第四七号(昭一二・九・八)
 皇軍中支を衝く          陸軍省新聞班
 迅雷の攻撃続く          海軍省海軍軍事普及部
 事変を繞る列国の動き       外務省情報部
 第七十二回帝国議会に於ける国務大臣の演説
  近衛内閣総理大臣演説
  広田外務大臣演説
  賀屋大蔵大臣演山説
 最近公布の法令          内閣官房総務課

 

第七十二回帝国議会に於ける近衛内閣総理大臣演説

 昨日開院式に當りまして、時局に關し特に優渥なる 勅語を拜しましたことは、眞に恐懼感激の至に堪へませぬ。私は諸君と共に謹んで聖旨を奉戴して、一意奉效の誠を竭し、宸襟を安んじ奉りたいと存ずるのであります。 
 去る七月七日北支に事變が勃發致しまして以來、帝國政府が支那に對して採り來りましたる根本方針は、飽く迄も支那政府の反省を求めまして、其の誤れる排日政策を抛棄せしめ、以て日支兩國の國交を根本的に調整せんとするにあるのでありまして、此の方針は今日と雖も何等變る所がないのであります。唯此の方針を遂行する手段と致しまして、從來政府は出來るだけ事件の擴大することを防ぎまして、局面を限定して事態を收拾すべく努めたのであります。此のことは今日まで屡々聲明致した通りでありまして、諸君も御諒承のことと思ふのであります。
 然るに支那側は公正なる帝國政府の眞意を了解せざるのみならず、帝國政府の隱忍に乗じまして、益々侮日、抗日の氣勢を擧げまして、統制なき國民の感情の激する所、事態は急速なる惡化を來しまして、局面は北支のみならず、中支南支に迄でも波及するに至つたのであります。隱忍に隱忍を重ねて參りましたる我が政府も、是に於て從來の如く消極的且局地的に事態を收拾することの不可能なるを認むるに至りまして、遂に斷乎として積極的且全面的に支那軍に對して、一大打撃を與ふるの已むなきに立至りました次第であります。
 抑々一國が特定の他の一國を排斥侮蔑することを以て其の國策となし、國民教育の方針として斯かる思想を幼少なる兒童の頭脳に迄注入するが如きことは、古今東西の歴史に於て未だ曾て類例を見ざる所でありまして、是が將來に於ける結果を考へまする時には、獨り日支兩國の國交の爲のみならず、東洋平和延いては全世界の平和の爲に、眞に寒心に堪へないものがあるのであります。帝國政府と致しましては從來屡々支那政府に對しまして、其の態度を更めむことを要求致したるに拘らず、毫も顧みる所なく、遂に今次の事變を惹起せしむるに至つたのであります。斯くの如き國家に對しまして其の反省を求むる爲に、帝國が 斷乎一撃を加ふるの決意を爲しましたることは、獨り帝國自衞の爲のみならず、正義人道の上より見ましても極めて當然のことなりと固く信じて疑はぬ者であります。蓋し東亞の和平なくして東亞國民の幸福なしと信ずるからであります。固より帝國の打撃を加へむとする目標は、斯かる誤れる排外政策を實行しつヽある所の支那政府及軍隊でありまして、帝國は斷じて支那國民を敵とするものではないのであります。又支那政府と致しましても、眞に能く反省を致し、今後我が國と提携して、相共に東洋文化の發達と東洋平和の確立に向って力を盡さむとする所の誠意を示すに至りましたならば、帝國としてはそれでも尚之を追及せむとするものではないのであります。
 併しながら今日此の際帝國として採るべき手段は、出來るだけ速かに支那軍に對して徹底的打撃を加へ、彼をして戰意を喪失せしむる以外にないのであります。斯くして尚支那が容易に反省を致さず、飽く迄執拗なる抵抗を續くる場合には、帝國として長期に亙る戰も勿論辭するものではないのであります。惟ふに東洋平和確立の大使命を達成せむが爲には、尚前途に幾多の困難、難關が横はつて居るのでありまして、此の難關を突破するが爲には、上下一致、堅忍持久の精神を以て邁進するの覺悟を要すると思ふのであります。
 今や、我が忠勇なる將兵は、全支に亙り萬難を排して堂々正義の陣を進め、皇軍の威力を内外に宣揚しつゝあることは、國民の等しく感謝感激に堪へぬ所であります。又是と同時に全國津々浦々に至るまで銃後の熱誠が湧き立ちまして、美はしき舉國一體の實を示しつゝあることは、誠に力強く感ずる次第であります。願はくは一時の戰勝に酔ふが如きことなく、此の緊張を持續致して時艱を克服し、終局の目的を達成しなければならぬと思ふのであります。
 政府は茲に時局の急務に應ずる爲に必要なる豫算案及法律案を帝國議會に提出致して居ります。是等の法律に於きまして、政府は此の非常事態に對應するやうに、財政經濟の體勢を整ふることと致したいのであります。固より之が爲財界に無用の衝撃を與へると云ふことは出來るだけ之を避けるやうに十分の注意を拂ふ積りであります。尚事變の經過、外交の事情、財政の計畫等に付きましては、それ/"\主務大臣より申述べます。
 政府は此の重大なる時局に當りまして、諸君と共に此の國家の大事を翼贊し奉ることを以て誠に光榮とすると同時に、其の責任の愈々重大なることを痛感するのであります。諸君に於かれましても宜しく政府の意のある所を諒とせられ、愼重御審議の上、協贊を與へられむことを切望する次第であります。