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第一七七号(昭一五・三・六)
  支那事変の意義         陸軍省情報部
  時局と緑地計画          内 務 省
  支那事変貯蓄債券の使命
  蒋政権の経済力          陸軍省情報部
  欧州戦争の宣伝戦点描
  海軍と気象           海軍省海軍軍事普及部
  米国務次官の渡欧と和平問題    外務省情報部
  二千六百年史抄(五)       内閣情報部参与  菊池 寬

支那事変の意義  陸軍省情報部

  茲に日露戦争第三十五周年三月十日の陸軍記念日を迎へるにあたり、
 わが先輩の勇士、国民が、大国難を突破せる当時を偲ぶとともに、現に
 吾人の直面しつゝある大国難である支那事変について、更にその特質、
 意義を再認識し、これが突破に対する決意を固めんとする次第である。

一、 支那事変の特質

 支那事変の目的意義は、あらゆる角度から解釈せられなければならないのであるが、その根本なるものは第七十二回帝国議会開院式に賜はりたる勅語の聖旨であらねばならぬ。その勅語の中に於て、

 帝國ト中華民國トノ提攜協力ニ依リ東亞ノ安定ヲ確保
 シ以テ共榮ノ實ヲ擧クルハ是レ朕カ夙夜軫念措カサル
 所ナリ中華民國深く帝國ノ眞意ヲ解セズ濫ニ事ヲ構ヘ
 遂ニ今次ノ事變ヲ見ルニ至ル朕之憾トス今ヤ朕カ軍
 人ハ百艱ヲ排シテ其ノ忠勇ヲ致シツツアリ是レ一ニ中
 華民國ノ反省ヲ促シ速ニ東亞ノ平和ヲ確立セムトスル
 ニ外ナラズ

と仰せられてゐる。されは事変の目的は日支提携のための抗日政権の膺懲戦であるといふことが第一義であることは明らかなことである。
 そも/\アジアの諸民族は過去三世紀の間、ヨーロッパの政治的圧迫と経済的搾取とを共通に蒙つて来てゐる。若し今日までのやうに日支両民族が国民的感情を先鋭化し、事毎に反撥と抗争を繰返しゆくときは、徒らに欧米及びソ聯の策謀に乗ぜられ、その植民地として呻吟せざるを得ない。アジアの独立と解放の希望は全く失はれるに至るのである。善隣友好であるべき日支両国が、近世何故に仇敵の関係となつたかについては、彼我に於て深く反省すべき幾多のものがあらう。即ち支那は国際資本、国際共産党の力に依存する過去の性格を、日本もまた旧き秩序の中にあつて支那にのぞまんとする性格を、共に払拭して新らしき世界観による民族的結合を完成しなければならない。
 新らしき世界観とは各民族互ひに其の本然を尊重し各々その処を得、対立を超えた共存共栄彌栄の実を挙げんとするもので、先づこれを日、満、支の間に施して東亜に新らしき秩序を確立し、其の平和興隆を図ると共に、世界の平和と進運に寄与せんとするに在るのである。
 従つて事変処理に当り、列強に対する態度も此の理念に基づく反省の要求に外ならぬのであつて、敢へて東亜の天地より列強を排擠せんとするものではなく、却つて我に対する善意と理解ある積極的協力を驍望する次第である。
 わが帝国政府の対支処理方針なるものは、実にこの信念に立脚し現実に即して進められつゝあるものであつて、東亜の将来を思ふ大乗的考へ方以外の何物も含まないのである。頑迷なる抗日分子が今猶ほ迷夢醒めず皇軍に抵抗し、列強は帝国の此の崇高なる意図を解せず徒らに自己の抱懐する旧き性格に基づく理念を以て帝国を嫉視猜疑し抗日政権援助を継続しつゝあるところに、執拗なる抗戦が進められてゐる訳があるのである。従つて、帝国政府の声明を、聖戦の美名にかくれた一種の欺瞞の美辞、虚偽の麗句と、第三国人が称へることはまだしも、わが国民中にもかゝる考へに捉はれ、信念を欠くものがあるならば不幸これより大なるはない。
 さてこの対支武力戦なるものは幾多の特質を有することを知る必要がある。
 先づ地形的に東亜大陸の広大なことは、退避戦法、消耗戦法を採る敵をして残存の余地を得しめ、戦ひをして長期持久化せしめる。また対支作戦は単に支那を相手とする戦ひではない。援蒋諸国の力を借りる抗日勢力との戦ひであることは、今さら説明を要しないところである。かゝる複雑なる国際環境裡に於て、日清戦争直後に於ける三国干渉の轍を踏まないためには、今次事変の特質を確実に把握し、政戦両略共に、施策に周到なる用意を要する次第であつて、猪突的に猛進することをゆるさないものがあるのである。
 即ち支那大陸の武力戦が長期持久戦化し、今日の状態を現出することは自然の帰決であると見なければならない。しかも今次事変の将来に重大なる影響を及ぼすものに、現時欧州戦争の問題があるのであつて、これがため我が事変貫徹の方針に動揺変更あるべき筈はないが、変転極まりなき欧州の状勢にも深き関心を要する。蒋党軍が今後幾許の抗戦力を保有し得るやは予測し得ないが、敗戦に敗戦を重ね、ゲリラ戦やわが国内疲弊を唯一の頼みとして長期抗戦を呼号するとも、勝敗の決は既に定つてゐる。
 以上は単に武力戦の見地から特質を説明したのであるが、本事変は一面深刻なる思想戦、経済戦、外交戦、謀略戦が武力戦に併行、若しくはこれに交錯して行はれてゐるのであつて、今日の段階に於ては、後者が特に重要なる部面を占めつゝあることを認識せねばならない。
 即ち思想戦に於ては、帝国の俯仰天地に愧ぢざる堂々たる聖戦、新秩序建設の主張が、各種の形に於て支那側の抗戦陣営の反省動揺を促進し、北中支の既成政権、汪精衞一派の熱烈なる共鳴を得て全支に瀰漫しつゝあるに対し、抗戦徹底派は必死になつて抗戦陣営の崩壊を喰ひ止めんと努力すると共に、国共相剋の苦しい羽目に苦悩しつゝあるのである。即ち敵側陣地の内部及び後方に於て矛を逆にし帝国及び和平建国を主張する先覚の同志の傘下に加らんとする機運が熟しつゝあることは否定し得ない事実である。
 又経済戦に於ては支那側の対外援蒋ルートの大部を遮断せられ、財政、物資自給力、輸入力共に極度の困窮状態に陥りつゝも援蒋借款の獲得に狂奔すると共に、長期抗戦の虚勢を張つてゐるのである。殊にわが国内の一部言論機関の無責任な物資不足の報道を以て、帝国の戦時実質財政経済力の破綻愈々切迫せりと臆断し、これを内外に宣伝しつゝある。更に外交戦に於ては第三国の帝国に対する猜疑と支那に対する野心を利用し、抗戦能力、竝びに帝国の陰謀捏造、或ひは哀訴等のデマ宣伝、外交手段を尽し第三国の援蒋命脈の繋持、帝国と第三国との離間に浮身をやつしてゐる。
 謀略戦に於ては和平陣営派要人に対する狂暴なるテロを敢行し、その切崩しに必死になつてゐる。
 以上は武力戦以外の戦ひの卑近な極く一部を紹介したに過ぎぬが、これを以てしても支那事変は国民の事変貫徹に対する不動の信念と不退転の決意が如何に重要であるかといふこと、今次事変の複雑性を認識し得る筈である。
 かゝる情勢利に於て支那事変の終結を焦慮するが如きは、敵をして乗ぜしめ、かへつて事変の解決を遷延複雑化せしめるものである。

二、 長期建設戦の意義

 支那事変は容共抗日蒋政権の潰滅せられる日を以て一応終結するものといへる。而して日支をして再び今次事変の如き不幸なる事態を再起せしめざるためには、昭和十三年十二月二十二日近衛総理談の中にある、支那の独立を保全する一方、わが国との善隣友好、共同防衛、経済提携の実を挙げなければならない。即ち善隣友好の実を挙げんがためには日、満、支三国は各般に亙つて親密化を図らねばならぬ。吾等日本国民としては島国(たうごく)日本に非ざる大国日本国民としての胸襟と東亜の指導国家としての自覚をもつことが必要となる。次には東亜の防衛力を現実に強化し得るの態勢を完整しなければならない。この東亜防衛の任務は、わが帝国以外にこれを担当し遂行し得るものはない。これによつて北方及び西方より侵入せんとする赤化勢力を制し、南は西太平洋の制海権の把握に資しえられることとなる。次に日、満、支を中心とする経済結合によつて世界経済ブロック戦に耐へ、勝ち得る自給自足力を増強し得ることとなり、わが新東亜建設の聖業も確乎たる基礎を得られることとなる。
 これ等の諸原則の実效を収めるためには、今後わが国家国民の長期に亙る多大の努力を要することとなり、支那事変は一面長期持久戦、一面長期建設戦といふ相貌を呈し来つた。この建設戦によつて始めて東亜民族の念願とする新秩序は確立せられ、東亜の旧秩序、即ち西欧の政治、経済侵略勢力や共産勢力の魔手より脱却し、解放せられたる東亜の黎明を迎へ得ることとなり、東亜民族の繁栄を齎し得ることとなる。
 世には支那事変に於て数万の尊き犠牲を払ひ、百数十億の國帑を費し奉るにもかゝはらず、領土も欲せず、賠償金も取らざるこの戦ひを、文字通りの白紙論を以て判断し、多大の犠牲を無意義なりと叫ぶ者あるも、日満支の心からなる提携は一面に於てはわが国防力を強化し、わが国の世界政策の基礎を固め、わが皇道の宣布を基調とするこの支那事変処理の具顕をみるならば、尊き英霊も満足せられることと拝察する。
 成程、犠牲の代償として領土や賠償を取ることは、皮相な功利主義からいへば何等差支へなないともいへやうが、かくては敗戦の支那民衆はいよ/\抗日思想を深刻化し、聖戦の目的を没却するのみならず、いはゆる永久の対立抗争の運命を辿らなければならないことは火を見るよりも明らかなことである。殊に民族精神に目ざめたる現代支那は、昔日の支那ではないことを考へなければならない。日支の大禍を転じて福となすためには、瀟洒は謙譲の精神を必要とする。これによつて敗戦支那をして、わが帝国と共に共同の理想と光明ある将来に向つて相携へて進み得しむることとなる。現に満洲帝国民は今次事変に方つても、わが帝国の国策に誠心を披瀝して協力しつゝあるのであつて、これ一にわが八紘一宇の精神の実証でなくて何であらう。
 支那の独立主権を尊重する以上、将来支那の内外政治に向つてかりそめにも干渉がましきことは出来ないとの論がある。日支両国間は現実に交戦中であり、且つ更生の段階に在る現実の支那は今さら論ずるまでもなく、わが帝国の指導援助を一日として欠くことは出来ない。帝国の対支援助は、一に支那が新東亜の一翼として帝国の援助を無用とする完全なる状態に育成する趣旨に於て行はれねばならぬこと勿論である。

三、 新中央政権問題

 わが帝国の事変処理の真意に共鳴して立上つた汪精衞、蒋介石の抗戦建国に対し、和平建国を以て新支那を建設せんとする汪精衞を中心とする新中央政府も近く成立せられる気運にある。
 新中央政府の誕生は東亜民族の喜びであると共に、抗戦重慶政権の悲しみである。吾人はその発展に対し全幅の協力を示し、速かに戦禍に苦しむ民衆を救はなければならない。
 而して新政府の前途には幾多の難関が横はつてゐる。蒋介石の抗戦あり、第三国の妨害がある。従つて、たとへ近く新中央政府成立するとも、実質的には速急なる事態の変転は望むべきではない。
 世には新政権を無力なりとし、事変の将来に兎角の論議をなす者もあるが、帝国が新政権を絶対に支持すると共に新政権をして思ふ存分その手腕を発揮せしめるならば、やがて頑迷な蒋政権に反省を与ふるに到ることをきたいするものである。

 結語

 支那事変の完遂に、果してわが国力が耐へ得るや否や、と論議するものがあるが、これは一にわが国民の決意の如何によつて決するといへる。
 わが帝国は支那事変のため既に多大の国力を費した。然るに一面生産力の拡充は年一年に増強せられ、事変前の二、三倍に達しつゝあるのを見る時、如何に今日のわが経済力が偉大になりつゝあるかに驚かざるを得ない。日支戦争三年に垂(なんな)んとするに、わが国土は未だ嘗て戦禍を蒙らず、且つ生活必需品の大部に恵まれてゐるため、銃後国民の中には戦時日本を忘れ、第三国人の如き言動を弄し、かへつて利敵行為をなしつゝあるものがある位である。
 われ/\が確乎として戦ひ抜きつゝある力の原因は何か。正にこれ勅語に宣示し給へる今次聖戦の真義に徹した聖業翼賛のため生命を奉還して第一線に活躍する将兵や家族のあることに考へ及ぶ時、誰か感激しないものがあらうか。
 これを要するに、支那事変は当代日本国民に与へられた建国の皇謨顕現のための光栄ある「行」である。われ等は一億一心大御心に帰一し、潔斎して「行」に精進する心得を以てこれに当つたならば、如何なる困難も突破し得、偉大なる光明を与へられ、しかもこれを東亜延いては全世界の民族にも恵沢せしめ得ることを知らねばならぬ。

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