第六三号(昭一二・一二・二九)
 歳旦祭・元始祭の意義       内 務 省
 時局下の新年奉祝         文 部 省
 電力国策の全貌          逓 信 省
 南京攻略後の粛清         陸軍省新聞班
 燦たる南京入城         海軍省海軍軍事普及部
 人口一億に達す          内閣統計局
 イタリー脱退と連盟        外務省情報部
 最近公布の法令         内閣官房総務課

時局下の新年奉祝    文部省

 新年は年の始を慶賀する祝日で、宮中に於かせられては一月一日早朝に四方拝竝に歳旦祭の御儀があり、次いで朝賀(一月一日・ニ日)及び新年宴会(一月五旦を執り行はせられる。我国の祝日は、申すまでもな(新年・紀元節・天長節及び明治節であるが、紀元節・天長節及び明治節が各々当日一日を以て祝日とするに対し、祝日としての新年は一月一日・二日及び五日の三箇日に亙るのである。三箇日に亙る理由は、新年の御儀式が数多く且鄭重に行はせられるのに因るものと拝察せられる。
 一月一日及び二日に行はせられる朝賀の御儀は、拝賀の儀と参賀の儀とに分れて居る。宮中に於ける拝賀の儀は皇族以下百官群臣が 陛下を奉拝して新年の賀詞を申し上げる御儀であり、参賀の儀は官中に参内し設けの帳簿に署名して、新年の賀意を表し奉るものである。又新年宴会は一月五日、豊明殿に於て皇族を始め奉り百官群臣及び外国交際官に宴を賜ふ御儀であるが、来春は事変の為特に御取止あらせらるゝ御趣である。
 斯様にして、祝日としての新年、所謂新年節は一月一日・二日の朝賀及び五日の新年宴会を謂ふのであるが、又それと共に元始祭の如きいとも尊き御祭儀をも行はせられ、皇位の本始を慶祝して孝敬をのべさせられ、其の他年頭に当つて宮中に於て執り行はせられる御儀式は寔に御多端にして御鄭重に亙らせられるのも畏き極みである。申すまでもなく我国は実に一大家族の趣をなし、君臣の間は恰も家長の家族に於けるが如く、皇國と国民とは離るべからざる間柄にある。随つて、我國の新年に皇室に於かせられて幾多の荘巌なる御儀式を行はせ給ふのは、上は皇祖皇宗に対して報本反始の大御心をのべさせ給ひ、下は億兆と共に慶福を同じうせられる御趣旨と拝察されるのであつて、我等臣民が、斯くも尊き皇室を戴いて其の大御恵に浴してゐることに思ひ至るとき、殊更に強く「国を挙げてのお祝ひ日」たる新年の意義の尊さを感ぜしめられる次第である。皇國の御民(みたみ)たる者はこゝに深く思を致しよろしく厳粛なる気持を以て家庭其の他に於て新年を慶祝し皇運の隆昌を祈り奉るべきである。
 今や忠秀なる皇軍の目醒ましき活躍に依り、抗日の首都南京の陥落を見るに至つたが、而も戦局の前途は尚遼遠であり、国際惰勢も亦にはかに予断を許さぬ情態に在る。国民は今後の長期戦を覚悟し、協力一致、堅忍持久、以て聖戦の大目的達成に邁進しなければならむ。此の重大時局下に昭和十三年の新春を迎へ、我等国民は新年の奉祝就に就て特に例年以上に深き意義と感激とを覚えずには居られない。
 申すまでもなく我々国民は年頭に当り、先づ第一に 聖寿の万歳、皇室の御繁栄を寿ぎ奉ると共に、今次事変の真義に思を致し、事変に対する認識を深め、事変以来今日迄に於ける偉大なる戦果の獲得が、偏(ひとへ)に御稜威の然らしむるところなることを心に深く銘記しなければならぬ。畏くも 天皇陛下には深く時局を御軫念遊ばされ、夙夜政務に御精励あらせられる御事は洵に恐懼の至である。又 皇后陛下、 皇太后陛下には事変勃発以来名誉の戦死者、傷病者は申すに及ばず、出征応召軍人や其の家族迄に戦死者の遺族に対しまことに篤き御仁慈を垂れさせ給うて居るのであつて、実に感激に堪へぬ次第である。国民は此の有難き大御心を体し奉り、忠勇無比なる我が将兵の活躍を讃へ、殉国勇士に対し感謝慰霊の赤心を捧げると共に、益々日本精神の発揚に努め、八紘一宇、万邦協和の精神を以て正しき平和の実現に向つて邁進すべきである。之が為には国民精神総動員の趣旨を体して挙国一致、盡忠報國の念を一層強化し、堅忍持久の覚悟を愈々新にし、報告の道の実践に一段と努力を致さねばならぬ。此の見地に立つて各人が自已の生活を反省し、一年の計を樹立する時、始めて此の重大時局下に迎へる新年奉祝の真義を体得せられるものと信ずるのである。
 我等国民の新年奉祝の方法に就いて時局下に於ける新年の特別なる意義を特に強調することに留意して、本年は国民の全体が新年に当り、定刻を期して一斉に奉祝の誠を表したいと思ふ。随つて官庁・学校等に於て祝賀の式を挙行するに際しては、特に此の趣旨の徹底に努むることとした。又従来挙式のことのなかつた向にあつても、力めて之を行ふ様にし、別に市区町村にあつては市区町村民の為に神社、学校、公会堂等適当なる場所に於て祝賀の方法を講ぜしめることとしたのである。尚是等の儀式に参列し得ない一般国民は、一月一日午前十時「新年奉祝の時間」を期して各自一斉に家庭、職場其の他の場所に於て夫々宮城を遙拝し、新年の祝意を表し奉ることと致したい。其の他新年の奉祝に就ては徒(いたづ)らに従来の形式に泥(なづ)み、虚礼に堕することを避け、各家庭に於ても、市区町村等に於ても、真に精神の籠つた適切有效な方法を選んで之を実施して頂き度い。斯くして始めて挙国奉祝の祝日たる新年の意義も完く、重大時局下の新年を奉祝するに相応(ふさは)しいものと信ずるのである。