひは第三国に在住するわが同胞は、感
慨無量、感激の涙で聴取したのであり
ます。また議会における政府の声明や
大本営発表等は、各国語により全世界
に向けて逐一放送され、刻々のニュース
のほかに状勢と即応して、或る時は直接
敵国軍隊に呼びかけ、また或る時は敵
国内の民衆に呼びかけました。香港、
比島、マレーの作戦中には、これらの
戦線にある敵軍隊に呼びかけ、抗戦の
無意義を説き、敵の降伏を早からしめ
た事実もあります
。ビルマ民衆も東京
放送を競つて聴き、現にラジオを通じ
て日本の真意を理解し、皇軍に協力し
つゝあります。
 わが赫々たる戦果と共に、ABCD対
日放送包囲陣は、その一角より崩れは
じめ、香港放送局まづ我が手に帰し、次
いでペナン放送局、クアラ・ルムプー
ル放送局、昭南島放送局、マニラ放送
局、さらにバタヴィア、バンドン、スラ
バヤ、ラングーン放送局には、すでに
日の丸が翻飜とひるがへつてをりま
。これらの南方放送局は、わが占領
下に更生し、東京放送と呼応して、今
や光を孕む大東亜共栄圏建設の歓び
を日夜放送してをります。

 笑止な米の放送

 さて、米国は真珠湾の配線以来、ま
すます深まる敗色をと糊塗するために
デマ放送に浮身をやつし、虚偽宣伝
に狂奔してをりますことは、洵に浅
間しい限りであります。真珠湾の敗戦
についても、最初米当局は飽くまでこ
れを国民の耳目から隠蔽しようと計つ
たのでありますが、我が海外放送によ
りまして米国民が真珠湾敗戦の真相を
知るに及んでこれを隠し切れなくな
り、遂に兜を脱いで渋々真珠湾で蒙つ
自国の損害の一部を発表するに至り
ました。
 またバタアン半島の戦況につきまし
ても、当時極力これを隠蔽または捏造
し「米軍は反撃に転じ、日本軍に大損
害を与へた」 等と出鱈目なニュースを
連日放送し、司令官マッカーサーを「
紀の英雄
」に祭り上げて、米軍の武勇
をまことしやかに宣伝し、米国民や第
三国人を欺かうとしたのであります。
司令官マッカーサーが濠洲に逃亡した
際も「予定の行動」であるといひ、マッ
カーサーに代つた司令官ウェインライ
トがコレヒドールに逃げ込んだときも
「一時的撤退」と放送しました。
 しかしわが海外放送は、仮借なく敵
側宣伝の欺瞞を衝いてをりますので、
 米軍惨敗の事実は米当局躍起の隠蔽策
にもかゝはらず、次ぎ/\に白日下に
暴露
されてをります。例へば、コレ
ヒドール陥落の場合にも、米国の放
放送は米比軍が食糧弾薬の欠乏のた
め、矢尽き刀折れて降伏したのだと
放送しましたが、事実は大違ひで我
が大本営発表にもありました通り、
武器弾薬は極めて豊富で、食糧など
は一万人が二ケ月間食へるだけのも
のを残してゐたのであります。
 米国の宣伝放送がフィリピン戦線
における米比軍の勇武を賞讃し、
マッカーサー司令官を英雄化して騒
ぎ立てたのには、味方の英国さへ呆
果て、四月十五日ロンドン発ロイ
ター電などは「米はフィリピンで勝
つつもりでゐたのだらうか。負ける
と分つてゐれば、まさかすぐばれて
しまふやうなデマは飛ばせない筈だ。
もし勝てると考へて飛ばしたデマな
ら、さう思ひ込んだアメリカ軍当局は
戦争といふものを知らな過ぎる」と米
国の放送を皮肉つてをります。
 これも米国の宣伝放送の性格を物語
る一例でありますが、珊瑚海々戦の戦
況につきましては、我が大本営が赫々
たる戦果と共に、我が方の損害をも
直ちに率直に公表してゐるのに対
し、米当局は自己の損害をひた隠し
に隠し、日本軍に与へたと称する
鱈目な戦果のみを大々的に宣伝
し、
珊瑚海であたかも大勝利を博したか
のやうに宣伝してゐるのですが、日
本からの海外放送により米国民のみ
ならず、味方の英国民や第三国民が
珊瑚海々戦の真相を次第に知るに及
んで、米当局に対する不平不満が昂
まつて来ましたので、米国放送は次
第にしどろもどろとなつてまゐりま
した。

  国民の耳を蔽ふ米

 一方、珊瑚海々戦の真相を物語る
ニュースが豪州方面から南米や欧州に続
続送られ、米宣伝躍起の珊瑚海々戦大
勝利の化けの皮が次第に剥がれて来ま
したので、たまりかねた米当局は、つひ
二十日ほど前に珊瑚海における米軍の
損害を発表しないわけにはいかなくな
つたのであります。しかも、真相の発表
が国民に与へる衝動の大きいことを
恐れた米当局は、損害の一部を発表し
たに過ぎず、この期に及んでも、なほ
真相の全部を国民の耳目から蔽ひ隠さ
うとたくらんでゐる
のであります。
 また我が軍のアリューシャン攻略及
びミッドウェー沖海戦についても、米
国の放送は例によつてありもしないデ
マ戦果を作り上げ、勝つた/\と大
騒ぎをし「アリューシャンには日本軍の
姿は一兵も見えない、東京放送はウソ
を言つてゐるのだ」などと放送して、
国民を喜ばしてゐましたが、やがて我
が軍上陸の事実が次第に知れ渡るにつ
れ、前後矛盾する放送が飛び出し、ア
メリカ海軍省は、米軍はアリューシャ
ン諸島において日本軍と目下交戦中で
あると述べるに至りました。
 面目を失つた米国放送は止むを得
ず「日本軍の上陸したのは、恐らく無
人島であらう」と放送したり、「天候が
悪かつたのと遠距離であつたために、
今まで分らなかつたのだ」などと自家
撞着の言辞を弄して自ら馬脚を現は
し、ロンドンデイリー・メール紙から
「米側の誇大な宣伝にもかゝはらず、
戦局が米国に有利に展開してゐるとみ
るべき何等の根拠もない」と皮肉られ、
また英国放送局から「吾人は手放しの
楽観論は慎しまうではないか」と野次
られ、濠洲放送局からは「事態はもつ
と深刻なのだ」と腹を立てられてゐま
す。

  米、民心収攬に躍起

 米大統領ルーズヴェルトは、米国内
の民心を戦争努力に集中させようとあ
せり、今次戦争に名前を附けようとい
ふので考へた揚句「生存の戦争」と呼ぶ
ことに決定
した、と米放送は伝へてゐ
ます。しかし、さういはれても米国
民は戦争の緊迫感がないし、戦前外国
から侵略の脅威を受けた覚えはないの
ですから、ルーズヴェルトの唱道する
生存の戦争といふ標語が国民の頭にピ
ンと来ない。
 それどころか、「生存の戦争こそは、
正に日本が東亜で戦つてゐる戦争なの
である。日本は米英の非道な圧迫を受
け、死中に活を求めて生存のために蹶
起し、米英の植民地と化した東亜を米
英の鉄鎖より解放し、これを東亜人の
手に奪還すべく立ち上つたのだ。
存の戦争、それは正に日本が戦つてゐ
る戦争である
」と、我が日本の海外放
送からこつぴどく反撃されて、米放送
局は兜を脱がざるを得なかつたのであ
ります。
 ルーズヴェルトは遮二無二国民を戦
争目的に動員しようと、度々 「炉辺談
話」を放送して来ましたが、我が海外放
送はその都度、先手を打つて日本から
「炉辺談話」を放送し、ルーズヴェルト
の演説の企図を粉砕しました。
 東京から電波に乗つて送られて来た
「炉辺談話」に面喰つた大統領秘書の
アーリーは、新聞記者団に向ひ「日本
は先手を打つて大統領の放送を失敗に
終らせようとしてゐるが、米国民は東
京放送に迷はされてはならぬ」と、明
らかに米当局の狼狽振りを示してをり
ます。
 しかし、米国の放つデマ宣伝に対し、
日本は断乎追求の手を緩めるものでは
ありません。わが海外放送はニュース
により、或ひは講演により、或る場合
は劇や対話の形式で、逐一敵側デマを
反駁するほか、敵のデマ放送を一纏め
にして反撃する時間を設けまして、敵
の欺瞞に対し仮借なき審判を下だして
をります。敵側放送は、わが高遠なる
世界観には到底太刀打ちの出来る筈は
ないのであリます。

  我が放送に兜脱ぐ

 さて、最近突止千万と思はれますこ
とは、米国の放送がわが日本の大東亜
戦争における高き道義的世界観に兜
を脱いで、我が方の理想を拝借しはじ
めたことであります
。さきにも申しま
したやうに、ルーズヴェルトが今次戦争
を「生存の戦争」と名付けたのも、正に
この標語によらなければ米国民衆がつ
いて来ないと知つたからでありますが、
同様に米国の宣伝者達は最近しきりに
我が方の理論を借用して、これを国内
や国外に向けて逆用してゐるのであり
ます。
 例へば、国務次官ウェルズは、先月三
十日の南北戦争戦死者記念日に際し、
アーリントン墓地で次ぎのやうに放送
しました。
 「今次戦争は正しく国民の戦争であ
り、地球上の凡ゆる国民の権利を保証
するための戦争である。今次戦争以前
の世界は不平等と憎悪に満ちた世界で
あつた。戦後われ/\の当面する問題
は生産ではなく、世界の富の公平な分
配の問題である。それと共に全世界に
おいて従来搾取され、抑圧されて来た
国民の解放を目的としなければなら
ぬ。人種的差別も撤廃しなければなら
ぬ。米国は世界の新秩序を求めるもの
である」
 この放送を聴いた墓地の中の戦歿兵
士の霊魂は、さぞかし苦笑したことで
せう。

  戦争目的のない米

 また米国の放送はインドに対しかう
呼びかけてをります。「この戦争で英米
が勝利を得れば、そのときには世界の
いづこにも隷属人種は存在しなくなる
であらう。このことはデモクラシー諸
国の今日までの行動に照してみても極
めて明らかなことである」と。また曰く
「米英は地球上から不平等と搾取と侵
略主義とを駆逐するために戦つてゐる
のであるから、インド国民が若し同様
の希望を有するなら、デモクラシー国家
と協力すべきである」と。インドの諸君
は米国のかゝる言葉を聴いてどう思ふ

でありませう。インドにおける四世紀に
亘る英帝国主義の虐政はどうであり
ましたか。フィリピンにおける米帝
国主義の欺瞞政策はどうでありました
か。中国に対する米英の不平等と侵略
主義は、中国人が最もよく知つてゐる
のであります。
 確乎たる戦争目をもたぬ米国が、
自己に不利益な事実を極力隠蔽しつゝ
頽勢を挽回しようと、口先だけでわが
方の主張を借用してみたところで、現
実がその化けの皮を剥いでゆくのは当
り前でありまして、これを別の見方か
ら致しますと、我が高邁な道義的世界
観が彼我世界観の闘争において敵側を
屈服させ、輝かしき勝利を得つゝある

ことを示すものといへます。
 なほ我が海外放送では対敵放送用の
標語を決定
し、これを対米、対重慶、対
インド、その他への放送中に使用して
をります。その標語の一部は六月十日
発行の週報に発表しました。
それを見
られた全国の「週報」の読者諸君から多
数の海外放送用標語が連日情報局に送
られて来ました。その中から適当のも
のを近く海外放送に利用することとな
りませう。

 我が放送の反響

 次ぎに我が海外放送の反響を二、三ご
紹介いたしませう。日本からの放送に
戦々兢々たる濠洲では、カーチン首相
が日本の放送に驚くことなく、冷静を
持するやうにと国民に呼びかけ、また
濠洲放送は、次ぎのやうに述べて狼狽
振りを暴露してをります。
 「最近の東京放送からみて、日本の
第五部隊が濠洲内で大活動
してゐるの
ではないかとの懸念が生じ、濠洲政府
は、濠洲から日本へ情報と送るために
使用されてゐる手段につき目下調査中
である。しかし、濠洲政府は、近くこ
れら敵の第五部隊を摘発し、彼等を封
殺することになつたから、東京ラジオ
はさぞ困ることであらう。」
 またビルマに対して行つてをります
我が海外放送は、ビルマ作戦中に大き
な反響を呼び
起し、ビルマ民衆はラジ
オを通じて日本の大東亜戦争の目的を
理解し、皇軍に協力しビルマ独立に
向つて勇躍してをりますが、日本から
ルビマ[ママ]向放送について、去る五月十七
日、英国情報省東洋通信員ジョン・ガ
ルヴィンは、ニューヨーク・タイムスに
かう書き送つてをります。
「日本人と結婚した或るビルマ婦人は
日本の女ホーホー卿である(ホーホー卿
といふのは、ドイツの放送者の名で、英国
向の放送で世界的に有名であります)。彼
女は、東京から銀の鈴をころがすやうな
美しい声で日本の美徳を称揚し、「日本
は約束する。日本の爆撃機はビルマの
あの美しいパゴタを注意深く回避する
であらう。そして若しも万一不幸にも
その瓦の−片でも破壊されたならば
日本軍の到着後直ちに黄金の瓦を以つ
てそれを補修
するであらう」と放送し
たのである。日本からの放送によりビ
ルマ国民は今や熱烈な愛国心に燃え、
日本と協力し日本に絶対の信頼を寄せ
てゐるのである。」
 敵が認めるやうに日本の正義は、
ジオを通じてビルマ民衆の心の底に浸
み亘つてをります

 岐路に立つインドに対しましては、
列国の宣伝放送は火花を散らし熾烈
を極めてをりますが、英国BBCのイ
ンド向放送は、手を変へ品を換へてイ
ンド人に甘言を以て呼びかけ、重慶放
送までが米英の尻馬に乗つて「インド
は英本国と協力すべし」と呼びかけ、
また米国サンフランシスコ放送局は
「英国に対する怒濤の如き反対振りは、
インドの政治指導層の瞞着を示すもの
である。インドの審判の日は刻々に迫
つてゐる。もしこの際、ガンヂー、ネー
ルその他が英国の支配を拒否したなら
ば、インド人は永遠に人類自由の敵と
して記憶されるであらう

 とニューヨーク・タイムスの社説を
引用してインドを威嚇し、さらに「米
国はインドに発言干渉の権利がある」
などと放言し、懐柔と恫喝の両刀使ひ
を以て執拗にインドに呼びかけてをり
ます。
 これに対し我が海外放送は、米英の
インド政策を完膚なきまでに剔出する
と共に、英国の戦争目的は植民地解放
の防遏にあり、英帝国主義は自己のた
めにのみ戦ひつゝある
こと、インド国
民はこの際、英の道伴れとなつてイン
ドを自ら破壊するやうな愚を犯すべき
でなく、一致団結して英と抗争し、英人
をインドから駆逐すべしと反復力説
し、日本の今次戦争目的は、東亜にお
いて英米により搾取され来つた被抑圧
民族を解放する聖戦である旨を、東條
総理大臣の数度に亘る声明を基礎とし
て力強く呼びかけてをります。
 この日本からのインド向放送に対
し、「インドに対し、今や英国は思ひ
切つた政策に出ない限り、英国はイン
ド国内に澎湃として起りつゝあるアジ
ア人のアジア建設
といふ日本からの放
送の反響に対処し得ないのである。英
国の支配を脱したいとのみ考へてゐる
多数のインド人にとつて、日本からの
放送は大きな影響を与へてゐる」
 とデーリー・ヘラルド紙は述べてを
リます。インド政庁は最近日本の放送
聴取禁止の可否の決定をインド各州政
府に委任致しましたが、ガゼット紙は
「禁止は有害無益である。日本が戦ひに
勝つてゐる限り、如何なる対策を講じ
ても日本からの放送の效果を抹殺す
ることは出来ない」と論じてをりま
す。

  圧倒的な我が放送

 大東亜戦争の勃発から今日まで約半
歳、その間、米英の宣伝放送は、自国の
敗戦を糊塗することにのみ汲々として
常に遅れをとり、そのニュースはデマ
に充満し、放送に生彩なく、終始力弱く
追随的であるのに対し、日本からの海外
放送は大本営発表をはじめとして正確
なニュースだけを報道
し、しかも作戦
と緊密に呼応し、敵の先手を打つて迅
速に積極的、能動的に働きかけてをり
ますために、日本の放送は今や世界を
圧倒し、世界の言論を指導しつゝある
現状であります。
 これも要するに、米英に確たる戦争
目的もなく、また米英の宣伝が小手
先だけの、魂の抜けた、いはゞ宣伝技
術に終つてゐるのに対し、我が方は宣
伝を世界観の戦ひであると見、大東亜
戦争のもつ高き理想と道義的世界観を
以て、米英の利己的、打算的世界観を破
摧し、世界を八紘為宇の皇道を以て光
被しようとする揮身[ママ]の努力が、とりも
直さず我が対外宣伝であり、対外放送
でなければならぬと確信するからであ
ります。
 またこれは、永き欺瞞と貪慾と汚辱
の連鎖であつた米英的一切のものへの
果敢な挑戦であり、その闘ひを通して
真に東洋的な、真に純潔無垢な、真
に道義的な、真に悠遠無窮な大アジア
建設への情熱が、わが宣伝の底を貫い
てゐるからであります。この情熱、こ
の信念がマイクロフォンを通して、世
界の大空に拡がり行くところ、地球
は、世界史は、燦たる光に満ちた新
転廻を遂げずにはおかないのでありま
す。
 しかし、戦ひはまだ/\これからで
あります。世界宣伝戦は今後ます/\
熾烈化するでありませう。放送といふ
強力な武器を以つて、われ/\は最後
の勝利まで戦ひ抜かねばならないので
あります。