第五〇号(昭一二・九・二九)
 皇后宮の御歌を拝して       宮 内 省
 時局と遵法の精神         司 法 省
 北支平野の殲滅戦         陸軍省新聞班
 制空権我に帰す         海軍省海軍軍事普及部
 情報委員会から内閣情報部へ    内閣情報部
 地中海の潜水艦問題とニヨン会議の経緯 外務省情報部
 愛国行進曲懸賞募集規定添付

皇后宮の御歌を拝して  宮内省


皇后宮御歌

 なぐさめむことの葉もがなたゝかひの
       にはをしのびてすぐすやからを

御大意

 戦場はいかゞであらうと家中案じ暮してゐる家族の人たちをどう慰めてよいであらうぞ


 畏れながら、皇后陛下に於かせられては天皇陛下の大御心に副ひ奉つて、今次の支那事変が勃発するや、或は御手づから繃帯を御巻き遊ばされ、戦傷者には義眼義肢等を下賜あらせられまして日夜皇軍を犒ひ給ふお心のうちにも、今回は特に御内帑(ないど)を下賜あらせられ、且ついとも有難き御歌を拝し奉りましたことは誠に恐懼感激の至りに堪へませぬ。
 謹んで御歌を拝しまするに彼の北支に、上海に、又は南支に奮戦をつゞけつゝある将士の身の上は勿論、これら出征軍人の遺族家族の人たちに、深く御心を寄せさせ給ふことは、恐れながら御詠の外に溢れて居るのであります。
 即ち銃後に在つて山田守(も)る老父母は如何であらうぞ、子らを抱いて戦況を気遣ふ健気な主婦の胸中はどうあらうぞ、さては朔北(さくほく)の天地に馳駆(しく)する将士の雄叫びや、江上に活躍する海兵の沈勇など夢に見て無邪気にほゝ笑む愛児の上なと、限りもなく御同情あらせられ、夜となく昼となく、暑さにつけ寒さにつけ、戦地のことを心にかける家人らを、深くも偲ばせられ「慰めむ言の葉もがな」と仰せ出されましたことは誠に畏(かしこ)しとも畏き極みでありまして、千万無量の感に禁(た)へないのであります。
 此の御詠を拝して感激する者は、たゞに出征軍人の家族ばかりではありません。すでに今次の戦ひに勇士を失つた遺族の方々もお役に立つた我家の英霊に対して此の有難い無限の御仁慈を手向(たむ)け、思召に対(こた)へ奉ることの出来た感激に浸ることであらうと存ずるのであります。
 更に又此の御歌は戦の庭を偲びつゝ暮す軍人の家族ばかりに垂れさせ給うた御慈悲ではありません。実に我が国民全体に下し給はつた御心であらせられると恐察し奉る次第であります。此の御慈悲の瀝(そゝ)ぐところこそ、戦場に在つては死を見ること帰するが如く、壮烈鬼神を泣かしむる武勲となつて表(あら)はれ、銃後に在つては己を空うして、協力一致、進んで此の国難に当らんとする勇猛心が湧き出づるのであります。
 かくして、戦の庭に立つも立たぬも、老いも若きも共々に此の御歌を奉戴して愈々日本精神の真髄を発揮し、時艱を克服することに邁進せなければならないと存ずるのであります。


御語意
なぐさめむ=慰撫 ことのは=詞 がな=希の意 たゝかひのには=戦場 
しのびて=思ひやる すぐす=日をくらす やから=家族

 

第五〇号(昭一二・九・二九)