第四三九・四四〇合併号(昭二〇・四・四)

  血に染む沖縄の山河         大本営海軍報道部
  封ぜよ魔手
  戦ふ物資 塩            大 蔵 省

 

血に染む沖縄の山河  大本営海軍報道部

   南西諸島海面に
   敵機動部隊跳梁
 

 三月十八日払暁、突如、九州東南海面に姿を
現はしたミッチェル麾下の敵米第五十八機動
部隊は、同日並びに翌十九日の両日間に亘り、
延二千五百機以上の艦上機を放つて、九州、
四国、阪神の西部、日本各地に大規模な空襲
を試み来つた。これに対しわが航空部隊は、
十八日黎明より敵に対して先制攻撃を行ひ、
果敢なる体当り戦法によつて、同十八日より
二十一日までの四日間において、わが航空部
隊は撃沈敵正規空母五隻、戦艦二隻、巡洋艦
三隻、艦種不詳一隻、撃墜百八十機以上とい
ふ戦果を収めた。
 かくて敵機動部隊は、この甚大なる損害を
蒙つて一応南方海域に退去したが、その僅か
二日後の二十三日に至るや、再びその巨体を
南西諸島の沖縄付近近海上に現はしたのであ
る。そして同二十三日以来、連日数百機の艦上
機を繰出して南西諸島一帯に来襲すると共
に、沖縄本島に対しても熾烈なる艦砲射撃を
加へつゝあつたが、二十五日に至るや敵兵力
の一部は遂に慶良間列島の渡嘉敷島、阿嘉島、
座間味島の三島に上陸するに至つた。
 こゝにおいて、所在のわが皇軍はこれを邀
撃して奮戦すると共に、わが航空部隊並びに
水上部隊は特攻体当りを敢行して、二十三日
より二十五日までに敵大型艦五隻を轟沈、別
に大型艦五隻を轟沈または大破せしめ、百五
十機以上を撃墜破せしめ、更に二十六日より
二十八日までの三日間において我が方の確認
せる戦果のみにても、撃沈戦艦一隻、巡洋
艦六隻、巡洋艦若しくは駆逐艦一隻、駆逐艦
七隻、掃海艇一隻、撃破戦艦若しくは巡洋艦
九隻、駆逐艦三隻、輸送船二隻といふ甚大な
る損害を敵に与へた。
 然しこれらの損害にも拘はらず、敵機動部
隊は空母部隊の一群を南西諸島海面より九州
東南海面に北上せしめ、一方マリアナ基地よ
りのB29とも策応して大挙九州、四国の各要
地に攻撃を加へ、沖縄作戦を牽制すると共
に、南西諸島海面には空母二十隻内外を基幹
とし、戦艦二十数隻、巡洋艦、駆逐艦、上陸
用艦船等を合し、水上艦艇百数十隻の大兵力
をもつて、虎視眈々として沖縄本島上陸の機
会を狙ひつゝあつた。そして沖縄本島への艦
砲射撃も、二十五、六日頃には一日平均五、
六百発ぐらゐであつたが、二十七、八日には
約二千発となり、更に二十九日に至るや一躍
七千発以上に増大するに至り、かくて沖縄本
島への上陸作戦は急速度に本格化するに至つ
たのである。

慶良間列島から遂に沖縄本島にも上陸

 果せる哉、敵は三十一日朝来その一部をも
つて、慶良間列島より沖縄本島に通
る飛び石ともいふべき前島、神山
島に上陸を開始し、越えて翌四月一
日早朝を迎へるや、敵はいよ/\沖
縄本島上陸作戦を展開し、その主力
をもつて那覇北方嘉手納西方海面に
海を蔽つて殺到し、嘉手納南方五粁
の桑江附近以北の海岸に上陸を開始
し、他方同島南端の湊川に向つて上陸
用舟艇を集結、同方面よりも上陸
を強行し来つた。
 わが皇土の硫黄島が、所在皇軍将
兵の悲壮な玉砕と、一億国民の痛憤
裡に、涙をのんで敵手に委ねられて
から僅かに三旬、われ/\は今ま
た父祖伝承のわが皇土沖縄島をも、憎むべき
敵の脚下に蹂躙されねばならなかつたのであ
る。何たる痛恨事であらうか。この悲報に接
して慨嘆せざる国民は恐らく一人とてもない
であらう。正に肇國以来未曾有の
国難が、いまわが皇土の南端に襲
ひ来つたのである。

 米内海相が「忍び難きを忍び、
耐へ難きを耐へて隠忍した」とい
つたわが海軍部隊も、つひに決然
眦を決して南西諸島方面に出撃し
た。陸、海軍空の特別攻撃隊は、
還らざる翼を連ねて敵艦上に爆発
し、特攻魚雷艇隊も肉弾体当りの
華と散つた。そして全軍悉くが特
攻体当りを敢行した結果、四月二
日までにわが航空部隊並びに水上
部隊によつて収めたる戦果は判明
せるのみにても撃沈空母一隻、巡
洋艦六隻、駆逐艦二隻、艦種不詳
六隻、輸送船一隻、上陸用舟艇十
六隻に達し、撃沈若しくは撃破は
空母二隻、戦艦一隻、戦艦若しく
は巡洋艦一隻にして、撃破したるものは空母
二隻、戦艦一隻、戦艦若しくは巡洋艦一隻、
駆逐艦四隻、輸送船六隻、油槽船若しくは空
母一隻、艦種不詳四隻に上る。そして、これ
らの戦果をも含めて三月二十三日、敵機動部
隊が沖縄海面に出現して以来、同方面海上に
おいて四月三日現在までに収めたる戦果の綜
合は大要次ぎの如く撃沈九十六隻、撃沈若し
くは撃破九隻、撃破七十二隻にして、撃沈破
の総数は実に百七十七隻いじょうといふ尨大量に
達してゐる。

(表・・略)

英の残存艦隊も参加
太平洋兵力を総動員

 皇軍の挙げた戦果は、かくの如く正に甚大
な数量に達してゐる。然し敵は沖縄本島上
陸作戦に無慮千四百隻の艦船を集結したと
さへ発表してをり、若し敵側報道が事実を伝
へたものとすれば、皇軍の赫々たる大戦果を
もつてしても、尚ほ且つ敵兵力の僅かに一割
を屠つたに過ぎない結果となり、従つてわが
戦果の甚大をもつて、戦局を些かにても楽観
するが如きことがあつてはならぬ。

 大宮島のニミッツ司令部の発表するところ
によれば、敵は沖縄上陸作戦の展開に当つて
は、スプルーアンス海軍大将麾下の第五艦隊
を根軸とし、これに配するにミッチェル海軍
中将麾下の空母機動部隊、更にターナー海軍
中将指揮の水陸両用部隊、バックナー陸軍中
将指揮の陸上部隊等を参加せしめ、太平洋兵
力の全力を挙げて作戦を強行すると共に、フ
レーザー麾下のローリング海軍中将の率ゐる
英国太平洋艦隊をも参加せしめてをり、かく
て敵は世界の二大海軍国たる米英の総力を傾
注してわれに肉薄し来つたのである。
 そして、こゝでも一考を要することは戦果
が戦局を支配するためには、その戦果が敵兵
力を根こそぎ撃滅するものであるか、或ひは
敵の作戦企図を粉砕するに十分なるものであ
るかといふことである。硫黄島において皇軍
は、敵の上陸兵力四万五千名中の三万五千名
を撃滅して圧倒的戦果を挙げたにも拘はら
ず、最後には皇軍全員玉砕の犠牲において、
つひに同島を敵の占領に供せねばならなかつ
た現実をわれ/\はもう一度再認識せねばな
らぬのである。
 沖縄戦局におけるわが戦果の快報は、その後
も引続いて齎されつゝあり、そしてまた
われ/\はその赫々たる大戦果が相次いで挙
げられることを心から待望し、確信するもの
である。然し戦局の大勢は寸毫の楽観を許さ
ず、絶対に重大そのものであり、皇國の興
廃、民族の存亡は正にこの一戦に賭けられて
ゐるといふべきである。

対日包囲陣を圧縮し
敵は東京進軍を企図

 敵は今日まで日本攻略の戦法として爆撃戦
術と、封鎖戦術の二つを併用して来つた。
そしてその爆撃戦術より、敵は支那大陸並
びにマリアナの基地を獲得し、B29の長距離
爆撃によつて、日本本土の主として生産地
帯、軍事施設等を破壊し、わが戦力を減殺せ
んとしてゐたのであるが、大陸基地は地理的
条件よりして種々なる制約を受けるし、また
たとひB29の威力をもつてしても、二千数百
粁の距離をへだてたマリアナ基地よりの日本
本土に対する爆撃は、いささか長鞭馬腹に及
ばぬ悩みもあつた。そこで敵はこのマリアナ
の基地を更に前進せしめんとして、ついひに硫
黄島への推進に成功したのである。硫黄島--
東京間は一千二百粁にして、マリアナ--東京
間の距離二千四百粁を恰度二分の一に短縮し
たわけである。
 また敵はその封鎖戦術よりして、日本本土
と南方との連絡輸送路を遮断せんと企て、比
島奪還作戦を遮二無二強行したのであるが、
ルソン島上陸によつて比島一帯の制空、従つ
てまた制海の実権を一応把握することによつ
て、敵はその目的を兎に角達成したのであ
る。しかし米国国務次官グルーが「日本は
米軍がたとひ台湾以南を封鎖すると
も、石炭、アルミニウム、鉄、食糧
等の重要物資を自給自足し得る
強大なる生産力を擁してゐ
る」といふ通り、たとひ
比島の喪失によつて南
方資源の流入を阻止さ
れるとも、日本は満洲、
支那の大陸との連絡を
確保する限りは何等の
致命傷をも蒙らぬので、更に敵はこの日本
と大陸、朝鮮、台湾との連絡路をも遮断し、
日本本土を孤立無援の状態に完封せんとの戦
略企図よりして、沖縄上陸作戦を強行したの
である。

一億の生死を賭けし
本土決戦の火蓋切る

 かくて太平洋戦局は、わが本土の攻防を繞
つて文字通り日本の生死を決定する最終決戦
の歴史的段階にその巨歩を踏入れたのであ
る。われ/\はラバウルにおいて、マリアナ
において、そしてまた比島において、既に幾
度か日米決戦の劃期的戦局を迎へた。然しそ
れらの決戦において、われ/\は遺憾ながら
常に戦勢の支配権を敵に譲らねばならなかつ
たのである。
 然からばそれらの決戦において、折角強敵撃
滅の絶好の戦機を捕捉して置きながら、一体
何故にわが軍は涙を呑んで後退せざるを得な
かつたのか。それはいふまでもなく敵航空兵
力の圧倒的優勢の前に、われは制空権を敵に
奪はれたからに他ならぬ。そして近代戦にお
いては、制空権のなきところに制海権のあり
得ぬことも亦言ふまでもない。
 かくの如くわれ/\は、航空兵力の劣勢の
ために制空権をわが手に獲得し得ず、つひに
無念にも戦勝の神機を幾度か逸したのであ
る。ところが、今までの決戦場は何れも太平洋
上の占領地域であり、ラバウル決戦の次ぎに
はマリアナの決戦場があり、またマリアナ決
戦の次ぎには比島の決戦場があり、比島決戦
の次ぎにはまだ本土の決戦場があつた。然し
本土の次ぎの決戦場は絶対にないのである。
そしてその本土決戦の火蓋が、つひに南西諸
島において切られたのである。全くの背水の
決戦である。

 そして硫黄島戦局の一段落と共に、敵がだ
いたい南西諸島方面に次ぎの上陸作戦を展開
し来るであらうことは「日本本土に対する最
後の攻撃を開始するためには、硫黄島の一基
地を入手したのみでは不十分にして、米軍は
更に多くの基地を獲得せねばならぬ」といつ
たニミッツの言葉や、或ひはまた「日本攻略の
日本本土の心臓に真面目からメスをぶち込む
べきである」と強調したマックアーサーの豪
語などによつて大体予想されたところであ
る。
 かくて敵が若し沖縄を完全支配することあ
れば、敵はマリアナ、比島、硫黄島、沖縄の
四つの基地を結ぶ対日基盤に拠つて、わが本
土への爆撃、並びに封鎖の戦術を一段と大規
模、且つ頻繁に強化し来るであらうことはい
ふまでもない。然し爆撃や封鎖は如何に強化
されようとも、それのみによつて戦争全体の
勝敗が決定されるものでないことは、現に
ヨーロッパ戦局が全世界に生きた戦訓を示し
てゐる。従つて日本を完全に屈服せしむべ
き唯一の途が「東京への進軍」にあり、「日本民
族の抹殺」にありとする敵の作戦企図は、ルー
ズヴェルトの放言を俟つまでもなく、夙に明
白なところである。故に先の硫黄島上陸とい
ひ、今回の沖縄上陸といひ、何れも日本抹殺
作戦展開のための最後の足場を固めんとする
ものなることは言ふまでもない。
 沖縄 ― 九州間六百粁の距離をもつて、沖縄
戦局の重大性を些かにても過小評価せんとす
る傾向あらば、それは飛んでもない謬見であ
る。即ち六百粁の空間は、航空機をもつてす
れば僅かに二時間足らずの距離であり、現に
二千数百粁を隔てたマリアナ基地からの空爆
が、如何にわれ/\一億国民を脅威しつゝあ
るかを静視すれば、航空基地の前進が、如何
に決定的な重大役割を演ずるものなるかゞ判
明するであらう。この故に敵の沖縄上陸の目
的は、先づ第一に航空基地の設定であり、第
二にはその制空権の傘下において艦隊泊地を
前進せしめんとするにあることは火を睹るよ
りも明らかである。そして敵は同方面の制
空、制海権を強奪し、満洲、支那、朝鮮、台
湾と、わが本土との連絡を封鎖し、更に硫黄
島基地と呼応する爆撃によつて、わが本土の
生産力と軍事施設を徹底的に破壊した上で、
いよ/\日本本土上陸の最終作戦を断行せん
と企図してゐるのである。
 従つてわれ/\は今こそ、南西諸島に日本
抹殺の足場を築かんとする敵を断じて海中に
蹴落さなければならぬ。
沖縄県民数十万の同
胞は老幼男女の別なく、今や家郷の山河を鮮
血に染めてわが皇土の一角防衛に殉ぜんとし
てをり、陸、海、空全軍は既に悉く特攻隊と
なり、艦船も、飛行機も、新兵器も、全部を
傾尽して、この一戦を死守せんとしてゐる。
そして太平洋の戦訓は、この一戦を死守し得
るものが制空権の確保にあることをわれ/\
に明示している。われ/\一億は今ぞ人も、
物も、凡べてを戦力増強に直結せしめ、最後
の死力を発揮して国難打開に挺身せねばなら
ぬ。一億国民の生死を賭けた本土決戦は既に
火蓋を切つたのである。いま一億の総力を出
し切らずして、恨みを千載の青史に残すこと
勿れ。大日本帝国は皇統二千六百年 天皇と
共に存し、一億草莽は悉く 陛下の赤子たる
ことを銘記せねばならぬ。