第五〇号(昭一二・九・二九)
 皇后宮の御歌を拝して       宮 内 省
 時局と遵法の精神         司 法 省
 北支平野の殲滅戦         陸軍省新聞班
 制空権我に帰す         海軍省海軍軍事普及部
 情報委員会から内閣情報部へ    内閣情報部
 地中海の潜水艦問題とニヨン会議の経緯 外務省情報部
 愛国行進曲懸賞募集規定添付

情報委員会から内閣情報部へ

                 内閣情報部

 

 情報委員会が生れてからまだ僅かに一年有余に過ぎないが、時代の進運は更に之を内閣情報部へと拡充発展させた。即ち九月二十五日情報委員会の官制が改正されて、内閣情報部となつた。世間では之を宣伝省への転化の一過程と見てゐる向もある。情報宣伝といふ仕事の重要さが段々認められて、少くとも行政機構の中で一歩前進したことは確かだ。国家の為に慶賀に堪へない。情報委員会の任務や組織等に就ては、既に週報第三十七号のなかに、「国家と情報宣伝」といふ記事で大体述べられて居るが、今回それがどう改正されて、内閣情報部になつたのか、其の概要を茲に説明したい。
 情報委員会は其の名称の通り委員が組織の中心となつてゐた。只、一般に設置されてゐる委員会とは其の趣を異にして、委員の他之に常時事務を執る事務局とも称すべき職員の一団が置かれて、実質に於ては一の部局を形成してゐたのである。其の故に一般の委員会の官制は「何々大臣ノ監督ニ属シ」とあるのに対し、情報委員会の官制には「内閣総理大臣ノ管理ニ属シ」と規定されて、恰も通常の部局に於けると同様の扱になつてゐた。只それは政府総掛りの機関としての特質を有する特殊のものであつた。委員と事務局とが一体となつたものである。然るに情報委員会の機能を一層発揮せしむる為には、一年有余の経験は組織の上に一段の考慮を促し、事務局の拡大強化を必要とすることが認められた。そこで事務局と委員とが一体となつた組織に改められた。それはあくまで政府総掛りの機関たるの特性を保持したものである。
 此の官制改正の第一の特徴は、右の趣旨に由つて、その名称からして「情報委員会」が「内閣情報部」となり、情報部には部長以下書記官、属と云ふ様な他の一般の官庁に在るのと同じ様な職員が相当数配置されて、情報部の職務を執行することとなつた点である。そして政府総掛り的のものである特性を尊重し、之を保持する為に内閣書記官長を委員長とし、各省次官及特に情報宣伝事務に関係の深い部局長課長等は委員として、常時部務に参与することとなつたのである。
 又新官制に於ては情報官と云ふ制度が新に設けられたが、是は従前の官制に於ける事務官に大体当るものであつて、内閣情報部の書記官及関係各庁高等官の中より情報官を命じ、情報部の職務たる情報、報道及啓発宣伝の事務を掌らしむることとなつた。尚関係各庁高等官の中より命ぜられた情報官の中には特に内閣情報部に常勤を命ぜられる者があるのであつて、是は以前の常勤事務官と同様の働きを為すのである。此の常勤情報官が又政府総掛りの機関たる特性を現はすものであつて、主として情報部に勤務し何れも本属庁の旨を体し、而も専任職員と和協心を一にし、国家的綜合的見地に於て連絡調整の任に当つてゐるのである。
 官制改正の第二の特徴は職務を細分化して規定し、稍之を拡充したことである。即ち従前の規定に於ては「各庁情報ニ関スル重要事務ノ連絡調整」とのみあつたのを、
 「一 国策遂行ノ基礎タル情報ニ関スル各庁事務ノ連絡調整
  二 内外報道ニ関スル各庁事務ノ連絡調整
  三 啓発宣伝ニ関スル各庁事務ノ連絡調整」
 と明瞭に所謂情報委員会の三大職務を記載し、更に
 「四 各庁ニ属セザル情報蒐集、報道及啓発宣伝」の事務を為し得ることに定められた。
 此の第四号の規定に由つて、従来は単に連絡調整の職務に限られてゐたものが、内閣情報部に於ても或る程度まで、自ら情報を蒐集したり、報道資料を発表したり、或は啓発宣伝の仕事をしたりすることが出来るやうになつた。其の職務は一段の飛躍を為したのである。尚内閣情報部は其の職務を完全に遂行する為に関係各庁に対し、情報や資料の提出を求めたり、又説明を求めることを得る旨官制に明定し、其の活動に遺漏なきを期せられた。
 官制改正の第三の主なる点は、新に参与と云ふ制度を設けたことである。是は国家の情報、報道、啓発宣伝と云つた様な仕事は何も官庁の役人ばかりに依つて行はるべきものでなく、広く民間の人達、即ち国家国民全体に依つて行はれる時、始めて其の全きを期し得ると云ふ趣旨の下に、此等の仕事に関し特に学識経験の深い人達十人を限つて一般民間の中より選んで参与とし、内閣情報部の職務に与(あづか)らしめることになつたのである。即ち新聞通信、雑誌、放送、演劇、映画其の他広く情報、報道、啓発宣伝の事に造詣の深く、其の方面を代表する様な人々が任命されたのである。参与は勅任官の待遇を与へられ、任期は二年である。此の参与制度の活用に依り内閣情報部は単に政府総掛りの機関であるばかりでなく、国家総掛りの機関の実を挙ぐることとなるのであつて、参与制度に期待される所は甚だ大きいものがある。
 官制改正の要旨は大体以上の如くであるが、要するに一段と其の内容を充実発展させたものに他ならないのである。時恰も支那事変の真只中にあつて、情報宣伝の事務は日、一日と其の重要性を発揮しつゝあるが、此の秋(とき)に内閣情報部の誕生したことは洵に意義深いものがある。内閣情報部の各員は、国策遂行の基礎たる正確なる情報、我が帝国の真意を国の内外に普く伝へる報道、又此の時局に処する適切なる啓発宣伝、此等の重大なる職務の遂行に新機構の全能力を発揮して、其の責務を果すべく奮励努力してゐる。