第一一六号(昭一四・一・四)
  時局下に於ける皇室の御近状     宮 内 省
  事変第三年を迎ふ          内閣情報部
  時局の前途と陸軍の使命       陸軍省情報部
  大陸建設と海軍力         海軍省海軍軍事普及部
  列国と観光国策          国際観光局
  国際政局・回顧と展望(上)     外務省情報部



 
時局下に於ける皇室の御近状                 宮内省

 昭和十四年の新春を迎へるに当りまして、謹んで皇室の御近状を申上げ、且つ時局下に於ける数々の御仁慈について申述べたいと思ひます。
 天皇陛下に於かせられましては、本年宝算三十九を数へさせられ、玉体いやが上にも御健勝に渡らせられますことは恐悦此の上もなき次第に存じ奉ります。
 陛下に於かせられましては、時局以来国務・軍務殊の外御多瑞の中にも特に祭祀を重んじさせられ、宮中に於ける大祭・小祭は極めて御厳格に御親祭・御親拝遊ばされ、尚ほ毎月一日、十一日、二十一日の旬祭には寒暑を問はず早朝御親拝あらせられまして、我が国建国の理想たる神ながらの道に随つて、祭政一致の実を顕現あらせられ、以て国家の安寧と国民の幸福とを祈らせ給ふのであります。
 殊に支那事変の勃発以来宵衣_食の御精励は申すも畏き次第でありまして、早朝より深更に至るまで御政務・御軍務を御親裁、時局愈々御多端なるに及んでは、大本営に於て屡々会議を開かせ給ひ軍機巨細となく御統帥、日曜休日と雖も、連日連夜御軍装を脱がせ給ふ遑だに無き御有様は側近者の斉しく恐懼し奉るところであります。
 かゝる中にも国防の第一線に立つて、厳寒酷暑と戦ひつゝも硝煙弾雨の間に馳駆する将兵の上を深くも思召されて、屡々侍従武官を御差遣の上、御慰問あらせられ、銃後に在る国民に対しても常に御仁慈を垂れさせられ蒼生をして其の堵に安んぜしむるの大御心こそ畏き極みであります。又事変に際して不幸にも尊き犠牲となれる幾多の英霊はこれを靖国神社に合祀仰出され、其の勲功は永遠にこれを宮中の御府に留め給ふのであります。
 且つこれ等陣歿将兵に対しては優渥なる思召を以て、 天皇皇后両陛下より個々に祭粢料を御下賜あらせられたるのみならず、特に昨年十月三日には近衛内閣総理大臣を御前に召され、軍人一般の援護竝びに其の遺族・家族救護のため畏くも軍人援護に関する勅語を賜はり、且つ御内帑金参百万円を下賜あらせられましたことは洵に恐懼感激の至りに堪へない次第であります。
 皇后陛下には曩に御吉兆を拝して以来、至極御順調に渡らせられ、ひたすら御静養中にあらせらるゝも常に 天皇陛下の大御心に副ひ奉るべく月夜黽勉、御婦徳の範を垂示し給ふは勿論、皇太子殿下を始め奉り親王・内親王殿下の御哺育・御教養の上にも一段と御心を注がせられ給ふのであります。
 今次事変に際しましては、畏くも女官等を励まし御手づから繃帯をお巻き遊ばされて、屡々これを陸海軍大臣に賜はり戦傷の将兵を御労はりあらせられ、また内廷の御日常繁きが中にもこれ等戦傷病者を憐ませ給ひ、親しく陸海軍病院へ行啓仰出され、御仁慈溢るゝ御慰問を賜はつたのであります。其の後陛下には更に全国の陸海軍病院に入院の将兵を御慰問あらせらるゝの思召を以て、内地は申すに及ばず遠く朝鮮・台湾・関東州にまで各宮妃殿下を御差遣の上、具さにその状況を視察御聴取せしめられ、これを御復命せしめられたのでありまして、御差遣の箇所実に百八十七ケ所の多きに及んだのであります。かゝる思召は全く空前のことに属し、幾多傷つけるこれ等の勇士は白衣の衣袂(いべい)を濡らし、己が身の不自由をも忘れて感激に咽んだのであります。
 皇太后陛下に於かせられましては、大宮御所に御起居遊ばされ、御機嫌益々麗はしくあらせられ、各種の社会事業に御心を注がせられて居りますが、事変発生以来は一層御心を労せられ、戦場にある皇軍将兵に対し軍を犒ふの思召を以て、曩に御心こもれる賜物の御沙汰あらせられましたが、殊に傷痍軍人に対しては一入御同情遊ばされ、在院の傷病兵に御慰問の思召を以て有難き御菓子を御下賜あらせられたのであります。此の御意匠その他については畏くも御手づから御こまごまと御指図遊ばされ、御優しき御心遣ひあらせられし由漏れ承るだに畏き極みであります。
 皇太子殿下に東宮仮御所に御住居遊ばされ本年御七歳の春を迎へさせられ、時に幼稚園の園児たちを御相手に御運動遊ばされ、毎日曜日には宮中に御参内の上、親しく両陛下の御膝下に於て御団欒のひとときを過ごさせられ、くさ/"\の御物語などあらせられるのでありまして、一系無窮の皇統を御継承あらせ給ふ日嗣の皇子の日毎に御成育の御有様を拝し奉ることは国民として此上なき慶びでありまして、揚々昇る朝日の如く、気高くもまた有難く感ずるのであります。
 また義宮殿下には大奥に於て陛下の御側近く御愛育を受けさせられ、目下は葉山御用邸に御起居あらせられます。
 照宮殿下・孝宮殿下・順宮下には御所内にある呉竹寮に御住居遊ばされ、御三方とも女子学習院に御在学、御心身ともに御健やかに渡らせられ、御勉学御運動につとめさせられて居ります。
 かく 両陛下を始め奉り、皇太后陛下、皇太子殿下、義宮殿下、各内親王殿下御共々御健勝に渡らせられ、竹の園生のいや栄えに栄えて瑞雲大内山を罩(こ)め千代を寿ぐ大御代こそは戦捷の新年に一入の感激を与へ、我等国民をして随喜措く能はざらしむるものがあるのであります。
 茲に昭和己卯の新年を迎ふるに当つて、謹んで聖寿の無疆を祝し奉り国運の隆昌を祈るとともに克く時局を認識し、奉公一体誓つて聖旨に副ひ奉るの覚悟が無ければならないのであります。