第七二号(昭一三・三・二)
  支那事変と満州国        対満事務局
  社会事業法案に就いて      厚 生 省
  列国海軍の情勢        海軍省海軍軍事普及部
   (付)戦況 奥都重慶を撃つ
  京漢戦線黄河畔に達す      陸軍省新聞班
  国策と鉄道運賃政策       鉄 道 省
  パナマ運河の話         外務省情報部

 

支那事変と満洲国   ― 満洲建国六周年記念日に際し ― 

                              対 満 事 務 局


 我が友邦満洲国は三月一日を以て建国六周年を迎へた。同国が建国以来官民協力一致して内政の伸張と国力の充実に努め以て短期間に驚異的な飛躍発展を遂げ著々として王道楽土の建設、五族協和の理想実現に邁進し日満一徳一心、共存共栄の実を挙げつゝあることは寔に慶賀に堪へないところである。此の機会に於て満洲国最近の状勢と同国が支那事変に際し我が国に協力して東亜永遠の平和建設に努力して居る実情を略述することとしたい。

   一、 満洲国最近の状勢

 満洲国は建国以来めざましき発展を遂げつゝあるが、特に昨年に於ては幾多重大なる革新を断行し国家発展史上に一新紀元を劃したるものといふべきである。即ち日満経済一体の原則の下に生産力の拡充を期する産業五年計画の樹立著手、合理的国防経済及び産業五年計画に順応する為の行政機構の改革、満洲国に於ける日満両国民の融合を図り五族協和の理想実現を期する為の治外法権撤廃及び満鉄附属他行政権の移譲、重工業の綜合的経営を目的とする満洲重工業開発株式会社の設立等これである。
 治外法権撤廃及び満鉄附属地行政権の移譲は諸般の接収も円滑に実施せられて本年は行政、司法各般の制度及び施設について一段の向上、整備が期待せらるゝ次第であつて又我が国に於て保留したる在満日本人の神社、教育及び兵事に関する行政は在満日本人に何等の不安を与へないやう夫々我が機関に於て満洲国の協力援助の下に著々賓施せられてゐる。
 産業五年計画は第一年度の実績概ね所期の成果を収め得たのであるが、支那事変の勃発、国際情勢の変化竝びに満洲重工業開発株式会社の設立等に応ずる為所要の修正を加へ本年は愈々本格的産業開発工作を進めんとしてゐる状況であつて、かくして日満不可分関係は愈々強化を期待されてゐる。
 なほ最近に於ける満洲国の国際的地位の向上は頗る刮目に値するものがある。即ち先年のサルヴァドル国の正式承認に続いて羅馬法王庁より特使の派遣あり、又ドミニカ共和国大統領よりも満洲国との友好関係鞏固を熱望する旨の親書を寄せて来たが、昨年末に至って伊太利国の正式承認、西班牙のフランコ政権との相互承認等が相次いで実現した。なほ独逸国との関係に於ても経済的親善閑係愈々増進せられ、昨年五月満独貿易協足の三年間延長及び満洲国中央銀行と独逸オットー・ヴォルフの両代表者団に第一回クレジット協定成立する等のことあり、終に去る二月二十日ヒットラー総統は独逸国会に於ける演説に於て満洲国を承認する旨宣言するに至つた。かくの如く満洲国がその国際的地位の向上確立と共に建国の理想を中外に発揚しゆくことは盟邦たる我が国として真に心強く感ずる次第である。


  二、支那事変と日満不可分関係

(1) 政治、軍事関係

 支那事変勃発以来満洲国に於ては日満議定書の精神に則り官民一致して我が国を支持してゐる。即ち満洲国国務総理大臣は事変勃発直後の七月二十日同国民衆に対し諭告を発し日満共同防衛の大義に基づき官民相結束し一糸乱れず全面的に日本を支援すべき旨を諭し、同日治安部大臣は布告を発して今次事変毅に際し満洲国人がその言動を慎むべきことを諭し官民相協力して国内の治安を乱すが如き謀略の防遏及び事態の閘明に努めた。
 更に七月二十八日満洲国皇帝陛下には 天皇陛下に対し奉り北支事変に関し深く時局を御珍念遊ばさせらるゝに付いての御見舞と共に皇帝陛下に於かせられてはこの非常時に際し全人民を卒ゐて日本と完全に協力し以て日満両国一体不可分の精神を益々発揮せんことを期すべき旨の御親電を発せられ、これに対し畏くも 天皇陛下に於かせられては御鄭重なる御返電ありし由に承る。次いで九月十八日満洲事変第六周年記念日に際しては満洲国皇帝陛下には「爾三千万民衆ハ宜シク盟邦膺懲ノ大義ヲ体シ以テ一徳一心ノ真義ヲ発揚シ其ノ全力ヲ挙ケ以テ共同防衛ノ精神ヲ貫徹スヘシ」との御趣旨の詔書を渙発せられた。
 又我が政府が国民政府を対手とせざる旨の対支重大声明を行ふや満洲国政府に於ても本年一月十六
日声明を発し、同国が我が政府と所信を同じくし特に蒙疆、北支等諸政権の発展興隆に協力し更に進んで新興支那政府の建設を支援し、真に日満支三国共栄提携、東亜復興の大業に邁進せんことを切望
する旨同国の態度を更に明確にしてゐる。
 かくの如くして満洲国は数次の機会に其の態度を明らかにしてこれを実行に表はし、或は日満共同
防衛の見地に於て同国軍の一部を熱河省境を越えて出動せしめ察南治安工作に任じ、或は昨年七月よ
り八月に亙り全満防空演習を実施する等あらゆる努力を惜まず我が国策に全幅の支持を寄せてゐる次
第である。

(2) 経済関係

 日満両国の経済的関係は逐年緊密の度を深めてゐる。殊に近年国際情勢緊迫の結果は両国経済の合理的融合が一層切実なる問題となり来つたのであるが、支那事変勃発に伴ひ我が国経済の戦時体制への急速度移行と共に日満経済一体化は茲に愈々最高度に発揚されなければならぬ情勢となつたのである。
 我が国に於ては事変対処の為物資の需要が急速度に増加し就中多額の軍需品工業原料を海外より輸入せねばならなくなつた。然しながら国際収支の情勢に鑑みれば貿易統制、為替管理等あらゆる手段を尽して極力不要不急品等の輸入抑制に努むると共に全力を挙げて生産力の拡充を図らねばならぬ。幸にして日満両国の経済関係は我が国の資本技術を満洲国に供給して同国の資源を開発し、その重要原料資源を我が国に輸入する関係にあるを以てこの際此の緊密関係を一層拡充して満洲国の原料資源の開発輸入を図り以て我が国不足資源の補填に資すべきであらう。この情勢に鑑み満洲国に於ては満
洲重工業重工業開発株式会社の設立となり、産業五年計画に所要の積極的修正を加へ生産力拡充を更に極度に増進せんとし就中鉄、石炭、液体燃料、金、パルプ等の如き重要資源の開発には全能力を動員して以て我が国策に寄与せんとしてゐる。
 満洲国建国以来同国の経済建設の為には我が国はあらゆる支持支援を続けて来たものであり従つて今次事変に際会して微動だもしない同国経済の安定は、我が国に負ふところ大なるものがあると共に、又同国経済が我が国に寄与して居ることの一端は叙上の通りである。かくして日満経済一体化の具現により我が国鹿済は安固を期し得べく我が国は事変解決最終目的達成の為長期抗戦に悠々対処し得るものである。かくの如く不可分関係にあるが故に、満洲国は今次事変に際しても我が国主体となりこれに対処してゐる次第であつて、既に述べたものの外我が国が事変対処のため採り来つた政策に相呼応して諸種の措置を講じ以て非常時局を克服せんとして居り、その具体的事項の主なるものを掲ぐれば次の通りである。
(イ) 「暴利取締ニ関スル件」……八月三日公布
 我が国の暴利取締令に相応するものである。
(ロ) 「支那事変ノ為国軍又ハ日本国軍ニ従軍シタルモノニ対スル租税ノ減免等ニ関スル件」……十月二日公布
 我が国の「支那事変ノ為従軍シタル軍人軍属ニ対スル租税ノ減免徴収猶予ニ関スル法律」に相応するものである。
(ハ) 「為替管理法中改正ノ件」……十月八日公布
 為替管理を我が国と同程度に強化する為従前の法令を改正したものである。
(ニ) 「満洲国貿易統制法」……十二月九日公布
 和が国の「貿易及関係産業ノ調整ニ関スル法律」「輸出入品等ノ臨時措置ニ関スル法律」に相応するものである。


  三、支那事変と民心の動向及び治安状況

 支那事変勃発生以来の満洲国一般民心の動向は官憲竝びに協和会等の指導宜しきを得たる為よく事変の真相を理解し居るものの如く、極めて平穏にして今更ながら支那各地に出動した皇軍の迅速果敢なる行動に驚嘆してゐる。又積極的に献金等をなすものも尠くない有様である。全満各地に於ては市民大会又は省民大会等を催し多数満人会合して皇軍支持の気勢を挙げて居る。又八月二十三日には新京に於て満洲国人民大会を開催して皇軍感謝文を議決したことやその他各地に於ける戦捷祝賀人民大会の開催等は人民の皇軍支持熱が愈々旺(さかん)となつたことを物語るものであらう。
 なは満洲国当局に於ても十月十三日より十九日迄国民精神総動員週間として我が国に相呼応し全満一斉に精神作興運動、銃後の後援の強化持続及び非常時経済政策への協力を図る等事変に対する心構への程が察知し得られる。
 たゞ事変勃発初期に於ては支那方面より不逞分子の満洲国内潜入竝びに支那及びソ聯邦方面よりの思想謀略により人心攪乱を計つた形跡があり、満人下層社会に流言蜚語が行はれたり或は匪賊の活動が幾分旺となつたり又は鉄道破壊等のテロ行為が若干発生したこともあつたが、日満官憲の努力に依り事態の真相閘明せらるゝに伴ひ漸次常態に復し爾後治安状態は漸次良好に向つてゐる。現在の匪賊は大約一万と判断せらるゝも治安工作の進展に伴ひ匪勢漸次衰へつゝあるは喜ばしき次第である。
 なほ満ソ国境は乾岔子島事件一段落を告げた後は、皇軍竝びに満洲国軍の厳然たる存在に依り何等の隙も与へてゐない。
 これを要するに満洲国は今次事変に際会して何等の不安動揺を来すことなく挙つて我が国を支持支援し本事変を契機として政治的に、経済的に日満一体関係を一層強化促進するの機運に向ひつゝあることは誠に欣快に堪へぬところである。