第四五二号(昭二〇・八・二九)

   詔  書
   作らう秋作物           農 林 省
   秋野草の食べ方
   主要食糧の食べ方

秋野草の食べ方

 日本学術振興会の野生植物研究小委員会は、早春から夏にかけて野生植物の食用を一般にお薦めして、大分反響がありましたやうですが、秋から冬にかけては、更に野菜類が少くなる時です。そこでこれから利用の出来る野生植物について、紹介するしとにしませう。野草は食べるにしても、単食とせず、なるべく数種を取合せて用ひるやうにすれは、澱粉、蛋白、脂肪、ビタミン等各種の栄養質を綜合的に摂取すことが出来、且つ量を増すことによつて主食の節約ともなります。秋は草の根、地下茎、木の実等から澱粉を取る材料が多いのですから、なるべく活用して主食の補ひとしませう。皇國は神ながらにして豊葦原瑞穂国です。活用さへすれば食糧は無尽蔵です。力強いかぎりではありませんか。

食べられる秋の野草

 秋は多くの木や草の実のみのる時で、食用野草として葉を用ひるものは少くなり、木の葉もだんだん硬くなつて、多くは散り始める頃ですから、春先の新芽と違ひ、食用として用ひるには不適当です。しかし「新選夏の七草」として週報六月廿日号(四四七−八号)で御知らせしましたアカザヰノコヅチヒユスべリヒエシロツメクサヒメヂヨヲンツユクサ等の糊は、秋になつてもまだ十分利用ができます。特にアカザ、ヒユのやうなものは草だちも大きくなり、摘む葉も多く小さな黄緑色の花を一ぱいつけた穂もくせがなく、実になつてからでもおいしく戴けますから、せいぜい利用して下さい。その他のものも柔かい芽の部分をとつて利用すればよい訳です。例へばヰノコヅチのやうな硬くなつたものは乾かして粉食の材料とし、大きくなつたスベリヒユもせい/"\とつて一旦ゆでて乾し、来るべき冬のために貯へませう。
 また週報の二月十四日号(四三二−三号)に載せました「野草も決戦食糧に」の記事の中に出てくるタンポボの類、タビラコの類、アザミの類、ノゲシの類、ヨメナの類、ナヅナの類、ハコべの類、ギシギシの類、クワンザウの類、ノビルの類の中には、秋の頃からすでにその芽生えがみられて利用されるのを待つて居るものがあります。特にナヅナの類の処で記しました水草のオランダガラシや、また皆さんのよく御承知のセリなどは秋から冬にかけて、いつでも蔬菜として、豊富にその柔かい葉か利用されます。
 また秋はアザミの類の根を掘つて、牛蒡のやうに調理して利用するのに最もよい時です。
 なほその他海岸の野生植物で、今では菜園に多く植ゑられて居るツルナや、小川や溝ふちに多いミゾソバも、秋晩くまでいただけます。
 ミゾソバは全体がソバに似て白または紅または緑の花をさかせ、葉はほこやりの刃先のやうな形で往々葉面に八字状の赤黒い斑紋があります。味噌汁に入れたり、茹でて浸し物や和へ物にします。また初夏の野原に多くて黄色いタンポポに似た花を枝をうつて開き、葉や茎にざら/"\した硬い毛のあるカウゾリナといふ草の根もとから広がつて居る葉や、田の畔や溝ふちに多いタウコキの軟かい処は秋にも同様食べられます。秋にチシヤの花を大きくしたやうな花の咲くアキノノゲシも、その点を食用とします。
 秋の七草の一つで、清らかな花や人目を喜ばすキキヤウは、根を掘つて小さく切り、乾して貯へれば、御飯にまぜたり、煮つけたりして食べられます。
 秋はまた春先に芽立ちのおいしい野草のヲケラだの、ツリガネニンジントトキ)だのの花が咲きますから、その花の咲く様子をよくおぼえておけば、春になつてから利用するのに大変便利です。

  草の根本の実の澱粉利用

 クズ[葛] クズは秋の七草の一つで、何処の山野にも自生してゐる蔓草ですが、その根から葛粉と称する良質の澱粉が取れることは皆さん御承知の通りです。葛粉を取るには、先づ十月から冬にかけて深く土中に入つてゐる根を成可く傷めないやうに鍬で掘り出します。大きいのになると長さ一メートル半、直径二○センチに達するのがあります。掘り取つた根は直ぐ洗つて日の経たない内に叩くか搗くかして砕き、清水を入れた桶に入れてよく揉むと澱粉が水中に出て灰白色の液になります。この液をザルでこし屑を除き、暫く放置して土砂やごみを沈ませてから布袋に入れてよくしぼり、糟を取り去り、その液に清水を加へて半日位静かに放置すると澱粉が沈殿します。この時上澄液を捨て、再び水を注いでかき廻し、また静置して沈殿させ、この操作を数回繰返して晒し、底に固つた粉を掻き取り乾かすと、褐色を帯びた粗製の澱粉(これを灰葛粉といひます)が得られます。このまゝでも食用となりますが、純白色の綺麗な澱粉を作るには、水で晒す上記の操作を寒中に更に丁寧に繰返して夾雑物を除き精製するのです。葛粉は餅を作り、また葛湯とし、或ひは素麺や菓子類を作る原料として、広く調理や食品に用ひられます。
 ワラビ[蕨] 野山の食用野草として広く知られてゐるワラビには地中に長く横に走つた根のやうな地下茎があります。この地下茎を秋冬の頃掘り取り、よく洗つて叩き潰し、布袋に入れて桶中の水によく揉み出し、静置して沈殿させ後よく晒して乾す操作はクズと同様です。かうして取れた澱粉は普通餅として食べますが、また糊にすれば粘気が極めて強く、色々のものを貼りつけるのに広い用途があります。また澱粉を取た残りの糟は、洗つて乾かすと強い繊維が取れ、これを一度湿して縄を作ると、雨に当つても仲々腐らない丈夫なものが出来ますから、忘れずに利用して下さい。
 カラスウリ[烏瓜] 秋になつて細い蔓に赤や黄色の美しい玉の様な果実をぶら下げるので、人に馴染まれてゐますが、その根からはよい澱粉が取れます。根の形は種類によつて違ひ、最も普通なカラスウリでは、分れて太い紡錘形になりますが、キカラスウリでは分れずに長い円柱形で曲つてゐます。蔓をたよりにこの根を掘り取つて皮を剥ぎ、中の白い部分を切つて水に浸し、毎日水を換へて数日置きこれを搗き砕いて布袋に入れ、水中に振り出し、数回晒して澱粉を取ることは他のものと同様です。
 この澱粉は他の粉と混ぜて餅、パン、煎餅などを作ります。
 またキカラスウリの澱粉は特に天花粉、天華粉、天爪粉などと呼ばれ、化粧料、皮膚病に外用されます。
 ヤマノイモの類 ヤマノイモの類には畠に作るナガイモツクネイモカシュウイモの他に、山に自然に生えてゐるものが数種類あります。この類から澱粉を取るには秋から翌春二、三月にかけて根を掘り取り、臼で砕いて材料四キロに対して水十キロを加へ、よく攪拌して布袋でこし、一昼夜静かに置き、その上水を捨てて底にたまつたものをへらで取り、日光で乾かします。種類によつて違ひますが、原料四キロから約四〇〇グラムの粉が取れます。これが所謂山製粉です。
 ヤマノイモ(一名ジネンジャウ)は全体もまた根の形もナガイモに似てゐますが、葉は対生し、葉の色は黒づんだ緑で、表面に光沢がなく、葉の基の柄に続く部分だけが白黄色をしてゐますから、他のものと区別が出来ます。ヤマノイモ類の中で最も美味な根を有し、煮たりトロロにしたりする他に、菓子用にも用ひられます。葉の柄の基の所に出来るムカゴがおいしいのも第一です。
 畠に作るヤマノイモの類は皆葉の柄のつけ根にムカゴが出来ます。ムカゴは落下前に集めて擂鉢に入れ、軽くあたつて皮を剥ぎ蒸、煮、油いため等にし、或ひは飯に混ぜて炊いて所謂「むかご飯」にします。
 ユリの根 根(鱗茎と言ふ方が正しい)は一般に多肉で、多くの鱗片状をしたものが集まつてゐます。種類や時期によつて多少苦味のあるもの、或ひは非常に苦いものさへありますが、少しばかり苦いのは却つて風味あるものとされてゐます。澱粉のとり方はヤマノイモと同様です。
 色々の点から見てオニユリコオニユリヤマユリサユリがすゝめられます。
 オニユリは全国を通じて最も普通に栽培されてゐる種類で、赤黄色に黒点のある花を斜下向きに開き、花弁は上方に強く捲き上つてゐて、葉のつけ根に黒紫色のムカゴが出来ます。
 これに似たコオニユリは山寄りの地に多く、花は少し小形でムカゴは出来ず、地下茎が横にはふことが異つてゐます。
 ヤマユリは本州の中部以東の海岸に近い山野に多く、邦産中最も大形の内部に黄褐色の斑点のある香の高い白い花を開きます。春根を掘ると苦味が強いことがありますが、秋から後は上品な香があつて最も美味です。
 本州中部以西の山寄りの地にはサユリがありますが、この根もまた劣らず美味です。花は淡紅色で斑点はなく、ヤマユリ程広くは開かず、細長い筒形になります。