新東亜建設の意義と目標

 昭和十四年の新春を迎へ事変は愈々長期建設の段階
に入り、新東亜の建設と言ふ輝かしい聖業は近衛内閣
に代つた平沼内閣によつて遂行されることになつた。
 今や聖戦は第三年に入り、皇軍の武威は大陸を覆ひ、新東亜
の建設の大業は、着々と実現されてゐる。周知のやうに、今度
の事変の究極の目的は、単に蒋介石政権を滅すことにあるので
はなく、新しい東亜の建設にあるのであつて、事変の本質は建
設にあるのであり、而もその建設は既に始つてゐるのである。
 新東亜の建設と言ふ大事業は、今や漸く軌道に乗り、青天白
日旗に代つて、防共親日の五色旗が、北は蒙古の曠野から、南
は南支那に至るまで、広大な地域にひらめき、やがては更生し
た支那に、新しい中央政府の成立を見ようとしてゐる。
 ではこの新東亜の建設の目標は何処にあるのかと言へば新東
亜の建設は日本を中心として、満洲を育て上げ発達させ、更に
新しい支那を建設して、所謂日、満、支三国を枢軸とする東亜
共同体を結成することである。即ち之によつて、東亜に於ける
国際正義を確立し、共同防共を達成し、新しい文化をつくり経
済的に結び合ひ、日満支の間に政治、経済、文化等の各般に於
て、お互に扶け合ふ密接な関係を樹立し、東亜の安定を期し、
延いては世界の進運に寄与しようと言ふのである。
 この建設には、長期に亘る困難を覚悟しなければならない。
然しあらゆる困難と戦ひ、たとひ幾十年かゝらうとも、行手にど
んな難関があらうとも、吾々は飽く迄邁進しなければならない
のであつて、この難関を突破してこそ初めて、我国は飛躍的な
発展を遂げ、東亜に於ける不動の地位を確保することが出来る
のである。
 かやうにして支那の資源と労働力に、我が国の資本と技術が
結びついて、協力して支那の開発に当り、所謂日満支経済ブロ
ックが実現した暁には、東亜の民族は解放され、明るい生活を
持つことが出来るであらう。又東亜の新しい文化がつくられた
暁には、行きづまつた西洋の文化に代つて、世界に大きな貢献
をもたらすであらう。
 かやうに新東亜建設の目指す処は、要するに東亜の古い体制
を打ち破つて東亜民族を解放しようと言ふのである。新東亜の
建設は歴史的な意義を持つ我が国策の現れであつて、之を実現
するためには、内に国力の強化、充実が必要なのである。そし
て之は力強い日本の建設と言ふことゝ、表裏一体の密接な関係
にあるのである。
 力強い日本を建設するためには、先づ国力の充実、強化と言
ふことが行はれなければならないのであつて、つまり当面の建
設のための戦ひを、力戦く遂行する一方、外に備へることが出
来るやうに、軍備の充実を計ることは勿論、国のあらゆる力を
動員し集中し、この力を長い期間に亘つて発揮出来る様に、国
内に於ける政治、経済、教育、思想、文化等の各般に亘つて、
必要な改新を行ふことは絶対に必要なのである。
 先づ第一に緊急な問題は、長期建設に対処するため、戦時経
済を確立すると言ふことである。このためには日満支を一体と
する建設のための計画的な経済体制を樹てなければならないの
であつて、従つて色々の経済政策が益々強く行はれなければな
らないのである。
 また政治に於ても、国防国策の強力な而も円滑な遂行を期す
ることが出来る様な改新を必要としてゐるのである。
 更に思想文化の分野に於ても、所謂東亜の新しい文化をつく
ると言ふ、重大な課題が、全日本の知識層に与へられてゐる。
 以上で新東亜の建設に就てあらましを述べたが、今度の事変
は実に新しい東亜が生れるための胎動なのであつて、それは外
に新東亜の建設を目標とし、内は力強い国家への発展を目指す
内外一途の輝かしい道程なのである。そしてこの胎動の後に来
るものこそ、新東亜の誕生と言ふ、喜びでなくてはならないの
であつて、吾々はこの喜びの日を一日も早くもたらすために、
精神力と経済力の余力を挙げ、幾多の困難を克服して、新東亜
の建設を目指し一路邁進しなければならない。

                      (一月六日放送)