無産党の村議会策
あいし
総選挙の結果二大政党の勢力殆んど相如き際どい所で村手方を陥れ様と暗中飛躍を競うて居る様な険悪な政情
士−さ 。 。 。 。
の下に在て、国民大衆の多大の期待と嘱望との許に送り出された無産政党の当に執るべき態度は」本来なら之等
朝野両党の醜き争奪戦に全然足を踏み入れず独自の立場を押して少しでも彼等を牽制する事であらねばならぬ。
いわゆる
更に詳しく云ふならば、(一)無産党は先づ所謂不信任案を中心として相関ふ政局両党の政争から断然超越するこ
とを必要とし、(二)次には之等の両党とは絶対に何等事前の協定に入るを避け以て原理的に既成政党に対しては
無条件的に不信なる旨の態度を明示すべきであり、(三)但だ国民の輿望を負うて議会政治に協動すべきの任を託
せられた以上個々現実の問題に就ては自家の立場に照して賛成すべきは賛成し反対すべきは反対すべきである。
(此場合例へば政府の提案が偶然に自家の持論に合するの故を以て之に賛成したりとせんに、之を以て政府の政
たす
策を賛けたと観るのは正しくない。結果に於て政府を賛けたことにはなる。餅し動機に於ては自家の所見を正直
に表示せるものに過ぎず、換言すれば端的に国民の意向を代弁せるに外ならずと謂ふべきである。又之を逆に、
かかわ ふさ
斯うした単純卒直な動機に基く限りに於て、無産党議貞の行動はその結果の如何に拘らず無産党人たるに応はし
いものと認められ得るとも云へる。)
議会政治を否認するのなら格別、此処に地歩を占めて結局理想実現の日を近きに期する以上、無産政党の何よ
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2
りも先に心掛くべき卑近の目標は一日も速に有力なる大政党として自らを発展さすことであらう。之が為には大
もと
に彼等の自重を必要とするは云ふまでもない。目標の到達の容易ならざるに業を煮やして軽挙妄動するは固より
慎むべく、又其の優勝なる地位を利用するに急いで既成政党の誘惑に乗り知らず識らずの間に自家の本領を没却
するが如きは最も警戒を要するものであらう。議会政治に現実の貢献を捧ぐるを心掛けつゝ本来の理想と使命と
に忠実なれば、今日の無産党は始めて多少の努力を以てして漸次国民大衆の間に其勢力を拡張し、遠からずして
大に政界に雄飛するの素地を作ることが出来るのである。
。
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2
二
しよ・つど・つ
近く開かるべき特別議会に於ては、多分政府不信任案が最も著しく国民の耳目を肇動することであらう。之に
。 。 。 。
付て私は前段に無産党は本来なら超然的能伽度を執るべきだと述べた。
こ
合は必ずしも這の原則に依り難いことを暗示したかつたからである。
むし
由に依り寧ろこの原則に依らざることを至当と信ずるからである。
。 。 。 。
滋に本来ならとことわつたのは、今度の場
換言すれば、私は今度の議会では特別の理
然らばどうすればいゝか。私は無産党の人達に向つて要求する、現政府を倒壊する為に最も有効なる方法を執
つて貰ひたいと。之は決して民政党をして代り立たしめたいから云ふのではない。結果に於て民政党を喜ばすこ
とになるのは気持のい、話ではないが、併し之を懸念して政府の徹底的札弾を疎略にするは亦余りに対価が高過
まいしん
ぎる。私は今日此際無産党の諸君に事後の結果の如何に拘らず現政府打倒の目標に向つて邁進せんことを要求す
るに、相当の理由あるを信ずるものである。
第一の理由は、現政府に対する国民の精神的支持に欠くる所あるを看取するからである。政友会の人達は云ふ
策
会
議
対
の
党
産
無
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だらう、解散前よりも党員は殖へたと、又差数は小さいが兎も角俺は第一党だと。成る程形だけから云へば政友
会の最大多数党たるに間違はない。故に外の国なら民衆は敢て政友会に引退を要求せぬであらう。所謂現代の憲
・つち
政は一人でも多い方に天下を取らすと云ふ仕組みの裡に動かすべからざる真理の伏在を信ずるものだからである。
併し我国にはこの原則の其優に適用さるるを許容し難い事情がある。何となれば我国に於ては由来選挙に不正手
段が公然として行はれ、投票の結果が必しも国民の意思の正直なる表白だとは認め難く、殊に政府側の陰陽両面
の干渉が敏に大なる効果を現はし妄には野党の数を不当に減じ他方には与党の数を不当に増すを例としたから
である。人はよく云ふ、我国では議会に多数を制したが故に政府を乗取るのではない政府を乗取つたが為に議会
に多数を刺し得たのだと。又云ふ、毎回の選挙に於て政府は与党の多数を期待し得るは勿論、中立と称するもの
の中にも単に政府に味方する丈けの議員を二三十名作ることは訳はないと。今度・の塵挙は普選の実施を見た結果
として事必ずしも従前通りには運ばなかつたらしい。それにしても政府の干渉庄迫の露骨で且つ猛烈であつたこ
も
とは隠れもない事実であり、それが亦著しく選挙の結果を動かして居る筈だから、若し政府党側の人達の云ふが
如く天下の輿望果して未だ政友会を去らざるものならば、その当選数はもツと〈多くなくてはならぬ道理だ。
伝ふる所に依れば、当初政友会は自党当選数を二宮二三十位に見込み相手の民政党には百人十位の見当を立てた
と云ふから、準政友会の中立議員には三四十の当選を臆算したものだらうと思はれる。事実斯うなつたとして、
成る程政府の圧倒的大勝利は争はれぬ訳になるが、国民の良心と緊密の関係のない「数」に重きを置かぬ我々の
眠からすれば、六七十の差があつて始めて両者に対する国民の精神的支持は先づ〈相等しいと想像してもよか
らうと思ふのである。故に今日の政局が明に示す様に、政府が幾多の利器を擁せるに拘らず野党に村し辛うじて
互角の勢を保つに過ぎざるは、また以て国民の精神的支持が如何に政友会を離れて居るかを証するものと詔ふベ
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きである。
猶ほ今度の選挙に中立候補の不振であつたことも、或は私の前説を裏書する一項目たるを得まいかと考へて居
る。今度の選挙の結果を表面的に受け容れて、我国政界の将来に所謂第三党第四党の発達の可能性を疑ふ人がな
しばら まか
いでない。無産党のことは姑く措くとして、我国の政界がこゝ暫くは政民両大政党の角逐に委せらるる形勢に在
るを前提としその是否得失の批評を為すものを開くのだが、実業同志会革新倶楽部其他の中立議員の運命が今度
の選挙ではツきり決まつたかの如く説かるるのは如何かと思ふ。私は二大政党が今日の如く腐敗堕落し全然国民
もつと
の信頼を失つて居る以上、中立団体の発達する余地はまだ〈あると考へる。尤も二大政党に代つて国民の利害
休戚を有効に代弁するものとしては更に一層将来に好望を寄せらるる無産政党がある。無産政党の外に所謂自由
あらぎ
主義団体と云ふが如きものの存立すべき永久的基礎ありやは大に疑なきに非るも、兎に角目下の所無産政党は僅
に揺藍時代を脱したばかりであり、この先き海のものとも山のものとも分らぬのだから、少くとも其が十分の発
な
達を示して呉れるまでの間は、中立団体は偽ほ相応に活躍し得るものと見なければなるまい。之等の点は尾崎氏
の運命並に鶴見氏の将来等の考察と共に詳しく述ぶるの必要を見るも、論いたづらに多岐にわたるを恐れて他日
に譲ることにする。要するに私は中立と云ふものの将来に付ては差当り左程悲観はしない、従て今次の選挙に於
しか
て中立の爾く不振なるは臨時特別の変態的現象であると考へるものである。
そんなら何故今度に限り中立候補は不振であつたのか。私の考ではその最も主要なる原因は国民の最大関心事
たる現内閣の運命の問題に付き彼等が甚だ曖昧なる態度を示したからに外ならぬ。政友会内閣の存続を許すべき
や否や、之が国民の前に置かれた大間邁なのである。不都合なのは政府党ばかりではない、既成政党はひとしく
督排斥すべきものであるとの論には、私も固より始めから同感である。併し今はそんな事は閑問題となつた。故
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策
会
議
村
の
党
産
無
なが
に既成政党には両つ乍ら愛想をつかして居る国民も、特に今度の選挙では、現に提起された実際問題につき的確
いつ いとま
の態度を示さざる限り、毎もの様に中立候補の理想論に耳傾くる達がなかつたのである。是れ中立候補不振の主
なる原因ではあるまいか。果して然りとすれば、こは他の一面に於て如何に国民が現政府の存続を苦としたかを
語るものと観てよからう。いづれにし〔て〕も政友会内閣の今日民間に不人気を極むるの事実は掩ひ難い。
や か・王
第二の理由は選挙に対する現政府の不当なる干渉である。尤も之は理論上無産党のみの八釜しく云ふべき問是
ではない。併し民政党は勿論、他の中立議員にした所で、自分自身が選挙に後暗いことをして居るのだから、真
に心の底から勇敢に選挙の公明を叫び得るものは、実はわが無産党を措いて他にないのである。故に無産党はこ
の点に於て堂々と国民大衆の要望を代弁し得る唯一の政団として大に任ずる所がなくてはならぬ。
今次の選挙に於て現政府が如何なる措置を取つたかは今更説くまでもあるまい・・。政友会の砲挿する政見の頑迷
固随なるは無論無産党の容認し得ざる所である。併し無産党の敵として戦はんとするものは、独り政友会に限る
のでない。民政党だつて同じ事ではないか。是れ無産党が既成政党をひとし並に排斥して常に独自の階級的立場
ゆ え ん
を主張せんとする所以である。只無産党は己に議会政治を主義として認め自ら之に協動するの積極的能伽度に出で
た、従つて彼は思想的には日常如何なる場合にも戦線を布くを辞せざるも、政治的には挑戦の機会を専ら議会に
於てすることに限局した。既に斯うした態度を執つた以上、無産党が適当に議会に代表さるることを要求するの
なか
は当然である。換言すれば、被れには選挙に際し無産党に対する国民の投票が何人に依ても妨害せらるること勿
らんことを要請するの権利がある。無産党の権利といへば軽く開へるが、之が実は憲政の正しい運用の根本原則
ゆが
なのである。之が若し不当に歪められる棟では、特定の選手に不当のハンディカップを附すると一般、競争して
の上の種々の諸規則が如何に厳格に守られても、結局に真の優劣の判断のつくものではない。先づ根本をたゞせ。
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否らざる限り、その上に発生せる一切の現象は全然合理的基礎を欠くものと謂はねばならぬ。この点に於て現政
府が国民の良心をふみにじり憲政の正しき発達を阻害したるの罪は案外に大きい。特に弾圧干渉が無産党に対し
て甚しかつたから爾く云ふのではない。
かぞ
現政府を政策の上から非難し之を不信任の理由に算ふる者がある。政友会が政策の上で無産政党と相容れざる
は云ふまでもない。併し之は政友会の根本的立場に着眼しての話だ。個々の問題を取れば無産党の所見と偶然的
一致を見ることの必しも絶無なるを期せぬ。只根本論としては政友会の所謂既成政党としての本質が到底新興無
産階級と相客るるものでないことを認めない訳には行かない。が、此事を云ふなら民政党だつて同じ事だ。之も
亦既成政党としての本質に於ては竜も政友会と異る所はないのである。政友会と民政党とがどんなに烈しく互に
しのぎ
政権争奪の鏑を削つても、無産党から観れば要するに同じ穴の狸に過ぎぬ。故に政策の点を以て議論の中心とす
るなら、吾人は特にひとり政友会を斥くべしとするの理由を見出し得ぬ。この点だけを着眼する限り、尾崎行雄
氏の如く朝野両党の争から絶対に起伏…たらんとするのも正しい態度だと許せる。
併し今日我々の眼前に置かれた問題はそんな枝葉な事柄ではない、もツと根本的な処に批判の利刃を振はんこ
とを国民は屡求して居る。是れ今日の民衆が尾崎氏の態度を諒としつ、も之を以て迂愚の見と烙印し、一歩を進
や
めて・現内閣の倒壊に無産党の全的協力を求めて楓まざる所以である。但し之を国民が民政党の大政掌握を希望し
て居るの証左と誤解されては困る。結果は民政党の進出の実現となりて現はるるかも知れぬが、国民大衆として
は只現内閣の失行に対する秋霜烈日の批判を表明すればい、ので、結果の如きは初めから顧慮する所ではないの
だ。
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策
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無
三
現内閣の打倒が当面の急務だと決まれば、特別議会に於ける無産党の活動の大方針は、無産政党としての本質
あ亡つ
を傷けざる限りに於て、右の目的を到達するに最も有効なる凡ゆる手段を執ることでなければならぬ○この点に
価て無産党の人達が民政党の或は提出することあるべき政府不信任案の通過に合流助勢すべきを第一に協定した
のは、最も聡明なる態度だと謂へる。
之より先き無産政党の陣営内には所謂「独自の不信任案」説なるものがあつた。日く我々は政友会にのみ反対
ことこと
なのではない、既成政党とは悪く相容れないのだ、故に政友会を墜さんとして民政党に追随するのは面白くない
すなわ
と。乃ち彼等は広く既成政党と相容れざる階級的立場を固守して独自の不信任案を出さうと云ふのである。併し
すべか
乍ら若しその所謂階級的立場を固守するに忠実ならんと欲せば、頼らく朝野両党に鋒を向くべきではないか。民
政党に追随するを肯とせざる迄はいゝが、特に独り政友会内閣を斥くべしとする根拠はない。故にこの論は一見
〔軌〕 しかのみならで
無産党的良心の正直なる発露の如く見えて、その実全然政治的規道を逸脱せる迂愚の空論である。加之議院内
の式例から云ても、独自の不信任案なるものの成立し得べきものか否かは初めから分つて居る。斯かる机上の空
たと え
論が結局完全に葬り去られたのは私共の大に満足に思ふ所だが、仮令暫くの間でも、斯かる妄謬の見が若干有力
なる人々によりて主張されたことは、無産党の名誉の為めに大に遺憾とせざるを得ない。
ついで
序ながら云ふ、無産党内に於ける「独自不信任案」の説は実は政友会側の策動の結果に外ならぬと云ふ風説が
あつた。政友会が果して斯かる巧妙なる魔手を弄したか否かは知らないが、所謂「独自不信任案」説の採用が政
府倒壊の大潮流を分裁し、結局に於て不信任案を不成功に終らしむべきものであることは疑を容れない。故に一
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時社会民衆党の一角に這の謬説の行はれたとさ、世人が一斉に之を難じたと同時に、或は政府との間に隠れたる
あなが
連絡みるに非るかを疑つたのは、強ち理由のないことではない。
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無産党が民政党の提出することあるべき政府不信任案に賛成するのは元その独自の見地よりするものであつて、
斯くて現政府を倒すに成功せば完全に所期の目的を達せるを喜ぶべく、不幸にして成功しなかつたとしてもそが、
いささ
当然に為すべきを為せる点ペ於て些価満足するを得べきである。而して無産党が、既成政党に依て挙げられたる
当面の政争に概括的に干与すべき限界は、之を以て尽き、それ以上に深入りすることは無産党の無産党たる本領
たまた士▲
を傷ける恐れがある。個々の具体的提案につき無産党の宿論が既成政党の所見と偶々一致せるの結果、その賛否
の票決が時に或る一方の党派の立場を有利に展開することはあらう。之を外にしては無産政党は差当り既成政党
の親方を同様に敵とし戦はねばならぬ地位にある。之等の点を更に一層細かに論ずるなら、極端なる階級観を持
いず
する者と否らざる者との間に多少意見の隔りあるを認めねばならぬが、其の孰れの立場を執るにしても、差当り
の方策として無産党は現下の朝野両党の政戦に対して断じて偏頗の態度を示してはならぬ。議論としては云ふま
でもないことだが、最近の実状を見て私はこの点に多少の懸念をもたぬでない。
無産党の一角に政友会と何等か連絡あるらしいとの風説を開くは私の最も不快に思ふ所である。政友会の魔手
すこ
がどれ丈け動いても、之が些しでも政界に実際的効果を顕はすべしとは無産党の名誉の為めに之を信じたくない。
たの
且つそれが無産党の側から働き掛けたことにしても、既成政党を悼み得べしとすることが既に一つの大なる錯覚
たるを知らねばならぬ。此点に於ては村手の政友会たると民政党たるとは閏ふ所でない。故を以て社会民衆党が
ノ
」
野党聯合協議会を提唱せるが如きも亦、一部の推測の如く動機の不純をまで疑ふは失当ならんも、決して時宜に
適した措置とは云へない。無産政党は未来永劫既成政党と何等の連繋を策すべからざるものか否かは人に依て異
見があらう。少くとも今日の所では、既成政党の過去の経歴と業績とは極めて明白にそが断じて無産階級の友た
らざることを示して居る。此点では、理由は別だが、日労党や労農党の駁議に現はれた結論の方が正しい○猶ほ
序を以て、野党聯合協議会といふが如きは実際政治の見地からすれば実は出来ない相談だといふことをも、三日
附け如へておく。
〔『中央公論』一九二八年五月〕
策
会
議
村
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党
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無
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