第二六〇号(昭一六・一〇・一)
  特集 銃後援護の実際
  銃後奉公を強化しませう
  軍人援護はどう行はれてゐるか    軍事保護院
  職場に再起する人々
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  戦没者遺児の保育と教育
  隣組に見る軍人援護の活動
  頭部戦傷の問題
  銃 後 へ
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   日独伊三国条約締結一周年     伊藤情報局総裁放送
   黒海と裏海
  簡易保険二五周年 郵便年金一五周年を迎ふ 保 険 院

日独伊三国条約締結一周年に際して  伊藤情報局総裁放送


 昨年九月二十七日、日独伊三国条約が結ばれまして以来満一ケ年になります。
 顧みまするに本条約締結以来、昨年十一月二十日にハンガリーがこれに参加加致しましたのを初めとして、同月二十三日にはルーマニア、十二月二十四日にはスロヴァキア、越えて本年三月一日ブルガリアがこれに加はり、更に六月十五日にはクロアチアといふやうに、続々と新たなる加盟国を得まして、各締約国は東西相呼応し世界新秩序建設を目がけて日夜懸命の努力を続けてゐる次第であります。帝国臣民と致しましては誠に祝福すべき日として明日の記念日を銘記しなければならぬと信ずるのであります。
 本条約の意義乃至精神といふ点につきましては、既に締結当日畏くも渙発せられました御詔書並びに近衛総理の告諭により明らかであります。
 畏くも御詔書中に「禍乱ノ戡定平和ノ克復ノ一日モ速ナランコトニ軫念極メテ切ナリ」と仰せられてをり、近衛総理の告諭の中にも同様の趣旨が述べられてゐるのでありますが、世界の平和を維持し、東亜の安定を確立することほ我が肇國の精神に源を発し、不動の国是であることは申すまでもありませぬ。そして日独伊三国条約はこの不動の国是を帝国現下の対外政策の根幹として具現したものにほかならぬと考へるのであります。
 本条約締結当時の情勢を見まするに欧州戦争勃発以来既に一年間を閲(けみ)し、而も戦局はますます展開し火の手は広く全他界に波及せんとするの形勢を示してゐたのでありまして、世界平和の維持を希念する帝国政府と致しましては、この戦乱の拡大を防止することが人類福祉のため喫緊事なりと認めまして本条約を締結したる次第であります。換言しまするならば本条約は昔時往々その例を見まする軍事同盟の如く、これにより戦争遂行に利便を得んとするものには非ずして、寧ろ戦乱の世界化を防止し、以て世界の平和を確立せんとする処にその根本方針があつたのでありまして、この精神こそ実に三国条約を締結するに至つた最も重大なる動機であつたのであります。
 第二に申上げ度いのは本条約により帝国の大東亜における新秩序建設に関する指導的地位が明確に認められたといふ点であります。そもそも帝国が東亜の永遠の安定を目的として旧秩序諸国の防禦線の役割を占めてゐる蒋政権打倒のため、既に四年余に亘り戦つてゐるといふことも、即ち今日の世界に大きく流れる時代転換の奔流の一脈と見るべきものでありますが、不幸にして我が国の真意は未だ十分には世界に認められず、或ひは旧秩序をそのまゝ固執することを平和なりと誤認し、或ひはまたこれを変更することの必要性を認めつゝもなほ多分に現状に恋々として帝国が大東亜において新秩序を建設することに反対しようとする国のありますことは、誠に残念でありますが、かゝる状勢に際しまして帝国と致しましては、志を同くする独伊と相提携致しますることは当然の帰趨であつたのであります。そして本条約締結以来欧州においては独伊両国は破竹の勢で新秩序建設に邁進致してをりますが、その間東亜において帝国が締約国の一員として毅然たる態度を持してをつたことが、独伊両国に如何に力強き支援あつたかはこゝに多言を要せぬところであります。一方東亜におきましては帝国は昨年十一月汪牙ハ氏を首班とする国民政府を承認致しまして、こゝに日満支三国を根幹とする東亜新秩序建設の第一歩を踏み出しましたばかりでなく、本年初頭より泰仏印紛争調停に乗出して見事これを解決しましたほか、仏印との間には本年七月共同防衛協定を締結して南仏印に平和的進駐を行ふ等、大東亜においても新秩序の建設に向つて着実なる進展を続け、以て帝国の東亜における役割を果しつゝあるのであります。
 かやうに日独伊三国条約は締結以来一年を閲し、その間加盟国も増加し、東亜において、将又欧洲において各締約国は着々本条約の運用により新秩序建設の歩を進め来つたのでありますが、畏くも御詔書において「萬邦ヲシテ各々其ノ所ヲ得シメ兆民ヲシテ悉ク其ノ堵ニ安ンゼシムルハ曠古ノ大業ニシテ前途甚ダ遼遠ナリ」と宣はせられてをりまするが如く、我が国の前途には幾多の難関の存することは疑無き処でありまして、我々と致しましては、条約の精神に則(のつと)りあらゆる平和的手段を尽し、若し謂れ無き第三国の妨害あらばこれを断乎として排撃し、以て世界新秩序建設完遂のため力強き一歩一歩を進めて行く決意を固めなければならぬと信ずるのであります。
 こゝに条約成立一周年を迎へ、過去一ケ年の業績を顧み祝意を表すると共に、今後国際情勢が如何に変化しまた如何なる難局に遭遇することあるも、三国同盟の根本精神が、我が外交の基調であることは何等の変りなく、第三国の離間中傷により影響されることは有り得ないのでありまして、現下の微妙なる国際状勢において特にこの点を強調したいのであります。締約国は忍耐強く、ますますその誼(よしみ)を厚くしその共同目的の達成に邁進せねばならぬと信じます。

(一六、九、二六)

週報第260号(1941.10.1)