第二一三号(昭一五・一一・六)
   教育勅語換発五〇年式典に於て賜はりたる勅語
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   支那事変の近況         陸軍省情報部
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    −米穀管理規則の解説−

 支 那 事 変 の 近 況
                       陸 軍 省 情 報 部

 世界情勢の変転に伴ひ支那事変を一日も速かに解決す
べきであるとの意見が盛んになつてきた。速かに重慶作戦
を敢行し、蒋政権を潰滅すべしとの強硬意見も出てゐる。
 広大なる支那大陸、四億の人口を有する支那、世界列強の
半植民地的存在であつた支那問題の処理解決は、決して短
日月のよくするところではない。世界情勢の変転に伴ひ、こ
れを徹底的に解決するためには、吾人は更に決意をかため、
あくまで初志を貫徹することが必要である。今こゝに最近
の支那事変状況の概説を試みる趣旨もそれにある。

1 重慶政権の近況

 重慶政権は相変らず「抗戦到底」、即ち徹底的に戦争継続
の意志であると宣伝をしてゐるのであるが、南方からの援
蒋ルートが遮断され、また先般四川省への入口宜昌が陥
落して以来、急に抗戦諸物資が欠乏してきたのみならず、
わが連続且つ徹底的な重慶爆撃に、物質的にも精神的にも
非常な打撃を蒙つてゐる。また国際情勢の変転に伴ふ影響
は、結局に於て重慶側にとつて不利となつてきてゐる。一
方日支国交調整に関する基本条約締結交渉は、予定通り現
地交渉は終了し、近い将来には有效に発動することとなる。
かく形勢日に非なる重慶政権の弱みに乗じ、中国共産党は
勢力拡張に大童で、国共の関係は日に日に深刻な対立状
態となつてゐる。わづかに、過日締結された日、独、伊三
国条約の齎す新情勢によつて、英米の対蒋援助がいよいよ
強化され、抗戦環境はかへつて有利に展開するであらう
といふことに、淡い望みをかけてゐる有様である。
 これを要するに四面楚歌の蒋介石政権は、抗戦の前途に
絶望的となり、今はたゞ惰性的に現状を維持し、何等かの
方法でこの苦境を打開し得ないものかと日夜腐心してゐる
ものと考へらる。

2 支那軍の状況

 本年四月以降わが軍が実施した大々的掃討戦によつて敵
は甚大な打撃を蒙つた。ために敵が計画中であつた第三期
整備訓練に一大支障を生じ、七月上旬以降は専ら態勢の
整備、部署の変更を実施し、各方面とも鋭意戦力の挽回に
努つゝある状況である。
 敵はわが軍が九月乃至十月の候、全面的攻勢に出ること
を恐れ、わが軍の後方地区に対する遊撃戦を督励し、わが
軍の移動攻勢準備の妨害に努めてゐた。八月中旬北支方面
に於ける共産軍の出撃、晋南地区に於て中央軍の蠢動を
見たなど、諸処に於て戦闘をひき起したのもそれであるが、
全般的には静穏であるといへよう。
 現在の蒋軍総兵力は約二百五十ケ師、約二百万と称せら
れ、一ケ師の兵員数は、概ねその基準編成に近い程度に補
充されてゐるものと認められるが、その装備は定員数の
二、三割を充す程度で、兵員の素質が著るしく低下してゐる
ことは、逃亡兵の続出、不正行為の頻発等、軍紀風紀の弛緩
によつて明らかである。兵の戦意は殆んど見るべきものな
く、賞金と峻烈なる処罰とによつてこれを鼓舞激励してゐ
る状態であるが、幹部の中には今なほ相当強い戦闘意識を
有するものがある。しかしこれ等は、日本軍と未だ交戦し
たことのないものの心境であつて、一度わが軍の猛攻を受
けた後は忽ち戦意が鈍化する傾向にある。
 軍需品の補給能力は敵軍抗戦能力判定上の重要要素であ
るが、今日では海外よりの補給路の主なるものは殆んど完
全にわが軍に封鎖され、残るルートから極めて僅少数量の
ものが補給せられ、実質的には殆んど抗戦力増強にはな
り得ない現況である。今回英国によつて再開されたビルマ・
ルートの輸送力は従来一ケ月千五、六百トンと称せられて
ゐる。
 また一方、その生産能力如何と見るに、敵国内兵工廠の
弾薬製造能力は、小規模の遊撃戦遂行には概ね支障なき程
度に達してゐる模様である。しかしその他の兵器の生産力
は小口径以下の修繕程度で、極く貧弱なものであると見
られる。
 これを要するに蒋側支那軍の抗戦能力は著るしく低下
し、到底武漢作戦当時のやうな大規模の攻勢作戦を遂行す
る能力はないが、遊撃戦術による長期持久戦態勢保持に対
しては、なほ相等長期に耐へ得るものと判断するを至当と
する。

3 各地の状況

  1 北支方面共産軍の活動

 北支方面では去る八月二十一日頃、山西省奥地に蟠踞す
る大百二十、第百二十九師等の共産軍及び抗日大学生等総
計一万二千の敵が、同蒲、石太各鉄道及び炭坑に対し一斉破
壊を企図してゐたので、わが軍は機先を制して二十一日来
各地に反撃、二十五日遂に完全に撃退しこれに多大の損害を
与へた。その他山西省東部地区及び河北、山西省境に蠢動
する共産軍に対し十月十一日以来掃蕩戦を実施した。

  2 中支方南

 中支方面では去る八月、江西省武寧方面に於て新編節十
三、三十九師に対する討伐、安徽省襄安附近に於ける敵第
七十六師保安団に対する掃蕩、盧州北方准南鉄道沿線方面
の掃蕩戦等が行はれた。九月には、五日以来揚子江江北
高郵湖、洪沢湖を中心とする地区一帯の共産新四軍に対し
包囲殲滅戦を実施したのが一番大きな戦闘であつた。十月
に入り十三日以来潜江東南方の湖沼地帯及び奉新附近に於
て掃蕩戦を実施し、一方三角地帯方面では三日以来約二十
ケ師の敵を迫撃し、蕪湖より杭州中間地区及び杭州南方地
区において破滅的の打撃を与へた。

 3 南支方面
                          “し 
 広西省仏領印度支那国境方面では、対内外示威のため敵
軍一部の蠢動漸く盛んとなつて来たので、南支軍では八月
十七日以来行動を起し、上思県周辺地区においてこの敵を徹
底的に討滅した。
 一方わが陸海航空部隊は十七日敵に残された西北ルート
の要衝寶鶏を空襲、十九、二十日海軍航空部隊と密接な
る協同の下に重慶を猛烈に爆撃しこれを窒息せしめた。九
月に入り、一月以来海南島に残存蟠踞する敵匪一千を、陸
海軍及び民衆自衛軍協力の下に掃蕩を実施した。航空部隊
は引続き敵主要各地の猛爆撃を継続してゐる。
 九月二十三日から行はれた皇軍の仏印進駐によつて、北
部仏印を皇軍が軍事的に利用することが出来るやうにな
り、爾後の作戦行動を大いに容易ならしめるに至つた。こ
れがため南寧からの軍の撤収も可能となつたのである。わ
が航空部隊の精鋭は十月五日河内(はのい)飛行場に進駐し、十月十
七日再開されたビルマ・ルートの爆撃を、適時実行し得る
態勢を確保した。

む  す  び

 これと要するに、支那大陸に於ては依然皇軍将兵は長期
に亙り掃蕩戦に日夜奮闘努力しつゝあるのであるが、士気
ますます旺盛、使命の達成に邁進しつゝある。