第二六一号(昭一六・一〇・八)
  特集 防空準備の進め方
  今度の防空訓練について
  防空必勝の鍵は国民精神
  防空訓練前になすべきこと
  防空壕について
  防毒について
  避難退去について
  神嘗祭と新嘗祭          神 祇 院
  会社経理統制令の改正       大 蔵 省
  生活必需品読本(八)魚類     農 林 省

神嘗祭と新嘗祭

 二百十日も事なく済んで、空は青空、田の面(も)には黄金(こがね)の稲の
波打つ秋が訪づれると、穀物に関する国を挙げての二大祭典が
神宮と宮中とにおいて厳修(ごんしゆ)される。その一つは十月十七日の神
嘗祭であり、もう一つは十一月二十三日の新嘗祭である。
 この二大祭の儀は、共にその源を悠遠の往古に発し、連綿以
て今日に及んでゐる。我が古典によれば、天照大神が衣食の祖
神に坐す豊受大神より、五穀の種子を得給うたとき
 是の物は則ち、顕見蒼生の食ひて活くべきものなり
 (この五穀は、天下万民の生活に欠くべからざるものである)
と仰せられて、粟、稗、麦、豆、稲を植ゑしめられ、豊饒の秋
いたるや、頗る喜び給ひて、新殿を作り、御親らその殿内にて
新穀を聞食さるゝ御儀を遊ばしたことが窺はれる。
 更に皇孫を、葦原の中国に降臨せしめらるゝに際しては、
御親ら三種の神器を授け給ひ、又供奉の二神に斎庭の稲穂を授
け給ひて

 我が高天原に所御(とこしめ)す、
 斎庭の穂(いなほ)を以て吾が児(みこ)に御(まか)せまつるべし

との神勅を下し給うたのである。皇祖が神器と共に、稲穂を御
親授あらせられた御神慮の程は、まことに深遠であつて、我々
臣民の感激措く能はぬところである。畏くも歴代の天皇におか
せられては、皇祖の大御心を大御心となし給ひ、年々その当歳
の新穀を聞食さるゝに際しては、必ず神嘗の重儀を終りたる
後、親しく新嘗の厳儀を行はせ給ふのである。
 さて、神嘗祭は皇祖天照大神が、当年の新穀を聞食さるゝに
つき、諸神の祭に先だち執り行はしめらるゝ祭儀であり、神宮
における大祭中でも恒例の祭祀としては最大の重儀である。
 一方宮中におかせられては、十月十七日、皇大神宮の神嘗祭
の当日午前十時、 天皇陛下神嘉殿の南庇に出御、神宮の方角
に向つて御遙拝遊ばされ、畢つて皇族並文武の百官を率ゐて、
賢所に出御、 皇祖を御親祭遊ばされ、親しく御告文を奏し給ふ
のである。また全国の官国幣社以下神社では、当日神宮遙拝の
式が行はれる。一億国民挙つて神宮に親本反始の赤誠を捧ぐべ
く、当日を休日せられてゐることは申すまでもあるまい。
 十一月二十三日には新嘗祭が執り行はれる。新嘗祭は
天皇陛下御即位に当りて、御一代御一度の盛儀として行はせ給
ふ大嘗祭の大祀と同一義の祭祀である。
 この日宮中におかせられては、午後五時三十分 天皇陛下には
皇族及び文武百官を率ゐて出御、先づ 陛下には綾綺殿に渡御
あらせられる。やがて神饌行立(しんせんぎようりふ)の儀がある。かくて神嘉殿の
御座に進御、神饌を御親供あらせられ、御告文を奏し給うて、
深く神恩を感謝あらせられ、然る後神々と共に新穀を聞食さる
るのである。かくて夕の御儀は一旦終らせられるのであるが、
更に当日午後十一時より翌二十四日の午前一時に亘つて暁の
御儀を遊ばさるゝのである。時は正に晩秋の夜であり、霜の凍
る年も珍らしくはない。かゝる寒夜にも 天皇陛下は些かも御
いとひなく、徹宵この御儀を遊ばさるゝのであつて、その御模様
を漏れ承るとき、我らは真に勅使を御差遣あらせらるゝの外、全
国の官国幣社以下神社にも、幣帛供進使が参向して国を挙げ
ての大祭が行はれる。
 往古我々の祖先は、皇室の御手振りに習ひ奉つて、初めて当年
の新穀を食するに際しては必ず斎戒沐浴して厳重なる神事を営
んだのであつて、この事は万葉集に見える数首の歌によつても明
らかに知れるのである。いつの頃からか、この美風が衰へ、神
嘗祭、新嘗祭の由来や、その精神を知る者が甚だ乏しいやうな事
態になつたのは、まことに慨かはしいことといはねばならぬ。
 時あたかも事変下、節米の声は上下に喧すしく、物資尊重の
叫びは甚だ高い。しかも未だその精神たるや、遍く強く国民に
徹底してゐないのであつて、識者の嘆声を聞くことも稀ではな
い。この事は、長い間唯物功利の思想が、国民を風靡し、祭祀
を怠慢にし、国民をして神恩報謝の誠心を忘失せしめた結果に
外ならない。
 この時にあたり、過般次官会議において本年より、毎歳十月
十七日午前十時を期して、万民一斉に神宮遙拝
をするやうに決
定されたことは、喜びに堪へない。国民はこの政府の意図を体
して、一人の漏るゝ者なく、神嘗祭の当日神宮を遙拝して、感
恩の誠を捧ぐべきである。更にこの感恩の赤心は、やがて報恩
の誓となり、一粒の米をも大切にするは勿論のこと、あらゆる
物資の節約に力を効し、進んでは積極的に生産拡充に邁往する
の努力とならねばならぬ。また、十一月二十三日の新嘗祭には
全国総ての神社において、大祭が執行せられるのであるから、
国民は挙つて当日氏神神社に参拝すべきである。

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