〔『台湾青年』発刊への祝辞〕

小祭学兄
 此度、貴兄方が御発企で、各方面の有力者の御声援の下に、台湾に於ける文化開発の目的を以て、雑誌を御発
行になるとの事、誠に時宜に適した結構なる御企と存じます。殊に」今次の企てが、純台湾人の力を以て成り立
                                                              〔済〕
ったといふ事は、最も意味ある事と考へます。戦後世界を通じて、文化運動の潮流は杉浦として流れて居ります
ので、台湾の諸君も此潮流に取り残されて鼻如たるを得ざるは、怪むに足りません。只斯の種の運動は、個人の
                             ヽ ヽ ヽ
意識に於ても、民族の意識に於ても、自主的なものとならねば本当のものではありません。此点に於て、諸兄が
此度独力を以て奮起されたのは、大に多とせねばなりません。斯くしてこそ、諸君の運動は実質的の価値を有し、
従つて、又同胞多数島民の間に大なる感化影響を与ふることが出来るだらうと考へます。
 只此際世間の誤解を避くるため三自したい事は、独力を以てするといふ点です。此事は、内地人が諸君の運動
を評価する場合にも、又諸君自身が文化運動の方針を決める場合にも起り易い誤解ですから、自他共に呉々も注
意すべき事だと思ひます。
                  0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
 文化運動の本当の成功を見るには、深き歴史と民族性とに根砥すべきものですから、他民族が之を指導するな
どいふ事は、出来るものではありません。他民族の為し得る最高限は、該民族の文化の開発を誘発乃至助長する
                ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
だけです。夫れ以上の事は、その民族自身に任せねばなりません。我々は日本人として、台湾人諸君の文化の開
2
(ソ
つム












発を切望し、出来るなら、之を啓発助長して上げたいと切望してゐます。併し我々が常に率先して、之を指導す
べさものと考ふるならば、そは甚だ借越の沙汰と謂はねばなりません。台湾は日本の領土だから、従つて台湾人
は日本人だからとて、日本内地に生ひ立つた文化を共催台湾に植え付けんとするのは大なる誤りであります。而
して台湾には、如何なる文化が生長すべきものかは、台湾人諸君の能く知つてゐる所、又諸君の専ら為すべき所
であると考へます。
                         0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
 併し乍ら諸君が独力で此仕事をやるといふ事は、必しも根本的に内地人と協同せぬといふ事ではありません。
                                              ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
独立を解して反抗と観るのは浅薄な考へです。諸君の文化的に独立するのは、真に内地人と協同せんが為めです。
否、進んでは世界の多くの人と協同して、世界の文化の進歩に貢献せんが為めです。凡て協同の基礎は独立です。
                                     0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
独立なしの協同は盲従です。隷属です。我々は日本国民として、斯の如き隷属的民族の存在するを好みません。
台湾人が法律上日本国民として、我々と提携する前に、我々は、台湾人が先づ独立の文化民族たる事を要求しま
                                   0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
す。独立とは只法律上の命令者に反抗する事ではありません。独立の人格者たる事です。此意味に於て、我々は
諸君の今次の計劃を歓迎するものであります。
 私は今風邪で引籠つて居ります。詳しく書く積りでしたが、其れが出来ませんから、此文を草して祝辞に代へ
ます。

                                    〔『台湾青年』第一号、一九二〇年七月〕