人道に反する毒瓦斯とは

 国際公約に背いてダムダ
ム弾を使用したり、我が病
院船に対して屡々不法射撃
を加へる等、支那側は枚挙
に遑ない程の非人道的行為
を敢てし、暴虐振りを遺憾なく暴露してゐるが、連日に瓦る我
が猛撃に堪へ兼ねた敵は、遂に二十二日夜上海戦線に於て、国
際公約上厳禁されてゐる毒ガス弾を使用するといふ暴挙に出る
に至つた。我が将兵の機宜を得た防毒処置によつて、ガスの被
害から完全に免れることは出来たが度重なる敵軍の暴虐なる行
為に我が将兵は等しく極度に憤慨してゐる。そこでこの毒ガス
とはどういふものか之について説明することにしよう。
 毒ガスといふのは敵に損傷を与へる日的で使用される、火薬
爆薬、煙等の外の一切の化学的物質を言ふのである。この毒ガ
ス戦の起原(きげん)は去る一九一五年の四月二十二日に独逸軍が始めて
イーブルの戦場で、約六粁の地域に瓦つて塩素ガスを連合軍に
対して放射したのに始まるので、この際毒ガスに対して防毒の
備へをしてゐなかつた聯合軍側は、五千人の死者と一万人の中
毒者を出したのであつて、夫以来欧洲大戦には盛んに使用され
たのであつた。これよりさき既に一八九九年(明治三十二年)
のハーグ条約で、毒ガスの使用は禁止され、次いで一九〇七年
(明治四十年)の第二回万国平和会議で、毒物の使用を禁止する
条約が締結されたのである。併しこの条約は欧州大戦中蹂躙さ
れ、毒ガス戦は一九一五年以来しきりに行はれたのであつた
が、ヴェルサイユの平和条約によつて、毒ガスの使用禁止は国
際公約として確立されたのである。その意味に於て、この平和
条約に調印した支那の軍隊が今回毒ガスを使用したことは、明
かに国際公約に違反したもので、その非人道的行為はまことに
許すべからざるものと言はなければならない。
 この毒ガスはどんなに深い所や、又かくれた所等にも滲みこ
んで効力を現はすもので、一時性のものもあるが、種類によつ
ては長時間の持久性を持つものもある。之等の毒物を通常、毒
ガスといふ名で呼んでゐるのは、最初に使用されたのが塩素の
やうな、瓦斯状の毒物であつたからであつて、現在に於てはガ
ス体ではなく寧ろ殆んど液体及び細粉末の固体である。次に効
力の方から見ると、窒息性のもの、糜爛性のもの、その他のも
の等に分けられるが、窒息性
ガスは気体で、之を吸ふと呼
吸器特に肺を侵し、致死的の
傷害を与へるもので、例へば
ホスゲンの如きものである。
二十二日夜支那軍が弾丸の中
に入れて、我軍をめがけて放
射したのはこのホスゲン毒ガ
スのやうである。次に糜爛性
ガスは丁度油のやうな液体
で、長く残つてゐて効力を持
続するので持久ガスともいは
れる。この液が着物や皮膚に
つくと、火傷のやうな傷害を
起すのである。又この液体の発散する蒸気を長く呼吸すると呼
吸器を侵し、目に触れると強い結膜炎を起し失明することがあ
る。之は爆弾に入れて投下したり、飛行機上から雨のやうに降
らせるのである。例へばイペリットと、ルイサイトとは之に属
するのである。又窒息性糜爛性以外の毒ガスとしては、煙状と
なつて眼を刺戟する催涙ガスとかくしやみの出る瓦斯とか、中
毒を起す瓦斯等がある。
 以上が主な毒ガスの性質であるが、本来毒ガスの効力は、之
に対する防護の訓練とか準備の出来てゐない軍隊とか、都市に
対しては、効果があるのであるが、平素から予め防毒の訓練等
がしてあれば、決して恐るべきものではないのである。各国は
皆万一の場合を慮つて、毒ガスに対する防護の手段、方法等に
ついて、研究に苦心してゐるのであるが、我が皇軍に於ては毒
ガスに対する防毒等の訓練はよく行はれ、又防毒施設も完備し
てゐるのであつて、敵の毒ガス又決して恐るるに足らずとなし、
不法暴虐今や世界人類の敵とも言ふべき、支那軍を殲滅せずん
ば止まずとしてゐるのである。

九月二十四日放送)