第一一九号(昭一四・一・二五)
  昭和十四年度予算の概要      大 蔵 省
  宗教団体法案について       文 部 省
  写真週報一月二十五日号目次
  満・洪両国の防共協定参加     外務省情報部
  第七十四回帝国議会に於ける国務大臣
  施政演説
   平沼内閣総理大臣演説
   有田外務大臣演説
   石渡大蔵大臣演説
   板垣陸軍大臣演説
   米内海軍大臣演説
  官庁絹纂図書だより・文部省推薦図書紹介
  「週報の友」第五号発行

第七十四回帝国議会に於ける国務大臣の演説  昭和十四年一月二十一日

 事變下再度の新年を迎へ、時局愈々重大の秋、不肖揣ら
ずも 大命を拜し内閣首班の重責に膺(あた)ることになりました。
顧みて微力菲才(ひさい)、寔(まこと)に恐懼に堪へませぬ、今や東亞新秩序
建設の新段階に處すべき此の第七十四囘帝國議會に於きま
して、諸君と共に聖壽の萬歳と皇室の御隆昌とを壽ぎ奉
り、茲に政府の所信を披瀝して、國家の大業を翼贊するの機
會を得ましたことは、私の最も光榮とする所であります
 天皇陛下に於かせられましては、事變下格別御多端なる御
政務、御軍務に連日連夜御勵精遊ばされ、又今期議會開院式
に當りましては、特に優渥なる勅語を賜り、時局に對する
深き御軫念の程を拜しまして、洵に恐懼感激に堪へぬ次第で
あります。私は諸君と共に謹んで聖旨を奉體し、誓つて報效
の誠を竭し、宸襟を安んじ奉りたいと存ずるのであります。
 事變勃發以來一年有半に亙り支那の各地に轉戰し幾多の
勞苦艱難を克服し、輝く連捷を収めたる皇軍出征將兵に對し
ましては、深き感謝を致すと共に、異境の土に骨を埋めら
れましたる英靈に對しましては、衷心より哀悼の意を表し、其の
遺志を成し遂げたいと存ずる次第であります。
 畏くも 天皇陛下には昨年十月三日軍人援護に關する優
渥なる勅語を下し給ひ、且つ巨額の御内帑金を下賜あらせ
られたのであります、皇恩の廣大洵(まこと)に恐懼感激に堪へぬ次
第であります
政府は 聖旨を奉體し、恩賜財團軍人援護會を
創立せしめ、政府の施設と相俟つて軍人援護事業の完璧を
圖り、出征將兵をして後顧の憂なからしめんことを期して
居る次第であります。
 現下我國朝野を擧げて對處しつつありまする支那事變に
對しましては、曩に畏くも聖 斷を仰ぎ奉り、確固不動の方
針が定められて居りまして、之に基いて必要なる諸般の
施策が進められて居るのであります。現内閣に於きまして
も、固より此の根本方針に基きまして、飽くまで所期の目的
達成に邁進致す所存であります。申すまでもなく日滿支三
國が相互に十分なる理解の上に立つて、相提携して政治
に、經濟に、將た又た文化に、互助連環友好善隣の實を擧
げ、之を以て東亞興隆の基(もとゐ)と爲すことは我國肇國の精神
を顯現する道であり、不動の國是でありまして、茲に東亞
永遠の平和は確立すべきであり、又以て世界の進運に貢獻
する所以でもあるのであります。
 東亞安定の責に任ずべき日本、滿洲、支那の三國は須く
速にこの公正なる目標に向つて協同し、舊套(きうたう)を脱して新
しき秩序に趨くのでなければ、永遠の安定は遂に望むべ
くも無きこと、自明の理であります。畏くも明治天皇は
「舊來の陋習を破り天地の公道に基くへし」と仰せられま
した。私はこれこそ我が邦の政治の基礎でなければならぬ
と信ずるのであります。此の大精神は遠く神代より皇祖
皇宗の御遺訓となつて居りまして、御歴代は之を奉じて國
家を統治されたのであります。惟ふに天地の皇道は、即ち
萬物をして其の所を得しめることに歸着するのでありまし
て、政治の要諦茲にあらねばならぬと考へる次第でありま
す。此の御精神の及ぶ所は、國内政治たると國際關係た
るとは問はないのでありまして、東亞の新秩序建設も亦此
の根本精神を基礎とし其の上に工作が進められねばならぬ
と信ずる次第であります。
 支那側に於きましても、よく此の帝國の大精神を諒解し、
些かの疑惧も、何等の誤解も持つことなく、速に之に協
力するのでなければ、東亞の新秩序建設は成らぬのであり
ます、若し今日以後に於ても飽く迄之を理解することな
く、抗日を繼續する者に對しては、 斷乎として之を潰滅す
る事あるのみであります。
 併し乍ら、支那に於ける具眼の士にして、克く帝國の國策
に協力し、更生新支那建設の礎石とならんと欲する者
に對しては、帝國は快く之を援けて支那民衆を塗炭の苦よ
り救ひ、舊き偏見と拘泥とより脱せしめて、東亞新秩序建設
の歴史的事業に迎へ容るべきであります。今や支那には豫
て臨時政府、維新政府、蒙彊政府の當局者が實踐致しまし
たる大道に目醒むる者相踵ぎ、更生建設に向はんとする氣
運が漸く支那全土に漲りつつありますことは、寔に東亞の
安定の爲に喜ぶべきことであり正義に立脚する帝國國是遂
行の成果であると存ずる次第であります。
 今日の如く共産主義が支那大陸に瀰漫(びまん)し遂に其の政權を
も支配せんとするものあるに對しましては、眞實の道を實
行する上に何としても之を拂除せねばならぬのでありま
す。之が爲には第三國の理解の増進を圖ると共に理解あ
る第三國と提携協調して行かねばならぬのであります。盟
邦獨伊兩國が今次事變の當初より一貫して我國に全幅の
支持を與へ來りましたることは既に諸君御承知の通りであ
りまして、之に對しましては深く感謝致しますと共に、帝
國と防共協定に依り結ばるる此等兩國との關係が日を逐う
て緊密を加へつつありますることは寔に御同慶に堪へぬ次第
であります。又滿洲國の著しき發展は、興亞の爲め寔に頼
もしきことでありまして、日滿不可分の諸方策は、當に益々
強化せらるべきであると信ずるのであります。而して
他の第三國との關係に付きましても、帝國は徒に之を經
濟的に或ひは文化的に排除するが如きことを考へてゐるの
ではなく、彼等が帝國の眞意を理解し東亞の新秩序建設に
協力して參りますることを望んで已まぬのであります。
 是の秋に当りまして事變處理の根本方針に則り、前内閣
が發しましたる帝國政府聲明は、支那が新秩序建設の分擔
者としての職能を實行するに必要なる保障を明にした
ものでありまして、是に依りて支那民衆を覺醒せしめ、又
列國を啓發すべき今日の情勢に最も適應した指針であると
政府は確信するものであります。勇敢なる皇軍將兵の活動
と内外地を通じて熱誠なる銃後國民の後援とによりまし
て、武力的勝利は既に遺憾なく我に収め、抗日容共の迷夢
に狂奔する國民政府は僻陬(へきすう)に遁走して一地方政權に顛落致
しました。併し乍ら今次事變の終局の目的は單なる武力的
勝利に在るのではなく、支那の更生と之に伴ふ日滿、支、
三國の互助提携の上に新しき東亞の秩序體制が確立され
ることに在るのであります。而して今日既に興亞院も設置
され、對支業務の圓滑適正なる進捗を期待し得る様になり
ました。
 固より時局の前途は、愈々多難でありますことは察するに
難くないのでありますが、之を克服致しまして、光明ある
前途を拓きます爲には畢竟過去に於て吾々の祖先が凡ゆ
る國難を克服して參りましたる如く我等國民全體が親和
協同して、皇を輔翼し奉る萬民輔翼の精神を以て一切の努
力を之に傾倒すべきでありますることは申すまでもないので
あります。即ち國家の總ての力を目的貫徹の一途に集中す
ることであります、是は國民の決意一つで為し遂げ得らる
るものと確信致します。而して所期の目的が達成せられざ
る限り、事變は終結せぬのであります
 萬民輔翼は、大御心を奉體して之を徹底することに努力
を致すことでありまして、政治に關與する者たると否とを
問はず、又農、工、商等孰れの事業たるを問はず、一切の
事業に携はる者皆其の責に任じ、萬物をして其の處を得し
めると云ふ御仁愛の精神を全うすることであらねばならぬ
のであります。隨つて總ての國民は其の従事する業務の如
何を問はず、其の精神に於ては國家に奉ずるを念とし、以
て皇謨を輔翼せねばならぬと信ずるのであります。即ち今
議會開院式に當り賜りました勅語の御精神を奉體致しま
して、我々が祖先より承け繼ぎました傳統的な國民精神の
昂揚と國家總力の發揮との上に、東亞新秩序を建設する此
の大事業の完成を圖らねばなりませぬ。
 之が爲には今次事變、更に續いては今後の國際情勢に
對處する爲、先ず以て國民精神の昂揚を期すると共に、
教育の刷新を圖ることが最も緊要でありまして、此の教育
の方針竝に國民精神昂揚の運動は皆萬民輔翼の精神を基
礎として、實踐を尚び實行するといふことを第一義に
考ふる次第であります。
 更に國家總力就中國防力の急速なる擴充、即ち強力なる
軍備及び日滿支を通ずる經濟力の充實發展を速に具現す
ることが我が國當面の最も重要なる目標であります。即ち
此の軍備充實及び經濟建設に對應せんが爲には、時局の眞
義に徹し、舉國一致異常の決意を以て生産力の擴充、貿易の
振興、資金物資及び勞務の調整、物價の規整等に付、何
れも今後一層の研究と努力とを重ね以て是が遂行に邁進せ
ねばならぬと考ふるのであります、殊に生産力擴充に就き
ましては、所要の目標に達せしむべき綜合的擴充計畫を樹
立し、萬難を排し今後之が實現を期する心算であります。
 又東亞の新情勢に即應し、運輸、交通、通信の全般に亘
り之が擴充強化を圖ることも喫緊の要務なりと認め、之が
施策を進めて居る次第であります。
 今日迄の諸種の經濟統制の如きは、綜合國力を最も高度
に發揮致します爲めに、必要なる限度に於て、今後も引續き
之を行ふことを要することは勿論であります、但し今日迄
は戰鬪行爲の遂行と云ふ當面の急需に應ずる經濟方策が多
かつたのでありますが、今後は之に加ふるに恒久的にして
建設的なる各般の方策をも併せ遂行することが重要である
と考ふる次第であります。
 即ち以上の見地に立ち今後は更に國家總動員態勢を強
化し、國家總動員法中所要の條項は逐次之を發動すると共
に、國内諸般の改新を圖り、以て萬民輔翼の精神に基づ
き、國家の總力を國策の嚮ふ所に集中發揮致しますること
が緊要であると信ずる次第であります、又一面に於て其の
影響を受くべき商工業者の休業失業に對する措置、健全な
る農山漁村の維持振興其の他銃後國民生活の安定施設等に
も深甚の考慮を拂ふ所存であります。而して是が爲には
官民協力徒に因襲に囚はるることなく、積極的に時局に
適應した施策を行ふことが肝要でありまして、諸般の政策
遂行に當り此の上とも朝野協力の成果に期待すべきもの極
めて多きを感ずる次第であります。
 以上の如き考慮を持ちまして政府は各般の施策を遂行致
し度く、茲に豫算案及び各般の法律案を提出する次第であ
ります。組閣以來日尚ほ淺く、政府は前内閣に於て作成致
しましたる豫算案法律案を基礎として研鑽を重ねた次第であ
りますが、現下の情勢に顧み適切と認めまして是を提出致
した譯でありまして、諸君と共に光榮ある國家の大業を翼
贊し奉らんとするものであります。幸に時局の須要に顧み
られまして、政府の意の存する所を諒とせられ、速に諸
案に對して協贊を與へられんことを切望する次第でありま