植民地と歴史の教訓


 米国は遂に全比律賓の占有を断交すべしと伝へらる。『インピリアリズム』は遂に西班牙に勝ちたる米国を征服せり。
 然れども植民地の利害に就いて、歴史の教訓を見よ。二十世紀には、植民史上の一改革を見むとは、炯眼なる歴史家の明言せる所也。
 独逸が欧洲以外に其の範囲を拡めしは、僅々十四年以来の事也。彼れの領地は亜弗利加に於ける九十二万方哩の外、太平洋及び支那膠州湾にもあり。されど内(うち)失費の莫大にして、外所期の効力を有せざるは、独逸外交家の早くつぶやける所也。仏蘭西は其の保護国を合すれば無慮三百六十万方哩の大領地を有す。然れども其の亜弗利加に在るものは素より言ふを竢たず、亜細亜、南洋、西印度にあるものも、実に非常の金額を本国より補助するに非ざれば維持し難き也。伊太利の紅海沿岸の属地も、徒に母国の納税者を苦むるのみ。西班牙に至つては最も不幸なる植民史を実験せること言ふまでも無し。日本も亦台湾に困弊しつゝあるに非ずや。
 北米合衆国にして商業国たり、平和国たる以上は、其の歴史の教訓に背きて比律賓を占有するの利益、果して確実なる乎。

                                 (三十一年九月)