鈴木内閣の成立

  四月五日小磯内閣の総辞職に伴ひ 天皇陛下におかせられては組閣大命樞密院議長海軍大将鈴木貫太郎男に降し給うた。
  後継内閣組織の大命を拝した鈴木大将は直ちに組閣に着手した結果、、同七日夕刻迄に各閣僚の銓衡を終り、同夜宮中において親任式執り行はれ、鈴木新内閣はこゝに成立、鈴木新首相は初閣議後、次ぎの如く「老躯を國民最前列に埋めん」と烈々たる談話を発表した。

 戦局危急を極むるの秋に当り、揣(はか)らずも内閣組織の大命を拝しまして、深く恐懼に耐へませね。幸ひにして閣僚の銓衡を終り、唯今親任式を挙行せられました。
 帝国の自存の為にする今次の戦争は今や如何なる楽観も許さぬ重大なる情勢に立至りました。殊に相次ぐ崇高なる前線の犠牲、果敢なる銃後の努力にも拘はらず、遂に敵の反攻をして直接本土の一端を占領せしむるが如き事態と相成りましたことは、臣子として誠に慙愧に耐へぬ次第であります。万一形勢此の如くに推移せんか、帝国存立の基礎危しと云はなければなりませぬ。而もこれが匡救の重責は一億の同胞赤子を措いて他にこれを求むる事は出来ませぬ。
 驕敵を撃攘し、祖国を守護すべき抗戦力もまた、国民の 上御一人に対し奉る至誠の他に存すべき筈はありませぬ。
 今は国民一億の総てが既往の拘泥を一掃して尽く光栄ある國體防衛の御楯たるべき時であります。私は固より老躯を国民諸君の最前列に埋める覚悟で国政の処理に当ります。
 諸君も亦、私の屍を踏越えて起つの勇猛心を以て新たなる戦力を発揚し、倶に宸襟を安んじ奉られんことを希求して止みませぬ。


新閣僚一覧

内閣総理大臣       海軍大将正二位勲一等功三級男爵  鈴木貫太郎
外務大臣兼大東亜大臣       正三位勲一等         東郷茂徳
内務大臣                正四位勲三等         阿倍源基
大蔵大臣                従四位勲二等         廣瀬豊作
陸軍大臣          陸軍大将従三位勲一等功三級    阿南惟幾
海軍大臣          海軍大将従二位勲一等功一級    米内光政
司法大臣                正四位勲二等        松阪廣政
文部大臣                正五位勲二等        太田耕造
厚生大臣                従四位勲二等        岡田忠彦
農商大臣                正三位勲二等        石黒忠篤
軍需大臣          海軍大将正三位勲一等        豊田貞次郎
運輸通信大臣                 勲四等        小日山直登
国務大臣                正五位勲二等        櫻井兵五郎
国務大臣          海軍中将従三位勲一等        左近司政三
国務大臣兼情報局総裁       従三位勲二等        下村宏
国務大臣          陸軍中将従三位勲一等        安井藤治
内閣書記官長             正五位勲四等        迫水久常
法制局長官              従三位勲二等         村瀬直養
綜合計画局長官      陸軍中将従四位勲三等功四級    秋永月三