第二二二号(昭一六・一・八)
   生活必需品の確保と科学技術    企画院科学部
   国際政局回顧と展望(下)     外 務 省
   邦人の海外進出状況(下)     拓務省拓南局
   新支那中央銀行成立       興 亜 院
   来年度の中等学校入学試験はどうなるか 文 部 省
   米国の汎米経済工作
   陸軍の総合戦果(昭和一五年)
   現地寄稿 前線から銃後へ     支那派遭軍 千田(恒)  部隊軍曹 中村義雄
   昭和一五年下半期総目次
   官庁編纂図書だより・文部省推薦図書だより

 

生活必需品の確保と科学技術

国防国家の完成と国民生活の安定

 最近社会の各方面に亙る新体制樹立の必要が叫ばれ、上
は政治外交の分野から下は我々の近所交際や日常の起き臥
しの問題に至るまで、国民のあらゆる生活活動部面に対し
革新が要請されてゐるが、要するに究極の目的は国防国家
の完成といふ一語に尽きる、わが国の如く資源的に恵まれて
ゐない国に於て高等科学戦の特徴である莫大な軍需消耗を
供給するといふことは、非常に困難であることはいふまで
もないが、真の国防国家の完成には単なる軍備の拡充だけ
では十分でなく、必ず国民生活の安定が得られてゐるとい
ふ事を前提条件とする。
 この国民生活の安定といふことが如何に国防上に重要で
あるかは、前欧州大戦に於けるドイツの内部崩壊による敗
北に徴しても明らかであつて、ドイツは自国の寸尺の領土
をも侵かされる事なくして国内に蜂起した内乱のために聯
合国側に降服し去つたのである。或ひはコミンテルンの巧
妙な宣伝戦によつたといふ見方もあるが、要はこの宣伝戦
に乗ぜられるやうな状態にあつた国民生活の極度の不安が
原因であつた事は否む事の出来ない事実であらう。寧ろ国
防の基底は国民生活の安定にありといはねばならね。
 そして国民生活の安定を得るためには尠くとも最低限の
生活必需物資の確保といふ事が肝要であつて、さきに近衛首
相が国民に最高の名誉と共に最低限度の生治を保障する旨
表明したのもこの意図を明らかにしたものに外ならない。
 なほ最近総動員法第八条に基づく生活必需物資の統制に
関する勅令案要網を決定し、更に一般物資の動員計画と併
行して国民生活必需物資の動員計画の設定に関し着々準備
を進める等、政府に於てもこの国民生活の安定といふ事に対
し深甚の考慮を払ひ、措置の万全を期してゐる。
 ところが物資の供給力は必然的に有限であり、時局は需
要を無限にまで要求する。そして軍備の拡充と国民生活の
安定はあくまでも両立を条件とする。こゝに我々の悩みの
種があるわけだ。

国民生活安定の限界点

 本来軍備は対外的の性質を有し国際情勢に相関的であ
るべきであるから、これが要求は寧ろ絶対性を帯びるに
反し、国民生活は何処までも対内的の関係であり、しかも
国民自体の訓練と自覚により或る程度の伸縮性を許され
る。こゝに国民生活の安定の緊要を認識しながらも、なほ且
つ第二義的に考へ勝な所以のものがあるのである。なほ国
民生活が如何に仰縮吋賂であるとはいへ、この可能弛馳に自
から限度といふものが有る。而してこの眼▲庇は、一應閲戊が
択戦時鰻制下に於て必弊なる触旗む維持し、しかも拘の贅求
づる物資の生産に支陀なく縦事し柑るための澱低眼度の生
活必寓物資の舘婆盤を以て衣はす事が川水る。然しらゝ匹
長も江意む袈する黎は、この澱低睨度の舶淑舶の碓保が塩ち
に開戌生析の姿定を怠味するものでないといふ雄である。
一けん小い
琴くも安定といふ眼り必すその時の仇紛カがかゝる睨外
軒以上に存准しなければならぬ事はいふまでもないが、仮
令この供給力が睨卿鮎に封して相常飴補のあるものである
。‘ん‥し
としても、祀曾の怖勢がこの伏給力を漸攻沌少せしめる方
向に進んでゐる時は、我一の生析の安定感は徹かされる事
になり、固戌生活は不安の状態にあると云はねばならぬ。
●●●▲▼
モして漸次この飴桝が減少して行けば行く柑この不安は埠
大し、逮に俳給力が択界鮎に到遽した時は北柄の不安はそ
の機鮎に達し、更にこの睨界斬を爽破するやうな事があれ
ば園艮生析は停止の止むなきに室るのである。しかし少く
ともこの隈界鮎までは我人の生治は桃持せられるのである
から、逆に供給力が如何に睨界鮎に接沈してゐても、その
現在の鮎に停止してゐるか、或ひはこれに姐ざかりつゝあ
る方向に移行して行く場合は生紡の尖定は柵快される。
最旺我人の日常の滑焚生活に於て惟飴する物資締給の不

03

糾鰍ゥらの噴迫感は、勿諭いはゆる第三朋的な様相とは
くわ′・ノ▼ん
刺然と畷別すべき性質のものであるが、少くとも我々の生
朽必常物資の供給吋能発がさきの睨界鮎に淋攻棲近しっゝ
ある傾向た暗示するものであり、この意味に於て現在の図
艮生活は虞に安定してゐるとはいひ雑い。
檜産確保と科翠技術力の協力
▲rん小1・
衆近の生活必詫物資の裔給不均衡の原因を考娯するに、
戦時に於ける解黎柑加の現象−この現象は前欧洲大戦に
於て各開共に背い健験むしたのであるが−による事も考
へられるが、何といつても賓材や弊力の不足に基囚する生
産の減温が主閑むなしてゐる事は香む事のM雑ない事賓で
ある。現に食棉品に就ての最近の調査によると、物にkつて
は戦前に比し相常の生産減少となつてを。、その後の帝要埠
加む考慮に入れるとその供給率は吏に減少を一がしてゐる。
戦時に於ける簡黎櫓加の現象は、配給耗制の資施や渦費
くわんわ
境正の強化専による法制的手段により按和し得べき性質
・のものであるが、後者の減産による供給力の減逸は生産資
材・労力の硯資の不足に巾来するものであるから、戦時産糞
政箭上の新らしい企鮎む侠たない眼り、畢なる池規紋制的手
段だけでは防止〓氷称い椚舶であると考へられる。最洗はど
の床柴に於ても、弊力の不止に封しては機度の弊働咋糊の
花衰卜責姉室丁の弊働力の刺只等あらん阻りの封節が誠ぜ
られてゐるし、資材の不足に封してはあらゆる不帖を忍ん
で働度の滑費節約や代川‖mの利m托求が企てられてをり、
仝く血の汝むやうな持刺たb力が続けられてゐる。而して
この売菜界の顕牽な態度、罷糾な労力があつたればこそ、前
述のやうに、この慈偲件を砿収して、食棉品の沌産を愕かに一
割に喰止め得たものであり、この窓味に於て北が帝発の驚
▲、●ゥ‥しん
輿的な強挽性に心睨さ歓感ずると共に、特にその生庶に沓
▲‡一∨か▲フ
つた我が閑農漁民に封し満陸の感謝を捧げねばならない。
しかし乍ら、今筏の俳給力の碓保は凱なる班力だけでは困
耗であつて、行政、生産、抑焚に亙るあらゆる務発部両に封
小。r
する科拳枝術の程剤、活州こそはこの搬局打閑の鈍であ
る。この科革枚術力の協力によつてこそ、東共政紫の滴正が
期し得られ、生産の合理化がかち待られる。そして必ずや
■一▼▲−
▲今日の山箕材心労力の不」足む補つて飴りある生産が確保され
るであらう。
食櫨生尭と科▲寧技衝
現蕗あらゆる物賓の生産には多少ともに科拳妓術の慮用
されてゐないものはあり得ない。況んや積機閥防資材の生
産に於ては、現在欧米のそれに此し遽れたりとはいへ、少
砂くとも我が国最高の科皐故術が最高虔に應用され、l或ひ
は磨用さるべく仝智仝能が動艮されてゐるが、更に各方宮
に】舟科皐枚術の活用が要望されてゐる。
しかるに生活必舘物資の従米の生産、殊に我が“彗口木。
特産加エ食槻晶、例へば、味噂、響地、酒、豆騰啓の生産に虫
いて瀬嘗氷の女▲の非科革的な方法が依然として大部分と
占めてゐる。生活必帝物賓の中でも主として衣、位に押す
るものは、近年欺米丈化の影響に上る生所楼式の奨遽に件
ひ、物資と共にその生産枚術も輪入され、その後の生産に
於ても随時外国枚術の刺戦を受けつ1あつたから、可成・タ
L‡い
の料革故術の協力の事‡は認められるが、貨に仔紬に捻付
すれば科孝技術の活用により一斤の改良堵産を期待し符る
ものも多い。
女に食穏晶の生産に就いて見ると、米穿魚介の農水産品
の生産は替く招きト前例の加エ食料品の多くのものは、勿
論特産品あるが故に外閲妓術の俸黎的刺戦を受ける横合も
少なかつた事にもよるが、一方飴りにも棋弘い噂好といふ
ひ■■▲正−
園民の怖習の庇護に押れての怠蝮としか考へられぬ挫、掛
畢枝術の利用上いふ事に触鵬心で、恰も首年一日の如く弊
科堺的な原始的手添が踏塊されてゐる場合が多い。敢へて
科趣丁枝術の起糊の必要を詮く析以である。
今、豆礎の製達に例をとつて見る。豆粛は本米大豆の‡
小,しつ
自質と油とからなる一秤の脾質ゲル鰻であると考へられろ
から、原料大亘に油が仝然触くなれば、いはゆる豆櫛の■慮
一同と形態は望み得られないが、といつて大豆に合まれてゐ
る抽分仝部が必ずしも必黎な持ではない。大豆に合まれて
ゐる油の牛分以上も搾油した原料によつても立浜な豆瀦
が、しかも称つて容易に造り待るのである。もしも今日仝
南の王傑菜者がか1る方汝を珠用するとしたら、或ひは現

04

今の食料油不足の悩みは立ち竹に僻渦し得るかも知れな
い。また皆油の製追に就いて見ても、なるはど皆油醸造に
は丸大豆を使用すれば、他の原料を使用する場合に此べて、
““づ小〜
味も得丑も最良である事及び諸味の障酵には一部大豆の油
の存鹿する事が必要である事も確かに認められる。しかし
ながレ大豆中の油が仝部必宰だと小ふ繹ではない。少し妓
術的の考鹿さへ彿へば一部陀脂の大豆によつても丸大豆に
●し
劣らぬ成練が壌げられてゐるのである●こ1にも油胎埠牧
の可能性があe事を見出し符る。
吏に毛者の科虚丁技術に封する無媚心の詮左として、畢に
庶料の慣格が低廉であるといふだけの理由によつて一県普は
晶質、得最、咽挽等の開係を楕査すると却つて高慣なネのと
なるに拘はらず撒粕(溶剤で袖を抽出した火豆粕)による頭
逸を希窒する糞者がある事である。撤粕は原料成介が仙璧質
してゐるからその利用盤丁も惑く、味も得景も非常に劣つた
曹油しか榊水ないのであつて、替油埠産の見地からすれば
却つて嬰ましからぬものとい瀬ねばなら瀧。尤鳥この撤粕
の使用刷嶺に就いては、稚雑の抜術行政の映陥もその青の
】牛を負はねばならぬのであつて、油胎戚料の碓保に汲人
として他を省みる飴裕た失つた事によるかも知れないが、
とにかく行政部面の科拳抜術的貧悶は香定できないであら
えノ●
なほこの止管油の製遽に就いてはその他醸延期聞、皆油の
牧長及び利用法等科拳枝術的再捻紆を必妥とする開鹿が少
くない●
科寧妓術の清用こそ難局打開の轟
以上のやうに、橿く手近なニ、三の例を拳げただけでも
この瀧りであつて、加エ食槻品の生産について如何に科手
故術の起刷を必宰とする場合の多いかは想像に難くない。
また今日の米奔魚介専の主食晶の減産についても科雀攻術
の費困に辟すペき場合が少くない。例へば本年鹿の米の汝
産は一部天候の不良にも辟せねばならぬ朗もあるが、なほ
肥料、塞剤等に帥する生塵、配給等の贈係も看過する
●ウヽllい〜〃t,
ととはできない。肥料は兎も角、枚亀用*剤や誘蛾燈用
触料の不十分であつたための晶事にょる減産堂は莫大な盈
に上るものと見られる。また本年は加鹿肥料の不足が多分
に懸念されたにも拘はらず、睾にも奔類の埼塵は壌期以上
L▼一_し
の成轍を畢げ得たのであるが、これ一に農民の鹿牟な努カ
の賜ものに他ならない。tかしこの均産こそ土地に封する
兵民の、香、革ろ固の負唐咤於てかち得たものである事と
銘記しなければならね。肥料は触くとも農月の努九さへあ
ヽヽヽ
れば策外作物は朱るものだ、などといふのんきな考へ。と
持つて、徒らに偉倖た頼むやうな事があつてはならない。
▲無から有は生じないとは科皐の舵然たる…坪則である。
政府はとdに鐙みて、兵糞報圃の構紳の黎坪に期待する
と弗に、肥料・賓材の確保、兵糞技術者及び稚巣蒙の線勅
h貝に上り衆年の柑塵を売途すべく努めつ1ある。
要するに我が国の生活必帝物資の生産は決して本質的に
行儀ってゐるものではなく、その打閑は必ずしも飼難で
ない。勿論これがためには物心粥南よりの卜野力が必襲であ
るが、なかんづく生産部南、行政部南に澱ける科率杖術の
起用活用こそ、この我が産菜の難局打開の途であゆ、裁虐
下国民生活安定への活路である。
−各l院科革郁1