第四八号(昭一二・九・一五)
 国民精神総動員特集号
 尽忠報国の精神   近衛内閣総理大臣
 忠誠奉公の道   文部省
 和協一心の道   内務省
 上海戦線の進展         陸軍省新聞班
 第七十二回帝国議会の概観     内閣官房総務課

 

和 協 一 心 の 道
                     内   務   省

 今回行はんとする国民精神総動員は、政府も民間も共に一体となつて一大国民運動を起し、挙国一致堅忍不抜の精神を振起して現下の時局に対処すると共に、今後遭遇するであらう所の凡ゆる困難を克服して愈々皇運を扶翼し奉ることを本旨とするものである。而して本運動の目的を達成するには、先づ国民が時局に関する充分なる認識を持つと謂ふことが最も大切であらうと思ふ。換言すれば、我国の四囲の国際状勢が如何に在るか、我国は何故に支那を膺懲しなければならないか、今回の事変の所期の目的は何か、と謂ふ様なことを国民各位がしつかりと腹に容れ、確乎たる決意を持つて本運動に当つてこそ始めて徹底せる成果を期待し得るのではないかと思ふ。
 惟ふに今次の事変の由つて来る所は遠く且深いものがあるのであつて、我が帝国が東亜の平和の確立と云ふことを一貫せる国是とし、永年日支両国の親善提携に努力して来たにも拘らず、支那は帝国の真意を全く理解することなく、南京政府は我が帝国を排斥侮蔑することを以て国策とした。然も此の排日抗日を以て国家の統一と自己の政権を維持するの方策とし、小学校に於て迄も排日教育を行ふといふ有様である。此の如く一国が他国に対する敵意を幼時より鼓吹するといふ如きは文明国には類例を見ざる所であり、更に近来に至つては、赤化勢カをさへ容れて其の目的の為には国をさへ売るの愚をすら敢てして顧みないのである。
 事変勃発以来我国としては飽くまで隠忍自重し、出来る丈け事件の拡大を防ぐのに努めて来たのであるが、支那側は却て帝国の隠忍に乗じて益々侮日抗日の気勢を昂(たか)め、南京政府の逆宣伝とコミンテルン(国際共産党)の煽動に乗ぜられたる支那国民の感情の激する所、事態は日一日と悪化し、局面も亦中支、南支に迄波及して来たのである。此処に於てか最早帝国政府としても従来の如く消極的且局地的に之を収拾することが不可能であると認めて、遂に断乎として積極的に且全面的に南京政府及支那軍に対して膺懲の鉄槌を下すことゝなつたのである。事此処に到つては彼に徹底的打撃を加ふることが東洋平和延いて世界平和の基礎を固むる為に、又人道上よりしても断じて必要であると確信して止まぬものである。然し乍ら徹底的支那軍の膺懲、此の事だけでも決して簡単な容易なことではない。広大な領土と巨大な人口とを有する支那に於て、其の軍隊をして完全に戦意を喪失せしめること、而して執拗なる長期抵抗を予想せられるに当つて、之を徹底的に膺懲すること夫れだけでも非常に大なる努力を要するのである。而して今や赤化勢力は本事変を奇貨として支那に其の魔手を伸べつゝあるのである。又支那には列国の権益が錯綜し国際関係は極めて複雑であり、微妙の関係に在るのであるから、此の間に処して帝国の所信を断行せんとするに当つては、我が前途には幾多の難関が横はり、数多の困難が相接して至ることあるを充分覚悟せねばならぬのである。而して我が帝国の今回敢然蹶起した所以のものは、帝国の領土を拡張せんが為ではなく、又単に戦勝を貪らんが為でもなく、真に東亜の安定を希つて止まぬ正義心の発露に他ならぬのである。支那側の暴戻を膺懲し、真に其の非を覚らしめて帝国と相携へて東洋平和の確立に努力せしむるに至ることを根本不動の目的とするものである。従つて此の所期の目的を貫徹するに至る迄は断じて退かざるの決意を以て臨むのでなければならぬと思ふのである。
 今回の国民精神総動員は単なる教化宣伝の運動ではない。吾々国民が其の日常生活の間に実践に依つて奉公の誠を尽したいといふ趣旨に依るもので参る。都市と謂はず、農村、漁村と謂はず、全国隅々の各家庭の中迄滲透して、全国民挙つ実践に依つて本運動に参加せられたいのである。婦人も子供も、勤人も学生も挙つて夫々の立場から、夫々のカに相応した分担をして本運動に参加せられたいのである。
 例へば本運動に関して吾々国民の実践すべき事項として銃後の後援に関することがあるのである。現在に於ても国民各位が実に涙ぐましい計りの努力を以て銃後の後援に尽して居られるが、今後心掛くべきことは此の銃後の後援の強化持続と云ふことではないかと思ふのである。即ち事態の推移に顧みて、今後一層銃後の後援について其の徹底強化を図ることが必要であると思ふのである。夫れと同時に之を長く持続せしめること、即ち一時の感激と興奮とに終らしめることなく、長く其の心持を保持して後援の永続化を図ることが是非必要であると考へる。之が為には種々の実践すべき方法があらうが、其の一は出動将兵に対する感謝の念を深め、其の深き感謝の念に基いて銃後後援の普及徹底を図ると云ふことである。斯くして派遣軍人の家族慰問とか家業の幇助とか云ふことが進んで行はれ、又殉国者慰霊、其の遺族に対する慰問、家業封助と云ふことも徹底して行はれることゝなり、更に各鍾の献金献品の心からなる赤誠ともなつて現はれることゝなるのである。第二に隣保相扶の発揚と云ふことも銃後後援の重要な実践の方法である。又勤労奉仕と云ふことも銃後後援の実践方法として適当ではないかと思ふ。出征将兵は其の遺家族のことを無論心配して居らうが、又自分達の村はどうなつて居るか、自分達の組合はどうなつて居るか、自分達の仕事場はどうなつて居るかと云ふことも亦心に掛りて居るであらう。彼等がやがて凱旋して国に歸る日の為に、彼等が露営の夢にも結ぶ故郷を守ると云ふことも亦銃後の大切な務でなければならない。其の為には、奉仕事業の促進とか、共同労作に依る生産カの維持とか云ふことを実践することが意味深いことである。
 又本運動に関して吾々国民の実践すべき重要なる事項の一として非常時経済に対する国民の協力と云ふことがある。各自其の職場を尊重し、勤勉力行以て国に酬(むくい)んとする勤労報国も其の一である。労働者と謂はず、資本家と謂はず、産業報国の赤誠を致し労使協力以て生産カの拡充に向つて相協力し其の能率化を図ることも亦其の一である。何人と雖も利益の壟断の如きは断じて之を自戒自制すべきであり、又売惜しみ、買ひ占めの如きも充分自戒して販売価格の公正を期するに努めることも其の一である。冗費を節約して貯蓄を図り進んで国債に応募することも其の一である。又国債収支の改善に関する国民的協力としては国産品を使用すること、従つて必要已むを得ざるものゝ外は輸入品の使用を抑制すること、出来得る限り国産代用品を使用する等の心掛けを以て実践に当ることも肝要であらう。国際収支の改善に関聯して国民が進んで金(きん)の使用を抑制することも亦必要であると思ふ。
 次に本運動に於て吾々国民の実践すべき重要なる事項の一として資源の愛護と云ふことが考へらるゝのである。御承知の通り我国は元来天然資源が豊富でないのであるから、斯る時局に処しては資源を愛護して国策遂行に支障なからしむると云ふことが極めて大切である。従つて不足資源に対する消費の抑制或は代用品の使用、廃品の蒐集提供其の他国防資源の献納等国民の実践協力すべき事項が多く存すると思ふ。尚先程来申述べた事柄の実施に関する細目其の他本運動に関して、国民各位の御協
カを煩はしたいと思ふ種々具体的の事柄については、何れ政府又は地方庁※或は各種団体等から御願ひをすることゝなる筈であるから、能く政府の意の存する所を理解せられて充分なる御協力を願ひたいと思ふ。
 幸に本運動に依つて挙国一致日本精神を昂揚し、国民経済を強北し愈々国カの増進を旺盛にし、銃後の大任を完ふすることを得るならば上 聖旨の万一に副ひ奉り、皇運隆昌の基礎を固め、敵を千里の外に撃破する所以で為ると信ずる次第である。