国防国家とは
如何いふものか


 近衛総理大臣は十九日施
政方針を明かにして、『我
国当面の政策は、国防の充
実に重点を置く、国家の総
力をこの大きな目標の下に
綜合し、統制する』と語つたが、この方針からみても、我国現
下の重要な課題は『国防国家の建設』にある。従つて、次ぎに、
国防国家とはどんな意味を持ち、特に我国に於て如何なる国防
国家の成立が期待されてゐるかについて解読しよう。
 社会の進歩、発展に伴ひ、戦争も次第に進化して、現代の戦
争は、単に武力戦のみで目的を達成する事が出来なくなり、政
治や外交、経済、思想等の一切の力を動員して戦争に参加させ
国家の総力によつて勝敗を決する様になつたのである。勿論、
武力戦は、戦争の中心であるが、直接、間接に、戦争に参加出
来る一切の力を総動員して最も大きな、綜合的な力を発揮する
事が戦争全局の勝利を得るために、欠く事の出来ない条件とな
るに至つたのである。従つて国防といふ事柄は広い意味の国防
−単に軍備丈でなく政治、外交、経済その他の力や組織を含む
国防といふ様に解釈されなければならない。
 国防の意味が既にこの様に広義のものとすると、国防国家と
いふのは、一体どんな国家形態であるか、それは、『広義国防の
諸々の要素−軍事、政治、外交、経済、更に思想等の要素が戦
争目的に合致する様に、一元的に組織され、統制的に運営され
る機構を持ち、平時、戦時の形態が互に接近してゐて、いざと
いふ時には平時の態勢に大きな変化も加へすに直ちに戦時の態
勢に移る事が出来る国家』−斯ういふ国家体制を国防国家と云
ふ。故に換言すれば、国防国家とは国防といふ原理を国家の指
導原理とするもので、政治、外交は勿論、経済も国防国家建設
の方向に向つて新しい体制を取り、思想、教育に於ても又、国
防国家の成員として適はしい人間を作る方向−従来の自由主義
を放棄して、国家本位、国防国家本位の教育体制、思想内容が
創造されなければならない。
 かゝる意味の国防国家は、既に、ドイツやイタリア、或はソ
ヴイエト聯邦に於て成立し、ドイツやイタリアは思想的に、ソ
ヴイエト聯邦は経済的に、夫々特色ある国防国家をつくつてゐ
る。更に自由主義で鳴るアメリカに於てさへもルーズベルト大
統領が『戦争を遂行するには国防国家を建設するに限る』と云
ひ、又 個人主義、自由主義の深い眠りから覚めたフランスは
急転直下、全体主義的な国防国家の建設を急いでゐる次第であ
る。従つてこの急展開する国際情勢に処し乍ら、東亜の安定勢
力として立つ我が国に於ても、国防国家の建設をいそがねばな
らぬのは当然であるが、我国は.ドイツ、イタリア、ソヴエト
聯邦等とは違つて、独自の國體と国情を持つのであるから、我
が国の企てる国防国家は、独自の国是により、独自の形体を採
る事は勿論である。今回成立した第二次近衛内閣が目指す新政
治体制も結局、この国防国家の建設を目標とするもので、二十
四日の閣議では.早速、『強力な国防国家の建設を中心に協議』
を行つてゐるから、やがて具体的な方策も樹てられ、各種の国
策の刷新が行はれるであらう。
 斯くて、国防国家の建設工作は、第二次近衛内閣の成立によ
つて急展開するに至つたが、現下の国際情勢と予想される将来
の見透に処するためには、一日も早く国防国家の体制を完成す
る事が必要とされてゐる。      (七月二十四日放送)