第一八二号(昭一五・四・一〇)
  第七十五議会特集
  概  観
  法律解説篇
   −可決された全法律案の解説−
  予算解説篇
  総論(総予算の概観)
  各論(各省別新規事業)
  議会日誌
  重要質疑応答篇
   −本議会で行はれた質疑応答の抜粋−
  仏国の政変と対ソ関係       外務省情報部
  五原方面の戦闘状況        陸軍省情報部

 

重要質疑応答編

 貴衆両院本会議で行はれた質疑応答中から、二三、重要と思はれるものの要旨を拾い出したもので、国務
 大臣の答弁内容を記録することに重点をおき、質問の要旨は簡単にした。「貴本」は貴族院本会議、「衆
 本」は衆議院本会議、「速」は「官報号外議事速記録」(内閣印刷局発行)の略で、詳細は原文について知つて
 いたゞきたい。


  八紘一宇と東亜新秩序

[問] 八紘一宇の精神と東亜新秩序の建設
に関する政府の見解如何。(二・二四貴本、建
部遯吾氏)[貴速一三号一二六--三三頁]

[答] 八紘一宇とは神武天皇御創業の大精
神であり、広大無辺の御仁徳を普く天が下
に布き弘め給ふ所の大御心であると拝察す
る。東亜新秩序の建設と云ふことは、近衛
声明にもある通り、抗日容共の指導精神を
持つてゐる蒋政権を飽く迄打ち倒し、支那
を完全なる独立に導き、日満支共に善
隣友好の実を挙げ経済的にも提携し、
なほ防共の強化をも図ることである。
固より諸外国の権益を侵すことなきは
勿論であり、その正当の権益は之を助
長せらるべきものであると考へる。か
くして東亜永遠の平和が得られると考
へてゐる。次に支那事変の目的は、実
に東亜に於ける新秩序を建設し、肇國以
来の国是であり八紘一宇の大理想を実現
するにあり所謂侵略戦争とは根本的に其
の類を異にする。この来るべき東亜新秩序
の建設こそは、物心幾多の犠牲を償つて余
すなきを信ずるものであつて、この聖戦の
目的に徹するならば、敢て領土を求めず、
敢て賠償を要求せぬでも、国民は満足をす
るものと信じてゐる。(二・二四貴本、米内内
閣総理大臣)[貴速一三号一三三頁]

  支那事変の目的

[問] 支那事変の目的について政府は如何
なる考へをもつか。(二・二衆本、斉藤隆夫氏)
[衆速五号四〇頁]

[答] 今次事変の目的は、容共抗日政権
を潰滅し
て東洋平
和を恢復
し、日満
支三国が
善隣友好、共同防衛、経済提携を具現し、
以て東亜の新秩序を確立して、肇國以来の
国是たる八紘一宇の大理想を顕現するにあ
る。従つて弱肉強食を本質とする侵略戦争
とは根本的に相違がある。在支百万の皇軍
は固より、全陸軍の将校はこの信念の下に
聖業の完成に邁進してゐる。十万の英霊は
この信念に殉じ従容死地についたのであ
る。しかるに今日事変目的に関し兎角の疑
義あるのは真に遺憾に堪えない。(二・三衆
本、畑陸軍大臣)[衆速六号四六頁]

  道義外交の根拠

[問] 政府は道義外交を主張し、自主外交
といふが、如何なる根拠に立つのか。(二・
六衆本、河上丈太郎氏)[衆速八号八十二頁]

[答] 論理的基礎と言ひ得るか否かは別と
して、日本の外交は、建国の大義に立脚し、
皇道の精神に基づいて之を行ふ、これが要
諦である。最近世界の平和が確立しないと
云ふ原因は何処にあるかと云へば、不合理
不公正なる現状が強ひて維持せられようと
する所にあるのであつて、これを皇道の精
神に基づき、國體の本義に立脚して、各国をし
てその処を得せしめて行く、さうして世界
の平和を招来する、これが必要である。随つ
て東亜の新秩序建設、或ひは防共の方針と
云ふものは、皆これから出発してゐると思
ふ。(二・六衆本、有田外務大臣)[衆速八号九一頁]

  新支那の通貨問題

[問] 支那に於ける通貨問題に対して日本
は如何に援助する考へか。(二・五衆本、大
口喜六氏)[衆速七号五一頁]

[答] 日本は聯銀券の価値を維持すること
にできるだけ助力をせねばならない。それ
には、日本が正貨を以て援けるか、日本の
物資を送つて援けるか、にあるのであつて、
聯銀券の価格を維持し、支那の対外輸出貿
易を順調にさせるには、或る程度日本が援
助しなければならない。政府としては、支
那が将来輸出入の上に於て輸出貿易を振興
する根幹をなすものには、出来るだけ物資
を供給し、同時に支那から日本に輸出ので
きる物が速かに増加してこの間のバランス
がとれるやうにしたい。なほ中支、北支に
於ける通貨の関係は、新中央政府ができた
暁、新たな通貨制度が確立されることと思
ふ。しかし中央政府の設ける中央銀行発行
の通貨と北支、蒙疆等に於て流通する通貨
との関係は未定であるが、北支は北支とし
て聯銀券が通用されると思ふ。(二・五衆本、
桜内大蔵大臣)[衆速七号五六頁]

  円「ブロック」貿易問題

[問] 日満支円「ブロック」の貿易関係につ
いて政府は如何なる見解を持つてゐるか。
(二・一衆本、小川郷太郎氏)[衆速四号二七頁]

[答] 円「ブロック」に対して昨年は十二億
余万円の輸出増加になつてをり、これが日
本国内に於ける物資欠乏の一因を成して
ゐると云ふことは、或る程度否めない。故
に政府に於ても、この円「ブロック」内に於
ける貿易に対しては、適当な調節の方法を
執つてゐるが、日本が東亜の盟主となり、
東亜の新
秩序を建
設する見
地から言
へば、或
る程度日満支間の経済問題の指導者となつ
て、これを援助して行く必要がある。即ち聯
銀券を維持する上に於ても、又満洲の通貨
は現在日本に「リンク」してゐるが、その信
用を維持する上に於ても、日本が出来る限
りの物資を供給すると云ふことは、当然為
さなければならない。これを今後どうする
かと言ふと、日満支綜合経済計画を立てて、
満洲等の物資にして日本に輸出の出来る所
の品物を奨励し、日本も亦出来る限り向ふ
に品物を送るが、満洲、支那に於ても出来
る限りの品物を、日本に供給するやうな方
途を講ずる必要があると思ふ。(二・一衆本、
桜内大蔵大臣)[衆速四号三一頁]

  低物価政策と奨励金

[問] 政府は低物価政策遂行に当つて、奨
励金とか補償金を出す考へのやうだが、そ
の財源はどこに求めるか。(二・五衆本、木
暮武太夫氏)[衆速七号七三頁]

[答] 出来るだけ奨励金を用ひず、又補償
金なくして、現在の価格の騰貴しないやう
努力するが、万已むを得ない場合には、生
活必需品については、奨励金その他の方法
で低物価を維持し、財源については、その
品々について色々なことを考へるが、若し
適当な財源のない場合は、公債によつて
もこれを奨励していく必要があると思ふ。
(二・一衆本、桜内大蔵大臣)[衆速七号七六頁]

  低物価政策と統制経済

[問] 政府の低物価政策と今日の統制経済
とは矛盾してゐるやうに思ふがどうか。
(二・五衆本、大口喜六氏)[衆速七号五二頁]

[答] 適正価格を出来るだけ早く制定し
今日の統制経済の行詰りを打開したいと思
ふ。それ
には第一
に物資の
増産を図
ると共に
配給の円滑を工夫しなくてはならぬ。値
段即ち適正価格を上げたり下げたりするこ
とも必要である。しかし適正価格といふも
のは、合理的に或ひは理論的に研究したら
長い歳月かゝる。かうしてできた適正価格
も時の状況によつて変化を来すからこの方
法は余り感心できない。そこで適正価格の
やうな問題は、実際に適するやうに当業者
の意見を採入れて政府が一日も早く実行す
ることが必要と思ふ。要するに、速かに適正
価格を決定し、一面に於て増産を図り、他
面なるべく低物価政策を行つて行く考へで
ある。(二・五衆本、藤原商工大臣)[衆速七号
五五頁]

  適正賃金問題

[問] 適正賃金を確立し労働者の生活を保
障する意思ありや。(二・九衆本、井上良次
氏)[衆速一八号三九〇頁]

[答] 今日まで初給賃金の定められてゐな
い分野に於ける初給賃金の適正な定め方竝
びに初給賃金以外の賃金の適正化を図る為
めの基準の決定については、賃金委員会そ
の他の機構を活用して、速かにその何等か
の決定をしたいと思つてその事務的準備、
資料の整備等に、全力を挙げてゐる。なほ
労働争議の最近に於ける趨勢は、幸ひ日本
国民の時局に対する覚悟認識からか、余り
争議が激増してゐないことは、国民奉仕の
念の現はれとして、非常に感激してゐるが、
さればと云つて、国民の生活が困難になつ
てよいと云ふことでは決してない。戦時体
制を確立する為めには、戦時生活の確立、
最低限度の生活の確保と云ふことは、何処
までも大切なことであるので、賃金政策か
ら工夫すると同時に、生活必需品の価格の
低下、それの確保については政府各方面全
体として種々工夫し出来得る限り速に実践
に入らねばならぬと考へてゐる。(同、吉田
厚生大臣)[衆速一八号三九二-二頁]

   戦時手当制

[問] 戦時手当制を規定する意思なきや。
(二・二九衆本、井上良次氏)[衆速一八号三九
〇頁]

[答] 今日の生活難を若干緩和する為めに、極めて少額の家族手当を支給することにした。勿論この家族手当だけで、労務者の戦時生活を確保し得るものであるとは考へてゐない。速かに適正賃金を定め、又出来得る限り実生活に必要欠くべからざる品物の価格の低下を図ることに全力を注ぐことと併せて、初めて家族手当もその意味をなすかと思ふのである。只今支給してゐる家族手当は、ほんの臨時応急の急場の必要に応ずる為めに、奮発したと云ふに過ぎない程度で、速かに労務者の生活確立のため、もつとしつかりした規定に直さねばならぬと思つてゐる。(同、吉田厚生大臣)[衆速一八号三九三頁]

  木炭の増産、配給の問題

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