真正の文明国
                    
      《自構文明園と野攣的行動》



 今の世界は重言を以て園を保つぺきにあらず、必ず資力を以て相ひ争ふ
 べし、実力にして足らざれば国の濁立安固復た得ぺからず、現に夫の支
 那を見よ、欧洲の列国が猶漁なく其の要地を占領して、杢言の償値なき
                                    
 を事実に示せり。以上は我が国に於て文明家と自稀する俗輩の得意厳に
      
 説く所なり。彼輩の所謂る資力とは兵力及び金力の謂にして、即ち支那
                    
 人の往古より毎に言ふ所の富国強兵に相官するものといふぺし。富国強
 兵といへば頗る荘重に聞ゆれど、徐ろに人顆界の以て他の生物界と異な
                                
 る所の眞理に稽ふるときは、彼輩の説は少なくとも文明思想に反するを
 見る。
 官図強兵の必要は不文明外時代より既に然り、寧ろ不文明時代に於て其
 の必要は今日よりもこ屠多かりしを見る、猶ほ野攣の社会に於て専ら腕
                                        
 力及財力に勝敗優劣を決するが如きのみ。人類の償値は唯だ生物的に存
                                
 する者ならば、第一に猛獣の破滅する所と為り第二に野轡人の併呑する
        
 所と為りしや香し。欧洲今日の存立は抑ミ人類の生物的償値より来るか
                              
 婿た正義自由及博愛より来るか、吾輩が大の自構文明家に向ひて先づ間
 はんと欲するは此の鮎に在り。持じて国際の問題に入るも亦た然り、正
 義自由及博愛を杢言として之を軽蔑する外交家は是れ弱肉強食の状を是
 認する者、猶ほ文明の外交は斯くの如しといふ乎。
 独逸園は殆ど海賊的に山東の一港を掠奪し、露西亜亦た脅迫的に遼東の
 二港を借入す、而かも列国は環硯して宅も異議を容れずして、反つて自
 ら其の畢に傲はんとするは、是れ支那国民の生物的資力なきに乗じて正
                                       
 義自由博愛を無視するなり。日本の自縛文明家等が欽洲列国の此の行動

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 を以て、資力の結果なりと為し暗に之を正常現するが如きは奇怪といふ
  
 ぺし。彼等毎に欧洲列国を文明園として之を崇拝し、若し歌人の騎暴を
 罵る者あれば、彼等相ひ率ゐて目するに扶夷家又は排外汲を以てするや
 久し。今や彼等の崇拝する文明園は正義自由博愛及び平和の大道を無線
 して、敢て獣カを我が東亜に違うす、眞正の文明思想を有する国民は之
 れに抗敵せずして可ならんや。
                   
 吾輩は彼れ自縛文明家の所謂る資力を無用とする者にはあらず、寧ろ列
                           
 国の野攣的行動に対する為めには此の所謂る実力を有用とすること、宅
                                 
 も彼れ自縛文明家等に譲らず。我国の自縛文明家は欧洲列国を文明囲と
                               
 して之を崇拝するの樋、其の野攣的行動をも正常現して之に抗すること
 針陛が絆如h舟肘掛c幹かが郁粁針静か軒がかh資力の有用を認め
 ざるにあらずとするも、彼等の之を有用とする所以は吾輩の有用とする
 所以と其目的を異にす。彼等既に野轡的行動を正常現するからには、其
                                  
 目的亦た野攣的なるぺきは自然の辟着なり、彼等の所謂る資力の有用は
 寧ろ獣カの有用といふに過ぎざるなり。
 全図の良民より膏血を絞り取り以て、過大なる軍備撲張を行ひながら、
 今ま眼前に野轡的行動を揖にする者あるも、曾て之に抗議せざるのみな
                                        
 らず、刺さへ寮カの結果として之を正常現す。知らず軍備撰張の目的は
                               
 自構文明園の尾に附随して野攣的行動を為すに在りといふか、香らずん
                               
 ば軍備撰張の目的復た解すべからざるに至らんとす、吾輩は我が国の自
                      
 構文明家に向ひて其の所謂る資力有用の途を問ふ。実カの有用は野轡時
 代より既に然り、香な野轡時代ほど多く資力の有用を感す、自構文明家
 は今の世界を野轡時代の世界と認めなば吾輩復た異存なし。苛も欧洲
                            
 列国を文明国として之を崇拝せば、宜しく眞正の文明思想を以て大の野
 蟹的行動に反抗すぺきのみ、軍備撲張も此に於て始めて必要あるを見
 る
 眞正の文明思想は野轡的行動を正常祀せず、従つて野蟹的行動ある団々
 を文明祓せず、従つて欧洲列国の此の東亜に於ける近状を以てせば彼れ


                                 
 列国は殆ど文明囲にあらずして野賛国なり。野攣園に向ひて反抗を企つ
                               
 る者は是れ眞正の文明家にあらずや、眞正の文明家が実力を有用とする
が酢野即断がが絆鮮がhが、軒折酢野が秤緋が郎抑や軒が郁がが伊野
             
 カを轟くして以て之に反抗す。資力余りありと雖ども、揖に之を他邦に
 加へざるは眞正の文明園なり、資力足らずと雖ども不義に向ひて反抗す
 るも亦た眞正の文明園なり、吾輩は此の鮎に於て正しく大の自構文明家
                                 
 と道を異にするものなり。何となれば、人顆界の法則ほ他の生物界の法
            
 則と異なるものあれほなり。
                  (明治三十一年四月二十四日「日本」)