第四二九号(昭二〇・一・一七)

 戦場ルソン島へ         大本営海軍報道部
 ドイツ反撃の原動力
 灯火管制の解説補足

 

戦場ルソン島へ  大本営海軍報道部

戦局ついひにレイテからルソンに移る

 昨年十月二十日上陸以来、レイテ島
の攻防すでに二箇月を閲するも戦局
依然膠着状態を続けつゝあつたとこ
ろ、局面打開を焦慮する敵は、十二月
十五日に至り遂にスール海の内ぶと
ころ奥深く侵入し、ミンドロ島に強引
なる上陸を行ひ、そして敵はミンドロ
島サンホセ航空基地の整備一応成るを
俟つて、新年諸島に至るや大挙ルソン
島に対する上陸作戦を展開し、こゝに
比島戦局はレイテの序幕戦よりルソン
の最終戦への急転換を齎すに至つた。
 即ちレイテ島においては、的は七箇
師団の上陸軍を十箇師団に増強し、
各種軍需資材また数百万トンの莫大量
を投入して短兵急に難局啓開を企図し
たが成らず、わが陸、海、空軍の猛撃や
薫空挺隊、或ひは高千穂降下部隊等の
壮烈なる斬込みと、地上部隊の勇戦奮
闘によつてサンパブロ、ブラウェンの
各敵空軍基地の使用は極度に拘束せら
れつゝあつたが、しかし敵はその常套
作戦たる空軍基地の推進に全力を傾け
尽し、タクロバン、ドラッグ、タナウア
ン、並びにレイテ島南部の新設基地二
箇所を含めてレイテ島に総計四、五百機
の航空機を進駐せしめ、またミンド
ロ島においてはサンホセを含めた基地
二箇所を設営し、これに約二百機を配
置し、さらにサマール島にも基地新設
を企図しつゝあつたものの如く、かく
て敵はレイテ、ミンドロの両島を空軍
基地としてルソン島への大作戦展開の
機を虎視眈々として狙ひつゝあつた。
 果たせる哉、敵は新年劈頭を迎へるや、
俄然、比島海域一帯に一斉行動を開始

一、一月三、四両日に亘り、敵機動部
  隊は台湾並びに琉球方面に対し艦載
  機延約九百機をもつて来襲し
一、これと呼応するかの如く、一月四
  日には英国機動部隊がスマトラ島北
  部に空母二、三隻を基幹とする延約
  九十機をもつて来襲し
一、輸送船三十隻を基幹とする敵船団
  はミンダナオ海よりスール海に入り
  四日にミンドロ島サンホセに侵入し
一、さらにその後方、ミンドロ島南方
  海域に各種輸送船百五十隻より成る
  後続船団も西進し
一、一月五日には特設空母約十隻を基
  幹とする有力なる機動部隊に掩護さ
  れた大型上陸用舟艇百隻内外の敵輸
  送船団がルソン島リンガエン湾に侵
  襲し
一、また同日、特設空母十隻内外を基
  幹とする敵の別動機動部隊はバナイ
  島西方海面を西進し
かくて敵に比島新作戦はルソン島を焦
点として急角度に全面的発展をみるに
至つた。
 そしてリンガエン湾に侵入した敵機
動部隊は、輸送船団を掩護しつゝ六日
よりサンフェルナンド、バウアン、ダ
モルテス等のわが陸上陣地に対し熾烈
且つ執拗なる艦砲射撃を浴びせ来り、
わが防禦陣地またこれに対し一斉に巨
砲の火蓋を切り、彼我の航空部隊また
空の激戦を続け、リンガエン湾一帯は
連日連夜、殷々たる轟音と濛々たる黒
煙に蔽はれた。
 この間わが陸海航空部隊は一月三日
より同六日までの敵艦船攻撃のみにお
いても左の如き戦果を収めた。
 轟沈 航空母艦         三隻
     戦艦            一隻
     戦艦もしくは巡洋艦   一隻
     巡洋艦           一隻
 撃沈 輸送船         十六隻
 撃破 航空母艦         三隻
     戦艦もしくは巡洋艦   二隻
     艦種不詳大型船     一隻
     駆逐艦           一隻
     輸送船           二隻
 しかし、六、七、八の三日に亘る甚
大なる損害にも拘はらず、リンガエン
湾にあつた敵機動部隊は、特設空母を
十五、六隻に増強し、輸送船団また百隻
内外をもつて九日朝に至るや、サン
ファビアン並びにリンガエン附近に
強引なる上陸を断行し来つた。そし
て敵の後継第二梯団の輸送船約百五十
隻は同日ルソン島西方海面に待機し、
また第三梯団の輸送船団の百五十隻内
外もミンドロ島南方海面を北上しつゝ
あり、かくてルソン島総攻撃への態勢
をとつた。

敵は遮二無二比島
奪還作戦を焦る

 かくして敵はニミッツ部隊とマッ
クアーサー部隊の陸、海、空軍を総動
員し、ルソン島の戦場をめざして比島
決戦の最終戦を強行せんとしてゐる
が、その理由としては
一、ルソン島を奪還することにより我
  が太平洋作戦を封殺し
一、ルソン島を根拠地として、我が南
  方資源地帯と日本本土との連絡補給
  路を遮断し
一、ルソン島への基地推進により、戦
  場を太平洋から南支那海を越えて支
  那大陸に拡大せしめる
こと等が挙げられるが、ルソン島の作戦
根拠地を喪つた後の我が太平洋作戦
が如何に大なる攻撃を蒙るかは今更い
ふまでもなく、また南方の国防資源の流
入のない我が戦力が如何なる窮局に突
入するかも説明を要せぬところであり、
さらにまた太平洋戦線の
南支那海への接岸により、
敵の日本本土攻略作戦
の基盤が如何に有利なる
地歩を占めるに至るかは
敢へてこゝに贅言の必要
もあるまい。故にルソン
島の戦場こそは断じて敵
手に委ねてはならぬ。
 そしてその故にこそ敵は動員し得る
限りの兵員、武器、艦船、航空機の総力
を挙げてルソン島奪還に死物狂ひとな
つてゐるわけである。従つて、敵はた
とひ如何ほど甚大なる損害が蒙らうと
も、ルソン島奪還の宿願は容易に放擲
せぬであらう。もとより、敵は如何に
物量の尨大を誇るとも、敵のルソン島
作戦が決して有
り余る物量の余裕をもつて行はれるも
のではないことは明白である。敵も恐らく
は四苦八苦の作戦であるに違ひない。
 しかし、敵の苦難や困窮を余りに過大
視する希望的観測は、われ/\の戦争努
力の上に百害あるとも一利なきもので
ある。むしろわれ/\は、レイテ島二箇
月余の戦闘において百万トンに及ぶ莫
大なる艦船の損失と、日米開戦以来最
大の人的資源の出血とを
甘受しながらも、なほも
大規模なるルソン島上陸
作戦を強行せんとする敵
の戦力と戦意の強大さを
断じて過小評価すべきで
はない。レイテの一小島
にさへ十箇師団の兵力を
上陸せしめた敵のことで
あるから、ルソンの如き大
島には最小限レイテ島に
おけると同じ位の兵力量
は注ぎ込むことであらうが、その場合、
仮りに一箇師団の揚陸に約三十万トン
の船腹を要するとしても、十箇師団の揚
陸には約三百万トンの船腹を必要とす
るわけである。しかし米本国を去る渺
茫六千浬の補給線の最末端比島戦線に
おいて、なほ且つ十箇師団の兵員と三
百万トンの船腹をいま新らしく注出し
て、尨大なる物量攻勢を強行せんとす
る敵の戦力を、われ/\は今更ながら
正視して、これを撃破するに十分なる
用意と覚悟を新たにせねばならぬ。

勝敗の鍵は正に制
空権の争奪にあり

 二箇月前、涙を呑んで驕敵のレイテ
島上陸を許したとき、小磯首相は「レ
イテ島の攻防戦こそは日米戦争の勝敗
を決すべき天王山の決戦である」との
旨を大胆率直に披瀝して、一億国民の
奮起を求めたが、その日米戦争の運命
を賭けた天王山の決戦場レイテ島も、
陸、海皇軍の肉弾血闘にも拘らず、
漸次戦勢の主導性を敵手に委ねるに至
り、去る一月四日の初閣議において小
磯首相は「レイテ島の戦況は必ずしも
可ならず」と述べ、さらに「レイテ島の
決戦は今や比島全域に移行した」と言
明するの事態極めて容易ならざる新局
面に突入するに至つた。
 そして戦場が次第にレイテ島からミ
ンドロ島へと中部比島を東から西に横
断し、さらに今また一挙北上してルソ
ン島へ移行するに至り、敵はいよ/\
文字通り比島最後の我が牙城に肉薄す
るに至つたが、敵がかくの如くレイテ
島より西進してセブ、パナイ、ネグロ
スの各島を縫つて中部比島の内海を横
断してスール海に出で、北上してミン
ドロ島に上陸、さらに大輸送船団を浮
かべて南支那海を抜けて長駆ルソン島
リンガエン湾に侵寇を強行し得たとい
ふ事態は、敵の制空権が中、南部比島
より遂に北部比島ルソン島にまで拡大
された結果であることをわれ/\は重
視せねばならぬ。そしてまた、それと
同時に、敵に制空権を委ねたる結果は、
同方面の制海権さへをも遺憾ながら次
第に敵手に譲らんとしつゝある深刻な
る現状を決して看過してはならぬ。
 要するに押すも押されるも、勝つも
敗れるも、結局は彼我制空権の帰趨如
何によつて決定されるのが近代戦争の
鉄則であり、従つてわれ/\はこの近
代戦争の性格に対する正しき把握を前
提として戦局の推移を究明すべきであ
る。つまり制空権さへ我が掌中にあれ
ば、比島内海の制海権を敵手に奪はれ
るが如きこともなく、また従つて敵を
してルソン島への上陸を一歩も許すが
如きことは断じてなかつたのである。
 敵のルソン島上陸作戦をして「ダン
ケルクの悲劇」たらしめるも、或ひは
また「ノルマンディの甘夢」たらしめる
も、要はルソン島の制空権を我が手に
確保し得るか否かによつて決定される
のである。そして比島攻防戦の帰趨を
決定するものも、日米決戦の運命を支
配するものも、正に疑ひもなく飛行機
である以上、われ/\は敵撃滅に必要
とする飛行機の数だけは石に囓りつい
ても断じてこれを生産し、絶対にこれ
を補給せねばならぬ。飛行機の補給さ
へあれば「一機一艦」の体当りに勇躍挺
身する陸、海、空軍の特別攻撃隊あり、
驕敵撃滅は期して待つべきである。
 幸ひ比島は七千有余の島々より成つ
てをり、従つて仮りに一島に一箇所の空
軍基地を設営するとしても無慮七千余
の基地を擁するわけであるから、もしこ
れらの基地に配備すべき所望通りの飛
行機さへ我にあれば、我は数段、或ひは
数十段構へ鉄壁の空軍基地配備を活
用し、敵をして断じて比島海面に跳梁
せしめるが如きこともなく、そしてま
た我は敵艦船と兵員を残らずリンガエ
ン湾底の藻屑として葬り去りえたであ
らう。要するに、一も飛行機、二も飛
行機、皇國興亡の運命はたゞ飛行機の
生産如何に賭けられてゐる。
 静かに過去三歳に亘る太平洋決戦の
戦歴を繙くとき、われ/\はいづれの
戦場も悉くが航空決戦の連鎖であつた
ことを発見すると同時に、開戦第四年
の新春を迎へて戦場がソロモンの末端
から、緒戦の出発点比島へと逆戻りし
たといふ事態もま
た、遺憾ながら敵
航空機の物量の前
に涙を呑んで後退
せざるを得なかつ
た由因を発見する
のである。
 勝敗の鍵は正に
航空機生産陣に握
られてゐる。われ
われは寡少なる飛
行機の数をもつて、
尨大なる敵の物量
挑戦の前に肉弾挺
身して奮戦しつゝ
ある陸、海軍特別
攻撃隊の勇士に対
して心から感謝を
捧げると共に、ル
ソン島地上部隊の驕敵殲滅作戦の展開
に呼応し、今ぞ一億の底力を傾尽して航
空機増産の総進軍を断行せねばならぬ。

 

 

政府の五重点施策決る

 小磯内閣総理大臣は一月四日、戦局に即応し「せいふとして
強力なる政治の具現、行政運営の決戦下等について一大決意
をもつて邁進したいと考へる」と決意を披瀝し、政府では着々
これが具体化を急いでゐたが、一月十二日の閣議で地方行政
の強化策と当面の五重点施策を決定、左の如く発表した。こ
れが具体策は順次本誌上でも解説する予定である。

 防衛と一般行政との吻合
並びに施策運営の迅速果敢
と浸透実践とを図り、国内
総力を挙げて生産及び防衛
の一体的強化を期するため、
地方行政協議会長と軍司令
官及び鎮守府司令官との
連繋を一層緊密にするの方
図を講じ、その体制の下に
中央の計画に基づき、差当
り左の重点施策を実行する
こととなれり。

一、防空体制の強化
二、軍需増産の徹底強化
三、食糧の飛躍的増産と自給自足態勢の強化
四、勤労態勢の強化と国民皆動員
五、所在物資等の徹底的戦力化