日本国民の抱負


 所謂開園進取の方針なるものハ決して滑極的の意味にのみ鮮挿すぺから
            上ん
 ざるなり表面上より讃で字の如き鮮繹を下すに於てハ己に積極的の意味
 を有するに相違なきもの1如しと維も之を質際に徹するに往々反封の結
 果を生ずる場合も亦少しとせざるなり今並に余輩の主張せんと欲する所
 のものハ紹封的に積極の意味を以て之を賓地に應用せんとするに在るな
                             かろ
 り此大抱負を賓地に試みんと欲する我国民の責任たる其れ堂軽しとせん
 や而して政治機関の衝に官るもの固より其負槍する所大ならざる可らず
 と錐も一般国民の各自に任ずる所にして眞箕ならざる以上ハ決して充分
 なる効果を見るぺからざるなり語を換へて之を云へバ我日本国が世界に
                                        上
 封して此大抱負を儀表せんとするにハ国民一致囲結の力に頼るにあらざ
 れバ到底魚し得ぺからざるなり
                                     ・カ
 従来鎖国の陪習に浸潤したりし結果として夫の一時欧化主義全盛の頃ま
 でハ欧米の文物制度及び其他百般の畢蛮に至るまで轟く模倣を是事とし
 殆んど自主心を滑磨し了りたるが如き感ありし然れども物其極に至りて
 奨ずるの格言に漏れず反封の風潮ハ一時に激動し来り遽に大勢を挽同す
 るに及びたりとハ維も猶未だ積極的の効用を見るに至らざりし而して利
 の在るところ弊も亦之に従ひ結局此風潮を反封の極端に進めんとするが
 如き固陪家をも生ずるに至りし結果ハ即ち政府の官局者をして冒頭に掲
 ぐる所の開園進取なる文字を提出せしむるに至れり故に若し此文字の意
 味にして欧化主義全盛時代の資況に富るものなりとせバ余輩未だ積極的
                こ たい
 のものと見倣す能はずして唯故態を再演するに過ぎざるものと云はんの
 み即ち名ハ甚だ実にして英資ハ杢虚なるが如きハ余輩の甚だ取らざる所
 なり余輩が曾て條約改正内地雑居に関して痛論せし所以のものも亦箕に
     かな   おそれ
 名賓の相副はざる虞あるに基因せずんバあらず
 余輩の見て以て眞成の開園進取とする所ハ資に自主的の開園進取にある
 なり厳ふに欧米の諸強国なるものハ皆自主的開園進取の方針を採り着々
                  そくせき
 其歩を進めて世界到る虞殆んど其足跡を留めざるなく小寧の稚童と錐も
                                 おく はせ
 地圃を開いて直に事の賓際を徹するを得べし此間に介立して後れ馳に自
 主的開園進取の道に上らんと欲する固より他と衝突するが如き場合の頻
 繁なるぺき覚悟なかるぺからず加之ならず此開陵進取なる文字の公然儀
 表せられてょり以来偶然にも日清戦争の大活劇を生ずるに至り先づ直接
 に衝突の端瀦を開きたるハ掩ふぺからざるの事賓なりとす故に今日に在

   ・ヽ l▲丁
 てへ蜃予報前の如くh廻喝h聴取なる文卑丁を滑L壌的に解繹し丁目から甘んず
              .き −、
 ること能はず所.謂」騎虎の勢を以て頓■樋的に…進行するの外あるぺからざる
 なり今や我」同氏ハ己に此危地を踏む宜しく大抱負を持して膏に活地を求
 むるのみならず猶進んで世界に封する責任を表さゞる可らざるなり
抑ミ欧米の諸強国人と構するもの其物質的進歩上に於て或ハ賞讃すぺき
もの多かるべしと錐も萬物の壷長たる人間の品位上より之を見るときハ
之を第一流に置くぺきものなるや香や是れ余輩の甚だ疑ふ所なり故に英
文物制度なるものも未だ俄に人間の品格上より論じて美を蓋したりと云
ふぺからず人間の美徳とすぺきもの果して之を彼に見るを得る乎之を培
養するの造果して彼に備はる乎若し人の禽獣に異なる所以のもの単に肉
体上即ち衣食住の程度の差異に止まるものありと云はん歎余輩ハ又何を
か言はん所謂飽食媛衣逸居して敦なけれバ則ち禽獣に近しとの古言もあ
ることにて萬物の姦長たる所以ハ別に存するあるなり此鮎より之を考ふ
るときハ我国民の大抱負とする所ハ資に忠孝仁義所謂人間の大道とする
所にありて存せざるぺからず香余輩は我邦の歴史に徴して能く之を資践
窮行しっ1ありしを断言するに蹄躇せざる也
物質的進歩の計らざるべからざるハ今更之を喋々するの必要あるなく大
勢己に此方針に向ひつトぁれバ唯此上にハ国民共同一致のカを以て国内
の小競争を排し世界と衡を争ふの覚悟を為すにあるなり厳ふに此鮎ハ自
然の趨勢に任ずるも或ハ其方針を誤まらざるぺしと維も之が薦めに我特
色とする所を滑磨し去るが如きこと無しと云ふべからず此に於て乎余輩
                  さいれい
ハ一番の勇気を鼓舞して益ミ白から沖励し物質的の進歩と同時に精神的
訓練を勉め遂に世界の国民をして模範を我に取らしむるに至らんことを
期す果して此の道を能くすれバ則ち我の所謂開園進取の方針なるもの始
めて其貨を挙げた印d式ふべし己に此大抱負を有する以上ハ筍くも小成
             せうめいり
に安じ小安に馴れ動すれバ小名利に汲々として大計を誤るが如きことあ
る可らざるなり今や囲運正に態達の端緒に就けり余輩国民たるもの宜し
く奮救助楕以て此大目的を達すべし人間の快事萱之に過ぐるものあらん


 や
                 ハ明治二十∧年十ノ月十七日「東京朝日一新一間」〕