朝鮮農民の生活



二十年あまり朝鮮に土着して農業を営んで居る友人から受取つた最近の音信の一節に次の様な文字がある。
  朝鮮はたしかに年と共によくなつて来て居ります。昨今の各種産業の発達は素晴らしいものです。特に蚕
 業の進歩が著しく目につきます。⊥」の分で進めば百万石の産繭も速いことではないでせう。之に伴つてまた
 製糸会社も出来はじめました。工賃が安いから、朝鮮での製糸業が有望なことは云ふまでもありません。
  併しこの産業の発達の結果は、富める者を益々富ましむるに役立ちますが、一般の貧乏人には恩恵はちつ
 とも廻りません。否却つて物価の騰貴の為に前よりも困ることがなからうかと思はれます。当節朝鮮の田舎
 では、人夫一日の賃銀は、男は最高壱円より最低五十銭まで、女は三十銭より二十銭までです。之れで彼等
 は自ら食ひ係累を養ひ又衣類をも作らねばなりません。働いても働いても追ツ付かないのです。而も彼等は
 何の不平もなく黙々として働いて居ります。一所に働いて居て私は、日本人たることの幸福をつくぐ感謝
                いつきく
 すると共に、彼等の為にまた一掬の涙なきを得ません。
  朝鮮人の幸福の為の企業家は居ないものでせうか。産業発達を朝鮮人の幸福の為に専ら貢献せしむるやう
 な方策は立て得ないものでせうか。……
 之を読んで私は、朝鮮の産業間題の前途が二重の難関に直面して居ることを、今更ながら痛感せざるを得ない。
朝鮮農民にまだ階級的の目醒めが来ないからとて安心してはいけない。遠からずして起るべき労働問題は、更に







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険悪なる」民族山間題の・介入に依て一層尖鋭にさるることはなからうか。朝鮮は内地人の利権をあさる所としてのみ
経営すべきものではあるまい。

                               〔『中央公論』一九二六年一二月「小選雑感」 のうち〕