第二三一号(昭一六・三・一二)
   蚕糸業統制法の概要        農 林 省
   制定された国民貯蓄組合法     大 蔵 省
   五箇条御誓文と融和精神      文 部 省
   台湾における皇民錬成運動     台湾総督府情報部
   商業報国運動の展開
   国民学校の教科書はどうなる    文 部 省
   南支援蒋路封鎖作戦        大本営陸軍部  大本営海軍報道部
   重慶最後の輸血路遮断
   泰・仏印紛争調停の経過

五箇条御誓文と融和精神



                     文    部    省

 三月十四日は五箇條御誓文奉戴の記念日である。即ち本
年より七十四年前の同日畏くも明治天皇が紫宸殿に出御遊
ばされ、肇國の精神に基き御親政の大方針を五箇条御誓
文として天神地祇にお誓ひ遊ばされた日である。この御誓
文と、更に同日御宣布あらせられた御宸翰とを併せ拝する
とき、皇謨の如何に宏大であり、深遠であるかゞ拝察せ
られる。この尊い大御心は、明治の御代は勿論、大正、昭
和の御代をも通じて隆々たる国運進展の基をなしてゐるの
であるが、特に内外ともに未曾有の重大時局に直面する今
日、この御誓文を拝しては一層深く奉戴の決意を新たにし
なければならぬことを反省せしめられるのである。
 しかるに、思ひを国内の事情に致す時
洵に畏れ多いこ
とではあるが、なほ御誓文の精神が十分に国民一般に徹底
してゐないやうに見受けられる。明治以来欧米文化の輸入
に急であつたため、それが歪められたことが無いでもなか
つたのは誠に遺憾である。
 すなはち「知識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ」と仰
せになつたのは、皇国の大道によつて東西の文化を綜合し
ようとする雄大な御精神より出づるものであつたが、欧米
文化の急速なる輸入に成功し得た反面に、人心が物質主
義、功利主義によつて害せられた事実の存することは否定
出来ない。
 また「広ク会議ヲ起シ万機公論ニ決スヘシ」と仰せられた
ことについても、公議世論を尊重遊ばされる尊い思召が実
現せられる一方、自由主義、個人主義に禍せられて、公論
を私するが如き弊を生じたことがないでもなかつた。
 更に又「旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ」と仰せ
られたことについて見るに、維新当時における幾多の陋習
が改められたことはいふ迄もないが、しかし現在でも、ま
だ国民の日常生活に迷信とか、謬つた因襲が少からずある
のは遺憾に堪へない。この因襲的感情の残滓を払拭する
には、教育教化の力によるべき面が極めて広いのである。
 昭和十三年八月、本省が融和教育に関する訓令を発したの
もそのために外ならない。
 今や支那事変勃発以来第五年に入り、我が国は八紘一宇の
肇國精神に基づき東亜新秩序の建設に向つて一路邁進しつ
つあるのであるが、前途にはなほ容易ならぬ難関が横つ
てゐることを覚悟しなければならない。而してこの難関を
突破すべく、高度国防国家を建設するには一億の国民が真
に生きた一体となつて、それ/"\の職域をとほして御奉公
が出来るやうに国民組織を確立しなければならないのであ
るが、この秋に当つて前述の如き、御誓文の精神に悖る陋
習が残存してゐては、真に国民一億の実を挙げることは出
来ない。かゝる有様では、更に進んで自ら東亜諸民族の中
軸とし盟主として、その相互の融和提携を図り以て東亜共
栄圏の確立を図るといふ大任の遂行は到底覚束なしと言は
なければならない
これ誠に国民の深く心す可きことであ
る。
 御誓文奉戴の記念日を中心として国民融和強調運動が実
施されるのは実にこの趣旨に外ならない。我々は、この未
曾有の重大時局に際会して深く如上の事柄を反省し、五箇
條御誓文の聖旨を奉戴して、一日も速かに内、国民融和の
理想を実現し、外、これを東亜諸民族に及ぼして、以て
宏遠なる聖慮に副ひ奉るやう努力しなければならない。