満洲国承認九周年記念日に際して 外務大臣 豊田貞次郎

 本日満州国承認第九周年記念日に当り、聊か所懐を申述ぶる機会を
得たことは、私の最も光栄とするところである。
 顧みれば、昭和六年九月十八日柳條溝に於ける暁の銃声は、東亜に
黎明をもたらす鬨の声となつて、翌昭和七年三月には三千満民衆の輿
望により、五族協和の大理想を掲げ、王道楽土の実現を期して、満洲
国は誕生したのであるが。その建国の当初から浅からぬ因縁のあつた
我が国は、同年九月十五日逸早く之を承認して、同国の健全なる発達
にあらゆる援助を惜しまざる態度を示すとともに、日満議定書により
満洲国の国防に対し、共同防衛の実を自ら負つたのである。それが為
めには飽くまでも誤つた認識の下に行動し、東亜の新事態に目醒めざ
る国際聯盟に対してほ、昭和八年三月断然脱退を以て酬ひ、東亜に於
ける安定勢力として、自主独往の堅き決意を全世界に対して披瀝した
のである。
 その後満洲国に於いては、官民一致協力、好く国力の充実に努力せ
られた結果、各種産業は飛躍的発展を遂げ、交通網また拡充整備せら
れ、さらに各般の法制の整備、教育制度の普及等その発展振りは正に驚
嘆に値する次第であつて、嘗て張家の秕政に呻吟したる満洲に比し、
誠に今昔の感に堪へざるものありと思はれるのである。
 かくの如く、満洲国は近代国家としての形態を完備するに至つたの
で、我が国は昭和十二年の同国独立国としての正当なる要望に副ひ、
その健全なる発達に寄与する為め、率先して従来満洲国に於いて享有
したる治外法権を放棄し、且つ満鉄附属地行政権の移譲を断行したの
である。
 満洲国のかかる駸々乎たる発展振りは、また列国に大いなる感銘を
与へて、先づ昭和九年には中米サルバドル国の承認あり、昭和十二年
にはイタリー、翌十三年にはドイツもまた満独友好条約に調印して正
式国交を開いたのであるが、さらに昨年は日満華共同宣言によつて、
中華民国も同国を承認するに至つた。本年に入つてからも、ブルガリ
ア、フィンランド、タイ竝にデンマークの承認があつて、合計承認国
は現在十四箇国に達してをる状況である。さらにローマ法王庁から使
節派遣等の事もあり、その間昭和十一年には、満独協定、十三年には
日満伊通商協定等締結せられ、東亜に於ける独立国としての満洲国の
存在は、愈々内外共に確乎たるものになつたのである。
 日支事変勃発以来、満洲国が東亜新秩序建設に邁進する我が国の使
命を良く諒解し、之に協力したることは、誠に涙ぐましいほどであつ
て、日満一体の大理想を如実に示したものと申すべく。さらに国民政
府南京に遷都するや、昨秋日満華共同宣言によつてこれを承認し、茲
に満支間に善隣友好、共同防共、経済提携の原則を確立するに至つた
のである。さらに昨年我が国の紀元二千六百年祝典に当つては、皇帝
陛下の第二回目の御訪日があつて、日満間の紐帯愈々堅く、日満一徳
一心の精神を発揚して、両国永久の基礎益々鞏固なるを世界に示した
のである。
四囲を顧れば、いまや世界は挙げて動乱の巷と化してをり、我が国
としましても、有史以来の超非常時に直面してゐるのである。ここに
於いてか日満両国は従来の親善関係をさらに一層強化し、相共に扶け
て一意東亜新秩序の建設に邁進を要するのであつて、日満両国民がこ
の堅い決意と信念を有する以上、東洋民族の将来は洋々たるものある
を確信するのである。本日ここに盟邦帝国承認第九周年記念祝典を挙
行せらるるに臨み、同国の着々たる発展振りに対し、改めて敬意を表
するとともに、その国運の愈々隆昌ならんことを断念して已まざるも
のである。 
                       (九月十五日放送)