新設された企画院

 二十五日企画庁と資源局
が一緒になつて企画院が新
設された。
 周知の如く約十年前昭和
二年から資源局が設けら
れ、所謂国家総動員準備の中央統轄機関として活動して居り、又
昭和十年には内閣調査局が設けられ、本年先月に改組されて企
画庁となり今日に及んで居る。之等の役所は或は或は其の任務の方
面を異にし、或は其の任務を遂行する方法に多少の違ひがある
が、何れも内閣総理大臣の管理の下に各省の業務の調整統一に
当る事を任務として居る点鮎に於ては共通して居つたのである。
 抑も国家総動員準備に関する機関が特に設けられるに至つた
のは欧州大戦以来のことである。
    〇    〇
 現代の戦争は軍隊丈の戦争では無く全国力を挙げての国力戦
であつて、欧米各国に於ては彼の欧州大戦の経験に鑑み国家総
動員準備の必要を痛感し種々の施設が講ぜられたのであるが、
我国に於ても大正七年に軍需工業動員法が公布され其の中央事
務機関として軍需局が設置されたが、其の後統計局と合して国
勢院が設置される等の変遷を経て資源局に至つたのである。資
源局では汎く人的及物的の資源の全般に亘り詳細な調査を行ひ
之が統制運用の計画を樹て有事に備へると共に、平時に於ても
総動員重要な資源の培養助長を図る等、国力の充実に関する
施設を行ふ所謂国家総動員準備に関する事務の中央統轄の事務
を掌つて居るのである。又今日の我国の行政を見ると各省は其
の数が十二に及び夫々一定の事務を担任して居るが、其事務は
常に相互に密接複雑な関係があつて凡そ一つの政策を樹て之を
実施しようとするに当つては必ずや産業は産業丈の考慮、交通
の事は交通丈を念頭に置いて決める訳に行かず、種々の事業に
付綜合的観点に立つて処理しなければならないのである。而し
て社会の進歩は諸般の事柄に亘つて所謂分化専門化を将来して
居るが此の分化専門化と云ふことは必ず其の反面に於て各部門
を担当する者の対立相剋を惹起し易いのであつて、一方に於て
大所高所よりする綜合的観察が益々必要となつて来るのである
即ち国力の充実発展を図り国運の円満なる伸張を期するが為に
は、行政各部は彼此相互の調和を計り各部各自の立場要求を統
合して順序緩急を正し、本末軽重を辨じて調整の適切を得るに
努めねばならないのである。凡そ国政の運営に当つて此の調整
統一保持の任に当るものは内閣総理大臣であるが、社会各般の
事象が複雑を加へて来た今日では、内閣総理大臣が此の任務
を遂行する為には有力な補佐機関を必要とするに至つたのであ
る。是れが調査局即ち今迄あつた企画庁の設置を見るに至つた
所以である。
 爾来企画庁は一般重要政策に付自ら調査を行ひ又重要政策の
間の統合調整を為すことを其の職能とし、資源局は国家総動員
準備に関する統括に当つて来たのであるが、平時戦時に於ける
総合国力の拡充運用を図る為には此の両者を一つに合せて一層
強力のものにさせるといふ必要を生じたのである。

     〇    〇

此の新設せられる企画院に与へられる権限は
 第一に「平時戦時ニ於ケル綜合国力ノ拡充運用ニ関シ自カラ案ヲ起
 草シテ之ヲ内閣総理大臣ニ上申スルコト」
 第二には「各省大臣カラ右ニ関シ閣議ニ提出スル重要案件ノ大綱及
 其ノ予算ノ統制ニ付テ審査シ意見ヲ内閣ニ上申スルコト」
 第三には「国家総動員計画ノ設定及遂行ニ関スル各庁事務ノ調整統
 一ヲ図ルコト」
である。
 次に企画院の組織は総裁次長の下に官房及総務、内政、財務、
産業、交通、経済の六部が置かれるが以上のやうな重責に鑑み
総裁は親任官とし次長の外六人の部長及調査官一名都合八名の
勅任官と此の外秘書官、書記官、調査官、事務官、理事官、技
師、属、技手専任職員都合百六十名が置かれることになつて居
る。而して此の中部長二名調査官十数名は陸海軍武官が任ぜら
れるのである。尚此の専任職員の外関係各庁高等官の中から参
与と事務官とが置かれ又学識経験ある者の中から委員を命じて
特別の事項を調査せしめ得ることになつて居る。又企画院と関
聯して朝野の有力者を以て組織する審議会が設置せらるゝ筈で
ある。

十月二十五日放送)