浦塩出兵の断行と米国提議の真意
Z習畑周周眉畑瀾濁
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
(一)
シベリア なかば
去年の秋以来帝国政界の懸案たりし西伯利出兵問題は七月央に至り一先づ解決を告げた○唯光栄ある解決か否
かについては各方面にいろ〈の議論がある。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○Qq○○○○○○○、○○○○○
○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
う47
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○。
併し乍ら右の如き意味の出兵には米国の賛同を見る事が出来るであらうか。全然外国の意幣を顧慮するの必要
が無いといふ説も一つの見識であり、又外国が賛同しないらしいからといつて出兵を躊躇し、外国が動き出した
からといつて俄かに動くと云の〔は〕余りに不見識でないかといふ非難にも一理あるが、兎に角現政府の己に取つ
たとえ
て居るやうに、飽くまで米国と交渉して歩調を一にするといふ以上は、仮令そが通告の形式を取るとか提議の形
式を取るとか些末の体裁はどうであつても、我の申分が対手方の腹と合するや否やを全然念頭に置かないといふ
事は出来ない。此等の点は尚後に之を説かう。滋には我々は彼の政府筋の出兵意見に対しては、国内に於ては己
に有力なる政党方面から反対が起つたといふ事を注意して置かう。中にも政友会の反対は最も有力なるものであ
つた○尤も政府の出兵論に対する反対論の中には各種各様のものがある。米国が厭やと云へば出兵しない、叶い
と云へば出兵するといふやうな他動的外交を主とする形式的反対論もあつた。実質的方面からの反対論中には、
今は徒らに兵を動かすべき秋ではない、実力を滴養し満を拝して放たざるの態度を以て戦後に望むのが帝国最良
の方策であるといふのもあり、又ウツカリ兵を西伯利に入れ、ば遂にとんでもない所まで引張つて行かれる怖れ
があるといふ反対論もあつた。従来英米仏等と協調し来つたのに、今之を出し抜いて自主的出兵など二言つて単
独の行動を取るのが得策でないといふ穏健なる反対論もあり、又少数の人の間には出兵に由つて過激派を敵とす
る事の将来の日露国交上頗る憂ふべきものあるを説くものもあつた。併し多数の意見は政府筋の自主的出兵論の
う48
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
板拠とする独嗅勢力の東漸といふ事実を否認するの乱が多かつた。政党方面の反対論も主としては此点からであ
った。併し乍ら理窟からいふと独嗅勢力の東漸といふ事実が無いからとて直ちに出兵論が破れる訳ではない○唯
いと‡
政府並びに軍閥の方面では之のみを以て出兵論の根拠となし敢て他を顧るに連なかつた○若し本当にかういふ事
実があれば、出兵論に取つては此上も無い好都合であらう○従つて随分誇大の報道をも発せしめた形跡がある○
併し事実に基かざる誇大の報道は結局国民を瞞著する事は出来ない○而して他に何等正々堂々の出兵理由を作る
事を知らざりし彼等は、独嗅勢力東漸の事実の否認に逢つて相当の弁明をすら与へ得ざりし醜能首暴露した○斯
くして政府筋の所謂大規模の出兵論は或は予想せられ得べき外部よりの不同意を倹たずして、内部の穏健なる反
対論から一大破綻を来たす事に成つた。
政党方面よりの反対の結果、出兵論の破綻を暴露せる事が、所謂大規模の出丘雀巳に閣議に於て決定し、又元
老会議に於て是認せられた後であつたといふ事は、見様に拠つては一種の痛快なる皮肉である。此問題が元老会
議とか外交調査会とかの秘密裏よりもう少し広く公開されて居つたならば、或は内閣の責任問題を起したであら
ぅと思はるゝ。併し乍ら此等の点を吟味する事は予輩の興味を感ずる所ではない。○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○。○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○
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○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○、○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○。○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○
○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。
うう○
(二)
政舟は近く出兵問題の経過を公表するとの事である。併し我々は之によつて事の真相に触れ得るとは予期して
居ない。恐らく極めて空漠たるものであると共に、主としては政府の立場を弁解するものであらう。併し如何に
い▲きさつ
巧に弁解しても、今日までの経緯は決して賞讃に催するものではない。何の方面から観ても失態の跡は歴然とし
て残つて居る。而し・て斯かる失態を来たした所以は当局者の手腕並に見識の足らざるにもよらう。又政府首脳の
決断に乏しい点にもよらう。当局者の一人々々について個人的に責むべき点は其他少からずあらうと思ふが、併
題ヨつ。rl頭tし
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
し予輩は此等すべての欠点を羅列しても、之によつて完全に今日の政府の失能首説明し尽くす事は出来ないと思
ふ。何故なれば予輩の考ふる所に拠れば、仮令如何なる人傑が靴軒芸ても此種の問題については今日の政府以
上に立派な賂決をするといふ事は、事実恐らく余程困難であらうと思はる、からである○何故に斯く云ふやとい
ふに、今日の政府は一方に於ては出兵に関し極端なる熱心を有する所の軍閥に撃肘せらるる外、他の一方に於て
は世界の進運に乗じて来る所の外来の勢力に大いに左右されて居るからである。此場合に於て旨く帝国の政治を
あやま
料理して国運の発展を謬らざらしむるには、先づ今日の世界の大勢に通じなければならない○少くとも我国の属
して居る国際団体の底流たる時代精神、もつと押し詰めて云ふならば、英米等によつて代表せらるゝ今日の時代
精神を理解しなければならない。第二には此時代精神と余りに懸絶せる今日の軍閥一派の無謀なる政論を抑へ得
さいのう
なければならない。而して此両面に於て非凡の材能を有する政治家は何処に居るか℃今日の政府は聯合国と事を
つ王す
共にするに当つて何等の確信なく、而して国内の矯激なる暴論に左右されて、或は右して蹟き、或は左して傷く
の醜態を繰り返す所以である。
我国の一部に西伯利出兵の盲目的熱心家の少からざる事、而して其最も著るしき代表者が軍閥である事は公知
の事実である。何故に彼等は出兵に熱中するか。彼等の表面上掲ぐる所の理由は独嗅勢力の東漸、並に之に対す
はぴこ
る帝国の自衛といふ事である。併し乍ら之に対しては事実独嗅の勢力が東洋に蔓つて居るかの疑あるのみならず、
帝国の自衛の為め之を防がうと云ふならば、一体何処まで兵隊を進めればいゝのかの困難なる問題がある○此等
の点は軍の技術に関する問題であつて予輩は適切の意見を発表するを得ないが、唯若し真に自衛の必要があるな
らば、何ぞ外国の思惑を顧慮するの必要があらう。此点に於て七月初旬某閣僚が、今度こそは外交調査会が反対
しょぅが政党が反対しょうが、断じて出兵を決行すると放言したのは最も徹底した意見であつた○然るに政友会
うう1
方面から独嗅東漸の事実を否認し、大規模の出兵に猛然として反対し来るや、彼等は強いて之に争はざるのみな
らず、又独嗅勢力東漸の事実問罫に対してすら何等有力なる反駁を加へて居ないではないか。之れ彼等に出兵の
理由に対する不動の確信無きの証拠ではないか。
斯くても尚軍閥者流は出兵論の迷夢から覚めない。何故に彼等は斯くまで出兵を熱望するのであるか。或人は
云ふ、我国一部の有志家が従来セミヨノフやホルワット等の反過激派に同情して居る行掛上から来るといふもの
もある。現にセミヨノフ軍に対しては日本義勇兵四首の応援に赴くものありといふ報道もあつたし又義勇兵募集
の結果労働者の欠乏を来たしたといふ所から、満鉄其他在満の大会社は義勇兵の募集に反対して居るといふやう
な報道もあつた。セミヨノフ、ホルワット等にしても彼等の勢力を有して居る所以のものは、専ら二は外部から
の応援と、もう一つは今にも日本からの大規模の援兵が来るといふ事を云ひ触らして居る事によると云ふではな
いか。併しょく立ち入つて考へて見ると、我国の出兵論は恐らく決して此等反過激派の援助といふ事のみを考へ
て居るものではあるまい。彼等を授けて西伯利の秩序を回復するに成功すれば、之れ亦露国に対して一徳を施す
所以になる。けれども彼等を助けて西伯利の秩序を根本的に確立し得るや否やについては、米国と英仏との間に
も意見の相違があるし、又西伯利に於ける反過激派の勢力なるもの、間にもいろ〈内紛があつて、更に纏まり
がついて居ないではないか○現にチェック軍のお蔭によつて出来た浦塩の西伯利政府と、仙歎凱に於てホルワツ
ウラジオ
トの造つた政府との間には最早和すべからざる敵意が溺つて居るやうである。斯くては出兵によつて反過激派を
授けやうとした所が、何れを授けてい、のか分らない。斯くして反過激派の秩序回復の事業を応援するといふや
うな名義も、亦事実西伯利に出兵を断行せしむる適当の口実とはならない。斯くして軍閥者流の出兵論は一つ一
くる
つ其根抵の理由を失つた。智慧の無い彼等は更に他の適当なる口実を発見するに困しんだ。そこでいよ〈本音
うう2
畑一
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
を吐く。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。
講和の際に有力なる発言権を有ち得るといふ事は、無論必要な事であるに相違ない。此目的の為めに今からい
ろ〈手段方法を講ずる事の必要なるは云ふ迄もない。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○。斯る行動に出づるのは即ち今度の戦争の原因となつた独逸の遣り方で、畢尭此流儀の遣り方を抑へつけよ
ぅとして今度の戦争も起つたのではないか。それに又日本が傲ふと云ふのでは、我々は之によつて諸外国から公
然の、又は少くとも暗黙の非難を受くることを覚悟しなければならない。けれども軍閥者流は仮令非難されても
之を厭はないと云ふのである。併しながら非難されても厭はないといふ立策を是功叫するには、今度の戦争の最後
の勝利は英米にあらず、従つて独逸流儀の遣り方が戦後の国際関係を支配する原則なりと予想するか、又は仮令
英米が勝つても彼等の正義公論は畢克偽善である、表面は独逸流儀を非難して居りながら、彼等の真実の要求と
行動とは決して独逸と異るものではない、戦前に於て然りしが如く、戦後に於ても亦然るのであらうと予想する
ものでなければならない。之は今日並びに今後の国際関係の実態に関する根本観念の相違に帰するものであつて、
先に一々詳細の批判を加ふるの達がないが、我等の深き確信の上に造つて居る所の立場から云へば、右の軍閥者
流の国際観ほど我国に取つて危険なものはない。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、余りに露国
を知らず又露国民を知らざるの暴論である。仮令如何なる目的と民意と有りとするも、外国の兵隊が単独に入つ
て居ると云ふ事は露国民の断じて喜ばざる所である。ケーレンスキIも仏蘭西に於て明白に外国の単独出兵を非
ううう
難して居るではないか。要す○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、少くとも今
後の世界には通用しない説であらう。此点に関して七月十五日の朝日新開に見えた高橋是清男の説は頗る傾聴す
るに足るものがある。日く、「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、若し日本が講和会議の時に当
り其の発言に権威あらしめんとせば、第一に世界各国より疑惑の眼を以て見られつゝある領土的野心の無き事を
明にし、内には十分の実力を滴養して諸外国の軽侮を招かざるに勉むるを当然とす云々」。軍閥者流の偏狭なる
侵略観に対する非難を、同じく久しく軍閥の侵略主義を助け来つた政友会領袖の口から、今日之を聴くのは多少
意外の感なきにあらざるが、只若し之を今度の戦争の与ふる精神的教訓の感化により、日本国民が将に世界的見
識に覚醒しっ、あるの端緒が先づ以て政党界の識者階級に初まりつゝあるものと見る事が出来るならば、之れ亦
我国にとつて頗る慶賀すべき現象である。出兵問題に関して多年犬猿も膏ならざりし政友、憲政両党の領袖の態
度が著しく接近したと云ふ事実も、亦之を偶然と云ふ事が出来ない。斯くして若し我国の二大政党と官僚軍閥の
一派と、戦後帝国の経営と云ふ大問題に関し、各々其観る所をとつて相対抗すると云ふ形勢を導き来るを得ば、
之れ亦どれ丈け我国の幸福になるか分らかい。
さればと云つて時勢の進運は争はれない。所謂官僚軍閥の士と錐も一から十まで皆其固随の見を固執するもの
ではない。彼等は意識的に飽まで固随の見地に立つも、無意識的には矢掛り時勢の児として不平を並べつゝ時勢
に率ゐられて行く。恰かも生意気な小僧が時勢と云ふ怖い叔父さんに睨められては、蔭でこそブツブツ云へ、面
と向つては手も足転出ないと云ふ状態にある。只我々は生意気な小僧の蔭口が、其局部に於て今日尚人を誤り、
国を誤る事頗る多きものあるを思ふが故に、官僚軍閥の一流の意見を政治の圏外に駆逐するを以て今日の急務と
うう4
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
認むるものである。
●d■
(三)
予輩は前項に於て日本の政界に動もすれば盲目的出兵論の勃興する所以を説いた。而して日本の西伯利出兵は
独り我国の熱望であるのみならず、従来英仏側の熱望でもあつた。而かも此双方の熱望の間には、其目的に於て
全然合致せる所なしと見られて居つた。然らば予輩は次に英仏は何の為めに日本の出兵を要求するやを観なけれ
ばならない。
日本出兵論の本元は仏蘭西である。併し仏蘭西の初めて唱へたのは欧洲出兵論であつた。此事は今立に閏砥と
しない。只露西亜革命後英も仏も熱心に西伯利の出兵を日本に乞ふと云ふ能違を著しくして来たと云ふ事を云ふ
に止めよう。
西伯利出兵は英仏伊等即ち西欧羅巴に於て独逸と対戦しっゝある諸国の希望する所であり、現に六月中旬には、
ヴエルサイユに於ける軍事会議の結果として、或種の申込をなし来つた事は吾人の耳目に新たなる所である。此
時日本は米国の意轡は如何と反間したとも云はれ、又英仏側の望むが如き意味の出兵には応ずる事が出来ないと
云うて要求を拒んだとも云はる、。当時我国の新開では、久しい間の懸案であつた出兵間遺は、此拒絶の回答を
以て打切りとなつたと唱へたのであつた。併し日本政府は之を以て全然出兵を断念したのではない。唯英仏の希
望するが如き意味の出兵に意がないと云ふ迄である。何故なれば日本の出兵の範囲は楕々東部西伯利であつて、
パ イカ ル
即ち月加拉湖辺を境とし東部に於て先づ独立の共和国を建てしめ、将来大露聯邦国家の成立の場合に其一分子た
らしめんとするにあり、共以外の地域は直接日本と利害の交渉のない方面として、新たに特殊の関係を開くを欲
ううう
しないと云ふのである。然るに英仏の希望は先づ西伯利を基点として穏健なる中央権力を確立し、行々は露西亜
全体に穏和派の勢力を打建てんとするので、其目的を援くる為めに日本の出兵を要求するのである。従つて出兵
の範囲も日本自身の希望するが如く狭いものではない。右の目的を達するまでは何処まで行くか分らない。万一
此為めに独襖側が兵を入れて中央権力の確立を妨ぐるが如き方針に出でんか、日本は即ち之と直接して戦を交へ
る丈けの覚悟がなければならない。・之れ丈けの大規模の出兵はよく日本の堪え得る所なりや否やが間造となる。
ウ ラ ル
一説に拠れば、英仏側が烏拉爾辺迄の出兵を要求したと云ふ事であるけれども、それでも日本に執つては余りに
大きな負担である。此処に英仏側と月本との出兵の趣意に於て租騎があつた。故に英仏の要求を日本が拒絶した
からと云つて、日本の出兵論が全然打切となつた訳ではない。
粥6
(四)
西伯利出兵に対する米国従来の立場は如何。米国は従来全露に於ける過激派の勢力を認め、且つ之に同情して
居つたと云はれて居る。少くとも彼は人為的に之を撲滅せんとする種類の内外各種の運動には賛同せざる見解に
立つて居つた事は疑ない。之れ彼が従来総ての西伯利出兵論に賛成せずと云はれて居つた所以であらう。○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○。
今日まで顕れた多くの説明は之を米国態度の豹変と見るのが多いやうだ。而して何が米国をして在来の方針を
なげう
絶たしめたかの解釈に就いては、或は過激派の前途に見切りをつけたと云ふ者もあり、或は英仏側の切なる希望
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
を容れたと見る者もあり、或は西伯利に於ける利権の扶植に急いだと説く者もあれば、又此種の輿論に動かされ
た結果だと説く者もある。併しながら予輩の観る所によれば、此等の説明は従来の米国当局の決心の堅かりしと
対照して其堅い決心を翻きしむる丈けの有力の動因と考ふる事は出来ない。此位の事で考が変る位なら、米国は
何で今日まで殊更らに英仏諸国と歩調を一にする事を拒んで居つたらう。且つ又最近に於ける米国言論界の趨勢
に察するも、其対露観念に格別の変化を来たしたと見るべき何等の証跡がない。是に於て予輩は露西亜に対する
米国の考は、昨今に至つて急に変つては居ないと断定しなければならない。然らば此処に問題が起る。此断定と
米国が突如出兵を提議して来た事と、如何にして調和する事が出来るか。
併しよく考へて見ると、チェック民族を授けると云ふ事夫れ自身は、元来米国の主張と矛盾するものではない。
何故なれば米国は参戦の当初から、民族自由の原則に立つて居る。然らばチエツーク人が同族の独立の為めにする
あらゆる運動には、切なる同情を寄せて居るべき筈である。況んやチェック族は敵国に於て多年庄適せられて居
もち
つた民族なるに於ておや。米国が主義としてチェック援助に傾くのは、何等怪むを須ゐない。且つ又米国内政上
の必要から云つても、チェック援助を宣言するのは極めて策の得たるものである。米国内にはチェック人其他各
方面のスラヴ人の来住して居る者、又更に進んで帰化して居る者も少くない。当局者が国論を統一して挙国一致
欧洲の大戦に民心を緊張せしめんとせば、又此等スラヴ諸族の歓心をも繋がなければならない。之れ最近同国々
務卿ランシングが頻りにスラヴ各種族の独立自由を高調する所以である。故に此際極東に於けるチェック人の運
動を英仏諸国が之に深切なる同情を寄せて居るに拘らず、米国独り傍観の態度を取らねばならぬと云ふ事は、他
に斯くせざるべからざる特別の必要があつたとは云へ、米国当局としては、如何にも残念な事であつたらう。故
に此所謂特別なる事情に多少の掛酌を加ふるの余地があるならば、米国も亦来つてチェック援助に協力すべきは
うう7
当然の順序である。我々は先づチェック族と米国との此本来の関係を念頭に置かなければならない。
然らば米国が此本来の関係に背き、進んでチェックを助くる能はざりしは如何なる理由によるか。日く、之れ
米国の予ての方針たる対露政策と相背き、換言すればチェックを助くる事の結果露国過激派の勢力と衝突するの
怖があつたからである。蓋しチェックは初め英仏側若くは露国の反過激派の勢力から利用された、少くとも之と
結托した。斯して彼は西伯利に於て過激派とは両立すべからざる関係に立つた。之れが実に米国をして対チェッ
ク間還に大いに苦心せしめた所以である。併しながらチェック人の真の目的は、過激掛の討伐にあるのではない。
過激派を討伐して反対諸勢力の下に西伯利の秩序を回復すると云ふ事は、固より彼等の同情する聯合与国の共同
利益にはなるだらうけれども、彼等の直接に興味を感ずる間遺ではない。彼等の目的は同族を糾合し早く西部戦
場に走つて、村独戦争に参加せんことである。唯此目的を達するが為めに英仏側の援助を必要とした。此必要が
彼等が過激派と衛突せねばならなかつたと云ふ事実の結果でもあり、又原因でもあつた所以は尚次に説かう。要
するに彼等は英仏側に利用せられた。けれども斯くして何時までも其利用する所となつて居るのは、彼等の本来
希望する所ではない。彼等は屡々宣言した、我々は一日も早く欧洲戦場に走りたい、何時までも東部西伯利の警
察隊を以て甘んずることは出来ないと。而して彼等は其初め浦塩に於ける豊富なる物資の供給を受け、同族を集
めて西行せん事を欲したのであるが、其事の事実不可能なるを見るや、一転して同族を浦塩に集め、海路米国を
経て欧洲に趣かんと計画するに至つた。先般日本を通過したマサリツク博士は恐らく此計画を抱いて米国に活動
して居る者であらう。米国が対チェック方針に一新生面を開いたのも、或は彼の運動の結果かも知れない。要す
るに今やチェック人の目的は同族を浦塩より欧洲に送らんとするにある。之れ即ち彼等の民族の自由の為に戦ひ、
又聯合与囲共同の目的の為めに戦ふの決心を明かにするものである。斯くの如くなる以上は、米国の態度も自ら
うう8
彗可d、
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
さ一‡ よ
変らざるを得ないではないか。何故なれば、チェック人は何時までも東部西伯利を彷復うて過激派と対抗して居
ればこそ、米国は親方の閏に板挟みになつて困るのである。けれども早晩西伯利を去ると云ふ事であれば、何等
曖昧なる能心度を執るの必要がないからである。
斯くてもまだ問題は一つ残る。、米国が過激派を苦しむる結果の生ずるを避けつゝ、チェック人を援助するとい
ふ事は事実可能なりや否やと云ふ事である。何となればチェック人は現に過激派と衝突して居る。而してチエツ
?王
ク人応援の目的を以て浦塩に出兵するといふのも畢りチェック人が過激派と戦争をしに行くのに其後顧の憂なか
いhじ
らしむるを目的とするものである。然らば矢張りチェック軍を助けるといふ事は、過激派を虐め頂といふ事に事
実ならざるを得ないではないか。成程此説には一理ある、併し我々の能く注意しなければならぬ事は、過激派と
チェック人とはもと何の為めに衛突したかといふ点である。チェック人は決して強国の一部の政客が説くが如く、
過激派の思想其物を敵として立つた主義の争ではない。過激派であらうが反過激派であらうが、チェック人の民
族独立の希望からは何の関係も無い。唯彼等が同族を糾合して纏つた一個の勢力として、欧洲戦場に出懸けて行
かうといふ計画を、過激派が極力妨害するが故に遂に己むなく之に反抗せねばならなかつたのである。然らば過
激派は何故にチェック人の計画を極力妨害したかといふに、之れ亦主義の争でもなければ、又一部の半可通が尤
もらしく説くが如く、独嗅倖虜の指吸に出づるものでもない。チェック人が独襖と不倶戴天の敵対関係にあるが
故に彼等の計画の阻止は独襖倖虜の指吸に出づるものであらうと云ふのは浅薄なる俗解である。過激派の中にも
丸で人物が無いではない。一から十まで外人の説に聴くと見るのは誤りである。然らば過激派が何故にチェック
人の計画を妨げるかと云ふに、之れ畢尭彼等の計画の成就は、取りも直さず露国内に於いて独襖に対抗する一大
あきた
勢力の確立であり、従て又過激派の絶対平和論に健らざる露国穏健党の撞頭を誘致する機会となるからである。
うう9
斯くの如き心配はチェック人の勢力が西の方に確立した場合でも、又東の方に確立した場合でも同様である。故
に過激派がさらでも動もすれば起らんとする反対勢力の勃起を制し、自派の勢力を少しでも安全ならしめんが為
めには、チェック人の団結を妨げなければならない。否、諸方面に散在せしめて而かも之を無力なるものにせな
せま
ければならない。之れ過激派が欧露並びに中部西伯利に於て、チェック族に武装解除を逼り、又は浦塩に於ける
チェック族のイルクック迄の鉄道管理権の要求を三日の下に拒絶した所以である。して見れば、チェック人と過
激派との衝突は、畢尭は各々自己の利害の争である。唯之に外国の勢力や反過激派の勢力が参加したが為めに、
稀々政治的色彩を交へたに過ぎない。故に若しチェック族が初めから他の勢力の利用する所とならず、一旦浦塩
に衆合すればどんJト海を渡つて西欧に赴くといふ事が明白であれば過激派は恐らくチェック人の計画を妨害し
ないだらう。又過激派もチェック人の速かに海路浦塩を撤退せん事を希望して居る事は、七月央の職工組合の決
議にも現はれて居る。唯従来の行掛上彼等は余りに深く過激派反対の諸勢力と結托して居つたが為めに、過激派
はチェック人の此上西伯利東海岸に集合する事を快しとせなかつた。況んや英仏は動もすればチェックを利用せ
んとする態度を示し、殊に立憲民主党其他の反過激派は暫くチェック族の足を停めて、過激派討伐の目的に利用
し得んことを聯合諸国に運動して居つたに於ておや。故にチェックの背後に英仏が居ると云ふのでは、過激派に
於て安心が出来ない。けれども今や初めから過激派に同情と好感とを有つて居つた米国が、チェック族の背後に
立つといふ事になつたら、或は過激派をして幾分安心せしむることが出来ないとも限らない。尤も浦塩に於ける
チェック族の西進は、従来の行掛上過激派との多少の衝突を免かれないかも知れない。併し乍ら此衝突を甚だし
からしむると、或は著るしく媛和するとの鍵は、今や米国の手に撞られて居ると云つて可い。故に過激派とチェ
ック族との双方に好意を表するといふ米国の政策は可能なりや否やと云ふのが問題で無くして、米国が此関係を
う6○
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さば
如何様に捌いて行くかといふ事が、我々の着眼すべき問題なのである○
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
米国がチェック援助と過激派同情との二つの目的を同時に達せんこと否少くとも一方の目的の為めに他方の目
的を傷けざらんとすることに如何に熱心であるかは、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○『○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○
○○○○○○○○』○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。換言すれば、西伯利め秩序恢復の問題は全然之を露
国民の内事となし、外部より干渉すべからずとの主義をば依然として之を厳守せんとするものたること明白であ
る。況んや秩序恢復の名の許に過激派を敵に廻すと云ふが如きは彼等の全然脳中におかざる所である○
予は米国出兵提議の真意を以上の如く解するものである。共同宣言の提議に対して我は如何なる能産を執るべ
きやを決するに当りては先づ右の点に徹底的了解をなすことが必要である○○○○○○○○○、○○○○○○○
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○○○。併し何処までも米国と協議の上歩調を一にすることを力むると云ふからには少くとも
精神的に米国の意向に制せらるこ」とは或は免れないかも知れぬ○此点に関し我が当事者は果して如何なる用意
があるだらうか。
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(五)
日本の行動が米国の意思に制せらる、と云ふと事毎に憤慨する人がある。併し少くとも今度の問題について米
国の得手勝手を憤るのは間違つて居る。米国が先には出兵に反対し、今は改めて出兵を提議し来る此の事実を彼
そんたく
の得手勝手と見るのは、我の思想幼稚にして彼の真意を付度し得ざるの結果である。予輩より観れば米国の態度
には前後一貫して何等変改せるものを認めない。彼を識らざる者より観れば−1又は我の狭き了見を以て他人の
う62
腹を探り得たりと自負する者より見れば
他の一貫せる主義より割り出せる臨機応変の処置も全然其意表に出
づるものゝ如く見ゆる場合が多い。而かも影でこそ米国が暴慢だの得手勝手だのと大言壮語すれ、自ら自分の言
動に確信がないから、結局彼の主張に引き擦られて行くではな○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
わも
○○。惟ふに彼等は始め米国の提議に壊するや、直に我を以て彼を推し、米も亦我と同じく西伯利に活動するこ
とに方針を改めたりと有頂天になつたものであらう。而して其後彼の意必しも我の如くならざるを見て意外の感
くるし
をなし、今尚其真意を捕捉し得ざるに周んで居るやうである。真意が分らないから如何して宜いのやら判らない。
斯くて我が外交は事毎に後手に廻る一方である。我国の単独の責任に帰すべき東亜の間違につきてすら、我国は
嘗て先手を打つていみじき成功を収めた例があるか。
仮令米国に先んぜられても、我にして若し米国の真意を了解し、又米国の主挿するが如き方針を取ることの真
の得失を識認して層ったなら、事後の活躍に於て裁から先手を打つことは決して困難ではなかつたと思ふ。蓋し
予輩の観る所を以てすれば、此際東亜の問蓮に閑し米国の主持するが如き方策を執ることは最も賢明なるやり方
浦塩出兵の断行と米国提議の真意
であると考ふるからである。斯く論定する所以の根拠は次の二点に在る○浦塩派兵は今日絶対に必要である○仮
令チェック族援助と云ふ問題が起らなくとも同地に貯蔵せらるゝ莫大なる軍需品を過激派の手より保護すること
は聯合軍全体にとりて極めて必要である。之は必しも過激派を敵視しての上の話ではない○過激派の手に渡つて
は之等の物資が敵国の用に供せられずと云ふことが保証されぬからである〇七月中旬に至り英が急遽香港の駐兵
を割き仏亦印度支那より若干兵員を割きて共に浦塩に送らんとすと云ふも畢写」の為めであらう○此点から云へ
ば今日を機として更に浦港の安全の為めに多少の出兵をなすと云ふことは決して無用のことではない○(第二)に
吾人は今日の場合浦港派兵以上に深入りすることは極めて慎むべきことに属する○尤も今度日本の決行せんとす
る鉄道沿線の派兵位は大したこともあるまいが、夫以1西伯利の内部に大兵を送ると云ふことにかれば、其結果
露国民其者と衝突するに至るの不祥事を発生せずとも限らない○之を避けんとけ息以上吾人は西伯利に於ける露
国民の中心勢力と常に連絡を取ることを怠つてはならない○然るに今日何処に確乎たる基礎を有する中心勢力が
ぁるか。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
○○。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○「○○○○○○○○○例のセミヲノフは未だ孤
立して居る。浦塩の西伯利政府と蛤爾賓の極東政府との反目の如きは支那の革命史に観るが如き醜状の暴露では
ないか。故に吾人は我国の出兵論が今日以上に歩を進むることは決して策の得たるものでないと確信する○西伯
利に於ける形勢の今後の推移が日本の此↓の出兵を要求するに至らざる以上、一部の盲目的侵略論者と共に百尺
竿頭更に一歩を進むることを政府に迫るのは、識らずして日本将来の国際的地位を非常の危地に墜すものなるこ
とを知らなければならぬ。不幸にして我層の政界には案外に此種の盲目論の多いのは悲むべきことである○敵を
知り己を知るは今日に於ても対外交渉の秘訣である○敵を知り己を知りて尚且大勢の帰趨を察するの明あらば、
う6う
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よし第一歩に於て米国に先んぜられても第二歩以下の行動に於て日本は優に東亜問題の一指導者たるを得べさ筈で
あつた。予輩は今度の出兵問題の始末についても、また歴代当局に共通なる帝国外交の一矢能心を発見せるを悲む
ものである。(七月二十日)
〔『中央公論』一九一人年八月〕
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恒久平和の実現と基督教の使命