第一四三号(昭一四・七・一二)
  天津英租界問題の経緯       陸軍省情報部
  司法保護事業の指導統制       司 法 省
  外蒙ソ連の膺懲戦         陸軍省情報部
  満州移民と分村分郷計画      拓 務 省
  体力章検定の話          厚 生 省
  汕頭を語る            外務省情報部
  忠霊顕彰について
  支那事変二周年を迎へて      平沼内閣総理大臣談
  公私生活を刷新し戦時態勢化するの基本方策
  最近公布の法令          内閣官房総務課

支那事変二周年を迎へて
                 昭和十四年七月七日
                 平沼内閣総理大臣談

 支那事変は本日を以つて二周年を迎へる
こととなりました。
 顧みるに一昨年の本月本日、蘆溝橋に於
ける事端の突発以来、皇軍の収め得たる偉大
なる戦果は、世界歴史上未だ曾て見ざる所
でありまして、今や近代支那文化の中心た
る広大なる地域は、既に概ね我が方の占拠
に帰し、抗日防共の蒋政権は、事実に於い
て一地方政権に堕すると共に、之に代つて、
各地には親日政権の成立発展を見るに至り
ました。是れ偏へに 天皇陛下の大御稜威の
下、忠勇なる皇軍将兵の奮闘と、熱烈なる
軍後国民の努力との然らしめたる所であり
ますが、殊に護国の英霊となられた多数の
戦没者及び負傷者に対する感謝の念は、
到底言辞を以つて尽し得ない所でありま
す。
 申す迄もなく、日満支三国相携へ、互助
連環の関係を確立することは、東亜永遠の
平和を確保すべき新秩序の基礎であり、同
時に世界の平和と文化とに貢献する所以で
あります。是れ至に我が国不動の国策であ
り、且つ又国民不抜の信念でありまして、
支那事変処理の究極の目的も、亦此に在る
のであります。我が国の支那及び列国に対
して冀求する所は、速かに偏見を去り猜疑
を除き、虚心坦懐、真に我が国の意図する
所を理解し、現実に即したる東亜の新秩序
建設に協力し、以つて世界人類の福祉に寄
与する一事であります。
 今や支那に於ける具眼の士は、漸次東
洋人としての自覚に奮起し、更生支那を率
ゐて東亜保全の共同使命の達成に邁進しつ
つあります。北京、南京その他各地に樹立
せられたる新政権と新勢力とは、幾多の困
難なる障碍を排除して着々その基礎を固
め、やがて中央政権の生誕が期待される
情勢にあります。而して各政権治下に於
ける産業、経済等も亦復興の気運に溢れ、
新支那に相応しき態勢を整へつゝあるの
であります。我が国としましては、此の復
興支那に向つて加へらるゝ外力の干渉妨害
に対しては、敢然として之を排除すると共
に、その健全なる発達に対し、全幅の支援と
協力とを惜しまないものであります。然る
に彼の蒋政権は、今日に至るも尚ほ抗日容
共の迷夢より醒めず、依然として自己の実
力を過信し、第三国の援助を恃み、長期抗
戦を呼号して、執拗なる策動を続けて居り
ますが、我が国としては、蒋政権がその頑
守しつゝある政策の非を覚り、抗日容共の
態度を改めざる限り、飽くまでも之が潰
滅に邁進するの一途あるのみであります。
 翻つて世界の大勢を見ますれば、不安
と焦躁のとは到る所に漲り、列国競つて軍備
の拡充に奔走しつゝあるのであります。此
の間に処し、我が国としても国防の安全と、
東亜の歴史とを保持する為め、万全の施策
を講じなければなりませぬ。固より我が国
は、真に我が国の立場を理解し、好意と友情
とを以つて臨み来るものに対しては、進ん
で之と積極的なる提携協力を希望するも
のでありまして、特に防共協定の強化に
対しては、重大なる関心を置くものであ
ります。之と同時に東亜の新事態に対する
明確なる認識を欠き、歴史の必然性に眼を蔽
ひ、徒に蒋政権援護に没頭して、直接又は
間接、東亜新秩序の建設を妨害するものあ
るときは、自主独往の断乎たる決意を以つ
て、邁切有効なる自衛手段を講ずること申
す迄もありませぬ。我々は列国が、正義に
立脚する真の世界平和を確保する為めには、
東亜新秩序の建設の欠くべからざる所以
を、早晩理解するに至るべきことを、固く信
ずるものであります。
 斯く観じ来れば、現在我が国民の双肩に
繋る責務は極めて重大なりと申さなければ
なりませぬ。是こそ正に現代日本人の上に
課せられたる一大試練であります。我々は
此の責務を遂行し、此の試練を克服する為
めに、更に一層の決意と、実力培養の急務
とを忘れてはなりませぬ。即ち国民精神を
作興し、国内諸般の改革を断行し、軍備の
充実生産力の拡充、貿易の振興、国家
総動員態勢の完備等、物心両面に亙り、愈々
国力の飛躍的増進と、その綜合的運用の完
璧とを期せねばなりませぬ。斯くてこそ始
めて現下の複雑微妙なる国際情勢に対処
し、東亜新秩序の聖業を完遂し、事変の目
的を達成し、頼つて以つて国家長久の進運
と東亜永遠の平和との実現を期し得る次第
であります。
 惟ふに此の事たる、洵に曠古の大業であ
ります。徒つて其の前途は遼遠であり、内
外幾多の障碍あることを覚悟しなければ
なりませぬが、東亜に於ける新秩序の建設
こそは、我が肇國の皇謨に淵源し、道義日
本の本領発揮と、世界平和の確立との上
から、避くべからざる使命であることを銘
記し、敢然として此の難局を突破せねばな
りませぬ。
 私は支那事変二周年に当り、国民各位と
共に、事変の経過と将来の推移とを深察し、
愈々一億一心、堅忍不抜、所期の目的貫徹
に邁進し、以つて天壌無窮の皇運を扶翼
し挙らんことを期する次第であります。