二四 小胆な日本人  嘉納治五郎

 一概にはいへないが、何うも日本人には胆力のある者が少いやうである。男子と生まれた以上は、死生の境に出入しても、従容自若として更に動じないといふだけの胆力は持ちたいものである。胆力のある者は、白刃眼前に閃き、危害頭上に崩れかかつても、悠然としてすましてゐるが、胆力のない者は、天井から鼠の糞が一つ落ちても、肝を冷し色を失ふではないか。
 胆力は、その人の天稟にもよるが、また決して修養せられないものではない。上杉謙信が十四五歳の時、大敵に追はれて、門番所の板敷の下に潜伏しながら眠つてゐたとか、徳川光圀が六歳の時、暗夜に刑場に行つて、死人の首を取つて来たとかは、皆天稟の観るべきものであるが、

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