脱党声明

 国家興亡の岐路に立つ今日の重大時機に於て、何よりも先づ肝要
なる一事は、国民の凡ゆる能力を綜合統一し、真に一国一体となつ
て内外に国策を断行し、以て国難を打開すること是である。故に国
民の和衷協同を阻害する虞あるものは、凡そ是を清算することが至
当であると信ずる。この意味に於て私は国内に於ける一切の党派的
政党、階級的闘争その他各部面に於ける対立闘争を、速かに解消す
ることの当然なるを認むる。惟ふに現在の政党に在りても、敢て人
材に乏しいとしない。しかし、政党といふ固定的機構に制肘されて
折角の人材が国家本位に活用されざるの憾みも亦尠しとしない。党
は対立を招き抗争を生ずる。即ち党は国家の和を害し、国民の一致
を破る。茲に於て私は独り政党人のみならず、国家各方面の練達堪
能の士が、従来の固定的繋縛を脱却して、純乎たる超党派的立場に
立ち帰り、無私の精神を以て国家奉公の赤誠を尽さんことを衷心よ
り切望するのである。
 私はこの見地に立つて、政党解消を要望する。本来、西洋流の政
党政治は、我が国情及び国民性に適合せざるものであつて、既に、
一党一派が、現下の非常時局を担当し能はざることは、如実に立証
されてゐる。また政党改善問題の如きも、殆ど百年河清を待つの感
がある。少くとも、急迫せる現下の非常時局を担当するに足るだけ
の改善を速かに行ひ得る見込なきことは明瞭である。借りに五年十
年の歳月を待つて改善され得るとしても、それでは到底間に合はな
い。しかれども政党の解消は、決して立憲政治の否認を意味しな
い。寧ろ何等の党派的対立抗争なく、一国一体の形に於てこそ、我
が国独特の立憲政治が行はれるのであると信ずる。
 今や我が民族が、世界の平和と人類の文化に対し、一大使命を遂
行すべき秋に際し、これに処する国民的用意として、国家は全面的
革新の必要に迫られつゝあるが、私は其の第一段の工作として、政
党解消を主張するものである。此の際一切過去の行き懸りに囚はる
ることなく、先づ以て政党解消をアツサリ断行することすら困難な
る状態にては、国家革新の如き思ひも寄らざることであると考へ
る。既に斯くの如き確信を懐抱する以上、私自身政党に留まること
は、矛盾を感ずるが故に、茲に政友会を離脱し、虚心坦懐、政党人
に対しては勿論、広く全国民に対して所信を問はんとするものであ
る。尚ほ仮りにかゝる所信を離れ単に私一個の立場に就いて考ふる
も、今日以後政党を去り、全然超党的立場に身を置くことが、多少
なりとも効果的に奉公の微衷を致す所以であると信ずる。
 今日離党するに当り、多年政友会の僚友諸氏より忝ふしたる、公
私共一方ならぬ厚誼を思ふとき、分袖は情に於て誠に忍びざるもの
がある。が、国家の為めまた已むを得ない。過去の厚誼に対し茲に
深甚なる謝意を表する。