朝鮮の農民
朝鮮に二十年も居つて農業を経営してゐる友人の手紙の中にこんなものがある。
「朝鮮の農民は年々貧乏になりまさるのみです。
「総督府では朝鮮全道にわたり一郡村も洩さず金融組合と申す高利貸機関を設けてくれました。之はもともと農業資金を与へて貧困なる農民を救済するといふ趣旨のものでせうが金利は驚くべし抵当貸付に在て日歩四銭五厘、延滞利子五銭八厘、また信用貸付に在ては五銭八厘、延滞日歩六銭五厘といふ高率です。金を借りるには一口拾円以上の出資をして組合員にならねばなりませんから、本当の貧乏人は実の所絶対に寄り附けません。貸付金額は普通五十円乃至二百円程度ですが、抵当貸付には一人信用貸付には二人の連帯保証人がいります。猶借りるときに色々の名義で若干の手数料も取られます。さて愈弁済期が来ますと組合の役員は田舎に出掛けて居催促をやります。返せる見込は無論ありません。そこで田畑は勿論のこと、家屋から耕牛まで取り上げられます。組合の役員は自分の成績さへあがればいゝので、組合員が困らうが困るまいが頓着がありません。組合の決算期に近づくといつも私共の眼に映ずる事一から十まで不快でないものはありません。
「地方庁の技術員即ち農業技手は田舎を巡廻して盛に金肥の奨励をして居ります。農民には固より之を買入るゝ丈の資金がありませんが、技手等は商人と結托して肥料の前貸をさせます。そして殆んど強制的に之を使用せしめてゐます。肥料代金には月に三分の利子を徴するのが普通ですが、之が秋の収穫期になると有無を云はせず取られます。農民に残る所極めて少いことは御話の外です。
「斯んな風で朝鮮農民はとても浮ぶ瀬がありません。彼等が年と共に貧困に陥るのは単に彼等の無智なるが為ばかりではありません。内地の人々にも能くこの事を考へて頂きたいと思ひます。
〔『文化の基礎』一九二五年九月〕