その後の出版新体制 情報局情報官 田代金宣

 皆さんの御家庭で、毎日のやうに御覧になつてゐる、いろいろの本
や雑誌を発行するところの出版界を、根本的に建直さうといふ、いは
ゆる出版新体制運動 ― つまり出版界の大革新は、御承知でもありま
せうが、昨年八月以来関係官民一体となつて審議を重ねて来まして、
昨年末に社団法人日本出版文化協会が生れ、さらにこの五月五日には
日本出版配給株式会社も出来まして、愈々全面的な実践段階にはいつ
て参りました。これまでは大小一百三十余の取次店が、まちまちに扱
つてをつた本や雑誌のうち、雑誌を六月二十一日から、新配給会社が
一手に全国に向つて捌くことになけました。
 出版新体制は日本出版文化協会を中心に、洋紙共販会社、日本出版
配給会社、それから全国各府県の書籍商組合とが構成するものであり
まして、我が日本の全出版界を官庁側と一緒になつて、一元的に統制
指導する任務を持つてゐるのであります。このうち洋紙共販会社は出
版物の資材であります紙を作る会社、即ち製紙会社を統制する会社で
ありまして、既に昨年暮に出来てをります。出版業者に渡す紙は、こ
の共販会社を通じなければならないことになつてをります。これから
の本や雑誌は用紙の製造元から小売商の店頭売まで、すなはち生産、
配給、消費まで一貫して統制されるわけでありまして、その方法や対
策は日本出版文化協会が中心となつてやつて行くのであります。もち
ろんこの際は国策的な仕事でありますから、日本出版文化協会は、主
に主務官庁の情報局や関係の深い商工省、内務省、文部省等とも密接
な関聯を保つて万全を期さねばなりません。
 日本出版文化協会は、既に仕事を開始してをります。予定通りの仕
事を果すためには、二百名程度の職員を要するのですが、ただいまの
ところでは開業早々なので、職員は約八十名ばかりであります。しか
しこれ等職員は孰れも優秀な人達で、文化局、業務局、それぞれの担
当部門にあつて熱心に仕事をしてをります。協会は会員組織でありま
して、会員は出版業者を原則としてをりますから、会員にならなけれ
ば、出版業を営むことが出来ない建前になつてをります。
 その会員総数は現在で三千十七名であります。このうち第一種会員
これは一般出版業者で二千三百三十六名、絶対多数です。公共団体の
出版を第二種会員としてをりまして、これが四百二十五名、次に第三
種会員として二百五十六名、これは従業員から適材を選んだものであ
ります。この外に学識経験者から第四種会員を選ぶことになつてをり
ます。かやうに会員も一応決定しましたので、初顔合せの意味で、今
月二十四日午後六時から情報局講堂におきまして、日本出版文化協会
会員の大会合を行ひます。目下協会では最高幹部が主となつて文化、
業務両局の職員を動員して、出版新体制のモットーたる「良書を安く
普及する」ことを、如何にして実施施すべきかを、一生懸命に練つてを
ります。事務局の外に設けた文化委員会や、業務委員会も 度々開き
まして、今後の出版物の指導統制方法を、いろいろ具体的に研究して
をります。出版業者に対する用紙の割当をどういふふうに改めたらよ
いかとか、出版物の価値の重い軽いをどういはふうにしてきめるのが
一番適当であるか、といふやうな問題も、最も大きな問題でありまし
て、なにしろこれまでの儲け本位の出版物を、国家本位の出版物にせ
ねばならねので、極めて慎重な態度で審議を続けてをります。歴史的
世紀的な大事業でありますから、拙速を避け堅実な方法を執つてをり
ます。また時局に即応した国家的良書に対しては、申請があれば協会
で慎重に審査して、可否の判断をつける、これは情報局の新聞雑誌用
紙統制委員会から、委任されて現在やつてをります。出版新体制の最
前線部隊とも申すべき、地方の書籍商に対しましては、各府県を単位
とした書籍商業組合をつくる方針に決しまして、差当り東京市内を一
丸とした組合をつくつて、これを参考にし、それから各地方にそれぞ
れ特殊事情を考慮して、組合を作つて行く方針であります。
 以上申し上げましたやうに出版新体制は、皆様方国民全般の思想に
大きな影響を与へる出版物の大改革改行につきましては、今後一層の
御認識と御協力を皆さまにお願ひ致します。

                   (五月九日AKより放送)

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