第一二号(昭一二・一・六)
 皇室の御近状   宮内大臣官房総務課謹記
 海運国策に就て           逓 信 省
 昭和十一年の国際政局の回顧     外務省情報部
 最近公布の法令           内閣官房総務課

皇室の御近状  

 昭和十二年の新春を迎ふるに当つて国基いよ/\揺ぎなく皇威昭々として中外に輝くは九千万同胞の共に慶祝に堪へぬ所であります。
 申すも畏きことながら 天皇陛下には本年御三十七歳の宝算を数へさせられ天機益々麗はしく玉体いやが上にも御健勝に拝し上げますことは誠に恐悦至極に存じ奉る次第であります。
 殊に一系無窮の皇統を継承し給ふ日嗣の皇子のあれましてより早くも五年国威揚々として旭日昇天の概あるは国民の斉しく御同慶に禁へぬ所であります。
 我国は肇國以来祭政一致の国でありまして、陛下が祭祀のことを特に重んじさせ給ふことは今更申し上ぐるまでもありませぬ。即ち皇室令に於いて定められた御祭典は申すに及ばず一日、十一日、二十一日の旬祭には畏くも早朝御潔斎の上、宮中三殿に御親拝あらせられ、其の他の日には毎朝侍従をして御代拝せしめられ、只管国家国民の幸福を御祈念あらせられるのであります。かくて雨の日、風の日と雖、一日をも欠かし給ふことなきはこれ一に祭事を重んじさせ給ふ大御心と拝察し奉るのであります。殊に一月一日の四方拝及び歳旦祭の如き早朝の御祭から新嘗祭の如き徹宵暁に及ぶの御儀に至るまで玉体を労せらるゝこと又一入なるを思ふの時、真に恐懼に堪へないのであります。
 次には新年の朝賀を始め、政始、講書始、歌会始、帝国議会の開院式、観兵式、或は親任式、親補式、位、勲、爵の親授式、外国使臣の信任状及び解任状捧呈式等宮中の御儀式は又尠からぬを拝するのであります。
 御政務、御軍務については近来一層御多端に亙らせられ、日々内閣、宮内省等よりの上奏御裁可を仰ぐもの実に夥しく、尚又国務各大臣の政務奏上、参謀総長、軍令部総長等の上奏等は時を選ばず御聴取あらせられ、枢密院本会議、軍事参議院の会議等の如き必ず親臨あらせられ、拝謁、謁見を仰付られる数も亦非常の多数に上るのであります。
 其の他四大節の御宴を始め、外国使臣、外国貴賓の外、各大臣、陸海軍特命検閲使、師団長会議、海軍長官会議、地方長官会議、司法官会議等に出席の文部官に御陪食を仰付られ、時に管下の状況についての言上を聴召され、或は御下問を賜うて所轄の実状を具さに御聴取あらせられるのであります。
 御軍務については満洲事変以来殊に御多端にあらせられ、時に深更、夜半に及ぶまでみそなはせられ、或は早朝上奏を御裁可あらせられる等全く時間を超越しての御精励に亙らせられます。殊に彼の満洲の野に殪れし将兵の上には特に大御心を注がせ給ひ一報至る毎に戦没将士に対する御軫念はもとより、其の遺族に対してまでも御下問を給ひ、生きて尽忠報国の誠を效したるものはさることながら、死して護国の鬼と化したる英霊の為に這般御府の一つを新たに御建設あらせられて顕忠府と御命名あらせられ、戦病死者の写真と功績の記録を御保存あらせられましたことは洵に聖恩枯骨に及ぶ次第であります。
 平時に於いては陸軍は年々、海軍は三年毎に特別大演習を行ひ、陛下には親しく大元帥陛下として御統裁遊ばされるのでありますが、陸軍の特別大演習だけに見ましても御登極以来、昭和二年愛知県、同三年岩手県、同四年茨城県、同五年岡山県竝に広島県、同六年熊本県、同七年大阪府竝に奈良県、同八年福井県、同九年群馬県竝に栃木県埼玉県、同十年鹿児島県竝に宮崎県、同十一年北海道の各管下に於いて大纛を各地に進め給ひ親しく国軍を鼓舞激励遊ばされたのであります。
 昨年は殊に北国僻遠の地たる北海道に行幸あらせられ、大演習御統裁前後に於いて全道歓喜の裡に室蘭、旭川、帯広、根室、釧路、札幌、小樽、函館の各地を御巡幸、管下全般に亙つて詳細に御巡視あらせられ、時に強風畏くも御外套を飜し、豪雨御袖に漏るゝも垂れさせ給ふ聖慮の程畏しとも畏き極みであります。
 此の行幸は実に御往復十九日間の長きに亙つたのでありますが些の御疲労をも拝せず、還幸後幾くもなく再び海軍特別大演習に行幸あらせられ九日間、海上に於いて艨艟を率ゐて御統裁遊ばされたのであります。
 かく御政務、御軍務に御精励の間に在つても内外政務、軍事の御研鑽は一日も忽にし給はず、火曜日の行政法の御進講、木曜日の外交事情の御聴取、金曜日の軍事学の御進講等があり、更に広く人文、自然両科学の範囲に於いても向上精進を念とし給ひ毎木曜日の午後に於いて此の方面の権威者又は外国よりの新帰朝者等について主要事項を御聴取あらせられるのであります。
 又国民生活の上には常に大御心を注がせ給ひ鰥寡孤独の者を憐み給ふは勿論、天災地変等に対しましても其の都度御内帑金を下賜あらせられますが昨年も朝鮮の水害に対しては、いたく御軫念あらせられまして、特に侍従を御差遣あらせられ、又這般の尾去沢の惨禍に対しましても侍従を御差遣あらせられました。殊に昨秋北海道行幸に先立つて、北洋千島に侍臣を派して具さに民情を視察せしめられましたことは、島民は申すに及ばず、国民斉しく感激の新たなる所であります。
 皇后陛下に於かせられましては御機嫌益々麗はしく常に 聖上陛下の御身辺のことについては細大となく御心を注がせ給ふのみならず 皇太后陛下に対せられては御孝養のことに深く御心をつくさせ給ひ、且東宮殿下、義宮殿下を始め奉り三内親王の御教養に日夜御心を傾けさせられ、内廷のことども日にしげくあらせられる中に婦道の御修養にいそしみ給ひ、常に御慈みを民草の上に注がせられ、日本赤十字社通常総会、愛国婦人会通常総会、東京慈恵会等へ行啓あらせらるゝの外、年々歳末沍寒に際しては都下の貧困者竝に医薬給せざる薄倖者の為に御内帑金を御下賜あらせられて、御優しき慈悲を垂れ給ひますことは洵に恐れ多い次第であります。
 皇太后陛下に於かせられましては先帝神去りましゝ以来、只管御慎みの中に在つて御追福を祈らせ給ふ傍、社会事業に大御心を垂れさせ給ひ、曩に癩救療の為に多額の御下賜金を賜はり、癩患者の身の上を憐ませ給ひ、「つれづれの友となりても慰めよ行くことかたきわれにかはりて」と御詠出遊ばされましたが更に昨年十二月大正天皇の十年御式年祭に当りまして、先帝の叡慮に基いて創始せられました方面事業御奨励の思召に依り、金一封を全日本方面委員聯盟に賜はり且同事業功労者に対しまして御下賜品を賜はりましたことは、誠に感激の外は御座いませぬ。
 東宮殿下は御誕生以来満三年と一箇月を過されましたが御心身共に御立派に御発育遊ばされまして、日毎に御叡慮のひらめきを拝し、御室内、御内庭等にて、いとも御活発に御運動遊ばさるゝ様を拝し奉つて、側近の者はたゞ/\感激いたして居ります。
 義宮殿下、照宮殿下、孝宮殿下御共々御順調に御成長遊ばされ、御姉弟の御仲いとも御睦まじく、時に皇太子殿下を御中心に御団欒の御声、御内庭に漏るゝを拝するは竹の園生のいや栄えゆく御有様もうかゞはれ、げに慶祝の至りに堪へませぬ、
 茲に新春を迎ふるに当つて、謹んで皇室の御近状の述べ連綿窮りなき皇統の彌栄を祈ると共に、皇國の繁栄を寿ぐしだいであります。

         (宮内大臣官房総務課謹記)