無産政党問題追記


 どうせ出来るものなら、無産政党は全国的に統一されたものが唯一ツであつて欲しい。二つや三つになること
                                          すこぶ
はなるたけ避けたい。而して一たび二つ三つ出来てしまうと、後之を一つに纏めるといふことは頗る困難になる。
我々はとくに此事に注意して置くの必要がある。要するに政党は急いで作ると二つ三つに分れ易い。現に政治研
究会が分裂したの共産主義派に乗取られたのといふ噂があるでないか。先き頃新聞に見えた無産政党準備委員の
暫定綱領とやらを見ても、あゝした偏理突飛な主張に拘泥するのでは、政治家としての素質に富んだ人種之に参
加するを難んずるだらうと思はれる。感情から云つても、将来の代議士が政治に経験のない学校出だての政党幹
  い し
部の陳使に甘んずるだらうか。つまらぬ感情で動いてはいかぬと云つたつて事実がその通り行かねば仕方がない。
只問題は斯くの如く放任して可なるや否やにある。而してこれ実に無産政党運動の前途に取て重大の関係がある
のだ。枝葉の戦術に属する一小些事と謂はゞ云へ、全国的に統一された唯二の無産扱党を得んと欲せば此事断じ
て軽々に附して〔は〕いけない。故に日ふ、無産政党は決して其の結成を急ぐ可らず、而して無産階級代表の議員
が出来た上で彼等に其の仕事を一任せょと。
他日無産階級代表の政治家たらんとする者から観れば、政党は一日も早く出来た方がいゝ。殊に選挙に於て政
党のあるとないとが成功不成功に重大の関係がある。併し政治家一時の便息は以て無産階級永遠の利害を犠牲と








すべきではない。若し早く政党を作り其のカを以て選挙に臨まん乎、其の結果は政治家が目前の効果を挙ぐるに
急ぐのあまり、既成政党の忌むべき常套手段を依然踏襲して政界の腐敗を来すことがないだらうか。然うでない
とすれば、やがて選挙民の方が政治家の要求を煩累と感じて政治に対する熱情を冷却するに至るだらう。
                                            コネノ
就中私の最も憂ふる所は労働組合の政党化である。労働組合が政治運動をやる、之は竜も差支はない。けれど
                 と ひ
も労働組合が其儀政党となるは、都郡の百姓町人が進んで政争に没頭すると一般、百害あつて一利もない。労働
組合の支持をうくる無産政党の出来るは好ましいことだ。が、労働組合そのものが政党となつてはいけない。近
頃唱へらるゝ無産政党は、私の観る所に誤なくば、労働組合そのものを直接の踏台とするものらしい○是れ私が
特に無産政党の急速なふ結成に反対する所以である。(九・一一)
                                      〔『中央公論』一九二五年一〇月〕
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