無産諸政党は近き将来に共同戦線を張るだらうか


                                        な
 今度の府県会議貞選挙の結果を彼れ是れと批評して、この背き経験を嘗めた以上各無産政党も今更ながら内輪
喧嘩の損なことを痛感し早晩情実を排して包括的共同戦線を張るに至るだらうと論ずるものがある。内部の反目
        もと                                あた
を警むるの声は固より昨今はじめて唱へられたのではない。殊に選挙の直前に方つてはこの点頗るやかましく説
かれたのだが、四分五裂の形勢は一朝一夕の事でなかつたものと見え、部分的の選挙協定すらが殆んど出来なか
つたやうだ。之が無産政党不振の一原因であり、殊に今次の経験が何等か斯種の協定ありたらんには必ずやもツ
と多くの収穫ありたるべきを思はしめたとすれば、局外者がこ、に漸く提携協同の機運の到来を想像するは怪む
       いわ
に足らない。況んや共同戦線の必要は多くの無産政党が亦自ら熱心に主張する所たるに於てをや。然らば今次の
経験は果してよくこの機運を作るだらうか。二三の新聞にはその意味の試みが既に己に始められて居る様にも書
いてあつたが、私はどうも之を信ずることが出来ない。局外の冷静なる観察を以て判断するに、さうした協同提
携の一機運は今のところ尭末も動いて居ない様に考へられる。
 私共は先づ今日の無産政党が四分五裂したに就ては其の由来する所決して一潮一夕でないことを知らねばなら
ぬ。冷静なる批判としては其間に是非善悪の別を説くの余地なきに非るも、深く事情の推移を洞察して同情を以
て之を観るとき、亦大に之を諒とすべき理由もある様だ。故に私共は、永く故なき反目を続けることを遺憾とし
つゝも、猶ほ彼等が反目の結果として蒙る少し位の損害に屈せず、頑然提携協同に歩武を進めないのに格別の不
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ユノ
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平を有つものでもない。寧ろ何かと云ふと軽々しく提携協同を促がす世上一部の論客に対して、心中ひそかにそ
の観察のあまりに浅薄なるを蔑んだ位である。私は固より今日の状態をい、と許すのではない。併し物の改善に
は自ら順序がある。相当の基礎工事が出来なくては、上層の粉飾だけにカを注いでも駄目だ。無産諸政党の今日
の状態を其偉い、とするのでは固より無いが、軽々しく共同戦線に急ぐの危険を私は却て従来種々の機会に於て
                                      しばら
説いたのであつた。今の佳では斯うあるより外に致方のないのかも知れぬ。議論は姑く別として、要するに今日
の実際に於て、各無産政党間に共同戦線の機運の竜も熟して居ないことは疑ない。この点に関して今次の選挙に
於ける苦い経験は、世人の安価に期待する如く、各政党指導者の頑強なる割拠的精神を融和する上には、殆んど
何の役にも立たなかつた様である。
 然らば我国の無産政党はいつまでも今日の四分五裂の状況を続け、結局ブルジョア政党に漁夫の利を占められ
る運命にあるのだらうか。尤も無産政党の人達自身は云ふだらう、今に見ろ、俺達が天下を風靡するの時が来る
からと。当の本人には勝手な熱を吹かしておけ。局外の第三者たる私共は、斯くまで相排し相陥れて無用の紛争
       ぅち                     きようこ
に精力を浪費する裡からは、決して無産大衆の其の後援を頼みとする筆固なる政治勢力は生れて来ないと考へる。
必しもすべての政党が渾然たる一体を為すことを必要とはしないが、モ少し無産政党間に有機的な友誼関係が成
り立ち得ぬものだらうか。現在の様な醜い内争に没頭して居る様では、無産階級の政治運動の前途には何等の光
                も
明をも認め得ない。之が若し無産諸政党の指導者達の心なき我偉から来るものだとすれば、我々無産大衆こそ飛
んだ迷惑を蒙るものではないか。
 併し結局は協同提携も出来るだらう、又之を出かす棟勉めなくてはならぬ。而して私の考へでは、之を出かす
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為には少くとも次の三点に於てモ少し変つた行き方が現はれねばならぬと考へる。即ち左記三項の改善を最少限
度の条件として、始めて無産政党の正しい連繋関係は、新しい光明の途を踏み進むものと思ふのである。
 第一は独尊的絶対主義が理論上地葉さるることである。ロシアの影響を受けてか、最近の我国には斯うした理
論が不思議に存在を許されて居る。否、社会の一角には狭い範囲ながら相当に之が抜底して居るとさへ云ひ得る。
即ち反対論の存在を許さないのである。人に向つてイエスかノーかの明確なる返事を求むるのである。ロシア本
国に於て六十万そこ〈の共産党貝が一億四千万の大衆を立派に支配して往く故智にならひ、主張と実行とを一
図に押し進めて改革を急がうと云ふのである。この態度方針を理論づける為めに私の所謂独尊的絶対主義が生れ
る。やり方の実質に於て之はかのフアシナシズムと全然揆を一にするものだが、只表面に強制圧迫の看板を掛け
ぬだけ、同じ目的を達する為に彼等は第一に所謂教育の手段を執る。たゞその教育たるや、自由の精神に基き民
衆良能の闊達な開発をはかるのではなくして、その精神を〓疋の方向に固着せしめようとはかるのである。名は
教育といふも実は宣伝に外ならぬ。た三旦伝の為に説き立つ滝手前味噌を粉飾するに、極めて巧緻なる科学的真
理の仮面を載ツける所に近代的の利口さを見せて居る。この点はかの旧幕時代の教育が人智開発の名の下に時の
政府を有り難い〈と妄信せしむるに成功したのと異曲同巧である。斯う局外から冷静な批評を下して見れば何
でもない様だが、今日の実際につき無産諸政党の人達の間に斯んな見解を真面目に信奉して居る人の如何に多い
           けだ
かを考へて見たなら、蓋し思ひ半ばに過ぎるものがあらう。
            にせ
 俺のみが正しく他は骨贋ものだと考ふる類の人は外にもある。併しわが独尊的絶対主義の連中は斯く妄想して
ょろこんで居るば価りでは満足せず、更に進んで御丁寧にも斯うした考を人にも押しっけ、傍若無人に之で突進
することに正義が存すると説くのだから堪らない。斯うした考が之れまで如何に無産陣営内部の平和を害し、時
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 ヽ一

ヽハノ














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としてまたその主張者達の間をも如何に紛乱せしめたかは、今詳説するを避けようが、要するに、之を振り廻す
もののある以上、・無産政党間に此の提携協同の見込なきは明白である。一方が他方に完全に降伏しない限り、当
分のところ彼等の関係は先づ永久の闘争であると見なければなるまい。
 第二はもツとフェア・プレーの精神が起らねばならぬと思ふ。前記の所謂独尊的絶対主義が理論上地棄され銘
々の立場の対立が承薗づれたとしても、感情の上で自ら高しとして小さい所に面目を押し立てようとする者があ
つては、矢張り提携協同の実はあがり得ぬ。今日の無産政党にこの点がまた頗る訓練を欠いて居るの危惧は、比
較的穏和な立場を取る者の間にも協同の歩調が甚だ取り憎いと云ふ事実に観ても現はれて居る。僧ずる所あつて
                                    士▲
或る立場を執つた以上、之を主張するに於て一歩も柾ぐべからざるは云ふを待たない。けれども同時に他の立場
を執る者に対しては、争ふべきを大に争ひつゝも、亦之に相当の敬意を表するを忘れてはならないと思ふ。他を
                                       ゆえん
尊敬し謙遜してその説にも耳を傾くるはつまり自らをより良きに向上せしめる所以である。向上発展に熱意ある
ものは、一旦執つた立場にいつまでも拘泥はせぬものだ。こ、から所謂フェア・プレーの美徳は生れるのだ。斯
うした訓練が始めから利権の争奪を目途として起つた既成政党に求むべからざるは怪むに足らずとして、単純に
無産大衆の利福の為に起つた人達の間に、大局を達観して共に公に奉ずることがどうしても出来ぬとは、余りに
腑甲斐ない事ではないか。
 第三に私は最も実際的な問題として今日の無産政党の専制組織の地棄を希望する。今日の無産政党は、幹部中
心の専制組織なるの点に於て、竜も既成政党と異る所はない。その為に党全体の運命が之等少数幹部の気分如何
に依つて勝手に左右されて居る棟であるd斯く云へば或はその当事者達から叱かられるかも知らぬが、私をして
感ずるが俵を忌悍なく云はしむれば、今日の無産政党の四分五裂の原因には、たしかに二三幹部間の感情の阻隔
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と云ふ事が伏在すると考へる。感情の阻隔が四分五裂の直接原因だといふのは言ひ過ぜかも知れぬが、それが重
なる原因の一つであり、少くともそれが無かつたら四分五裂が或は防ぎ得たかも知れぬと云ふ様な場合はたしか
にあると思ふ。果して然らば彼等少数者の我優に依て重大な運命のきめらる、無産大衆こそいゝ迷惑だ。見よ、
今日我国の無産大衆に三つも四つもの政党に分れねばならぬ実質的必要は何処にあるか。無産大衆はいづれを見
ても皆親愛なる同胞である。到底彼れと和すべからずとする事情はひとり少数幹部のみに存するのではないか。
而して我国の政党が依然幹部本位の専制組織なる以上、無産諸政党の間に包括的なる提携協同の成る可からざる
      み
は火を謄るよりも明瞭である。
 然り、大衆には何等分立せねばならぬ理由はない。故に彼等大衆が完全に党の統制監督権を掌握するか或は少
くとも現在の幹部の大部分を放逐するか二者その一に出でずんば、共同戦線の張らるる見込は絶対にないやうだ。
繰り返して云ふ、大衆には分立対抗を持続すべき理由は竜未もない。その当然現はるべき提携協同を妨げて居る
のは少数幹部の感情問題である。感情問題であるだけ、表立つて之を述べ立てれば下らぬ事柄だが、実際問題と
                 むず
してはその処置頗る六かしい。私は到底之を当該本人に求むべからざるを思ふが故に、彼等の自発的にか又は他
動的にか引退するまでは、容易に希望の実現を見得まいと考へるのである。
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 之等の事を思ひ合はすると、孰れにしても無産政党間に近き将来に於て有力なる共同戦線の張らるる見込のな
いことだけは明白だ。既成政党は尚ほ姑くは枕を高うして惰眠を貪りて可、ひとり純良なる天下の大衆は■」更に
いつまで好餌に釣られて当途もなき悪路を辿らねばならぬのか。甚だ心細き次第である。
                                         〔『中央公論』一九二七年叫一月〕