国際聯盟と民衆の輿論
ウイルソンの骨折つて作つた国際聯盟規約に対し、米国市民を代表する多数の議員が批准を拒まんとするの形
勢を見て、あの世界的自由平等を標苧る米国でも、いざとなれば粥欝族主義の城壁内に立寵ると観る人があ
る0此観察の謬りなる事は前段にも説いたが〔本巻所収前掲論文〕、概して国際聯盟の本当の精神を実現せしめよう、
あやま
ただ ばか
所謂国際的正義を有効に確立しょうとする傾向は、膏に米国に警之を見る許りでなく、欧洲一般に警も吾々
は明白に之を見る事が出来る0最近欧米諸国に頻繁に起る所のストライキが何に原因するかを冷静に研究せば、
蓋し思半ばに週ぐるものがあらう0或時は独逸に苧る講和条件の過酷に失するを理由としてストライキを行つ
ドイ ツ
けだ
た革もある○最も頻繁なる原因は村苧渉の否認である事は尉朝隠れもない0プールジヨア政府がレーニン政府
を世界共同の敵として戦はんとして居るのに、民衆は飽くまで之を不法として遂に撤兵を断行するのピむべから
ざるに至らしめた事は、既に英国に於て之を見、又最近米国に警之を見た0欧米の民衆がレ土ン政府に対し
て斯くの如き能差に出づる事の可否如何の間慧姑く別として、吾々は先づ此明白なる事実の存在を正視せねば
しばら
ならぬ0而して民衆が斯くの如き態度に出づる所以のものは、其適用に誤ありや否やは別間警して、兎に角国
ゆえん
際的正義の実現に対する確信と熱情とに出づる事は疑を容れない。
此新たなる民衆的精神が発して対露干渉の否認となり、対独講和条件大緩和の要求となるのであるが、之が又
王
国時に国際聯盟を支持し発達せしむる根本条件でなければならない0而して一般民衆は貰を通じて曙ぼ此共通
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論
輿
の
衆
民
と
盟
聯
際
国
なる新碍神の発現を見たのに反し、片足を一歩旧世界に踏込んで居るプールジヨアジイ階級の政治家は、今尚ほ
人と人と争ひ、国と国と争ふ必要上団体生活は為すものの、一刻も油断は出来ないといふ猫疑不信の社会観を離
れない。であるから国際聯盟の根本原則を承服しながら、尚ほ其閏に種々利己的主張の貫徹を求めて聯盟の精神
を不徹底にする。所謂国民主義の横行なるもの即ち之れである。而して我国の論者は多く此現象を見て、国際平
和の実現は前途遼遠なりと称して、旧時代と同様な利己的防備の必要を国民に警告して居る。他の間遺に於て最
もデモクラチックな、従つて欧米民衆の新精神に了解があるべき人々までが、一旦国際間題になると彼の地プー
ルジヨアジイ階級の見識を其佳自分の見識とするのは、実に不思議に堪へないけれども事実だかち熱水が無い0
尤も欧米の政界は今日尚ほプールジヨアジイの支配する所であ頂故に国際平和の肝腎なる実現を、彼等の勢力
と,つ牡Aノー
に一任する革も出来ないのは勿論である。けれども之も暫くの間の話で、到底清々たる民衆的精神に抵抗は出来
うちか
ないから、此懐疑的社会観は民衆の人道的社会観に打克たるるであらう。人と人と並びに国と国との社会生活に
いず
対して見方の二つある事は疑の無い事実であるが、吾々は今日其何れの見方が重きを為して居るかと云ふよりも、
さ たん
寧ろ何れの見方が近き将来を支配するかを見なければならない。吾々が民衆的見識に左担する所以は主として此
処に在る。プールジヨアジイ的見識を排斥する所以は、事実の観察を謬つて居るといふ点よりも、寧ろ正義と平
和の実現を幾分邪魔するからである。
無論吾々は国際的正義とか世界的平和とかを主張するに急にして、健全なる国民主義を否認する者ではない。
いたず
吾々の否認せんとするのは、国際関係に於ける自家の正当なる地位を顧慮する事なくし・て徒らに其発展膨脹を図
る所の利己主義である。国際関係に於け古書々の団体生活を維持し、且つ之を相当に発展せしめん事は固より吾
々の全力を尽くして努むる所である。若し之をしも破壊し去らんとする極端なる国際主義といふものがあるなら
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ば、吾々は固より之に反対する0此点に於て最近米国政府が過激主義のクーデターを豪に発見して厳重に処分
あたか
した事を不当とは思はない0唯所謂国際主義にも善悪の両種ある事、恰も国民主義に善悪の二種あるが如くであ
る0吾々は健全なる国際主義の発達を害するといふ点に於て極端なる国民主義を排斥するが、又健全なる国民主
義を擁護せんが為めに、謬つた国際主義を否認せんとする者である。
之を要するに国際聯盟乃至国際関係の問題に対する欧米の報道を見る時には、それが民衆の輿論から出たもの
か、プールジヨアジイから出たものかを覿別する事が必要である0我国のデモクラットが欧米の国民も亦国際聯
けんべつ
盟に冷淡なりなど云ふは、之れ正に知らずして欧米の官僚に裏書きし、以て世界の民衆を敵とするものである。
さう云ふと、何も世界の大勢に盲従するの必要は無いなど去ふ人もあるが、所謂自主的とは内面的省慮無しに
そむ た
唯頑強に衆と相反いて異を樹てるといふ事ではない。
〔『中央公論』一九二〇年二月〕
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就
に
張
主
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日
る
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治
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