無産政党問題に対する吾人の態度
度
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の
人
吾
る
す
村
に
題
間
党
政
産
無
無産政党間題に関する二三の質問 多くの読者より最近無産政党間題に関して質問を受けた。昨今問題になつ
て居る無産政党準備運動に筆者も関係して居るかといふのが一つ、少くとも結成の出来た暁無論之に参加して熱
心に尽力するだらうといふのが一つ、最も多数の質問は自分達も当然之に加入すべきものと思ふが如何といふの
であつた。之に対する私の宿論を卒直に述ぶれば、第一に無産政党は急いで作るべきものでない、第二に出来て
も無暗に之に加入すべきものでない、従て第三に自分は差当り右の運動に関係し七居ないが恐らく将来も関係せ
ぬであらうと云ふに帰する。
と云ふと如何にも無産政党に同情のない言ひ方の様だが其実決してさうではない。私は無産政党の発生を心か
き ばう
ら巽望する一人である。共の健全なる発達は私の最も焦心する所である。それだから私は一個の国民として無産
政党に直接の関係を有たぬ様にと戒心するのである。この点を明にするのがこの小篇の目的である。
しばら
無産階級運動と無産政党との別 無産階級運動とは何ぞと云ふが如き細目の学究的説明は始く措く。無産階級
の撞頭と其の自覚に基ける各種の運動は将来の社会に対する一光明として無条件に之を助成すべきものなること
を私は先づ許してかゝる。さて無産政党運動は所謂無産階級運動の一分派には相違ないが本来はその目的を逢す
おのすか
る一手段として存在するものに過ぎぬ。此点に於て政党運動は自ら其の運用に条件の附せられないわけには行か
ゆえん いわ
ぬ。是れ無産政党運動がその俵直に無産階級の為の運動として無条件の承認を要請し難しといふ所以である。況
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ヂカルにする。而して境遇は人を保守的にする。滋にうまく釣合の取れる所に健全な進歩がある。実の虚無党的
兇暴は全く境遇の産物なりといふ西諺は実に味のある教訓である。
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
果して然らば本問題の根本的対策が青年の境遇改善の外に絶対に途のないことは明であらう。斯の立場から
つ′りつら
熱々当今の形勢を見ると実に寒心に堪へぬものが多い。金なくば緑な勉強も出来ぬ。あつても入学試験の難関を
如何せん。うまく第一関門を通ても第二第三の難関は常に若い心を極度に不安ならしめる。数へ挙げれば際限も
さ てつ
ないが、要するに当今の青年は人世の大事な時節を危惧不安に襲はれ通しで暮す。若し夫れ∵日一身中で踵映する
ことあらん乎、彼の前途は忽ち暗黒となる。斯うした陰惨な境地に投ぜられて青年の心状が如何の傾向をとるか
。
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ノ
は智者を待たずして明であらう。
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すべか
青年の思想を憂ふる者は須らく先づ此点に思を致すの必要があると思ふ。
〔『中央公論』一九二五年一月「巻頭言」〕
虔
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益産政党間遂に対する吾人の能違 / 血
無産政党間霧に関する二三の質問 多くの読者より最近無産政党間題に関して質問を受けた。昨今間違になつ
て居る無産政党準備運動に筆者も関係して居るかといふのが一つ、少くとも結成の出来た暁無論之に参加して熱
心に尽力するだらうといふのが一つ、最も多数の質問は自分達も当然之に加入すべきものと思ふが如何といふの
であつた。之に対する私の宿論を卒直に述ぶれば、第一に無産政党は急いで作るべきものでない、第二に出来て
も無暗に之に加入すべきものでない、従て第三に自分は差当り右の運動に関係uで居ないが恐らく将来も関係せ
ぬであらうと云ふに帰する。
と云ふと如何にも無産政党に同情のない言ひ方の様だが其実決してさうではない。私は無産政党の発生を心か
き ばう・
ら巽望する一人であ−たノ其の健全なる発達は私の最も焦心する所である。それだから私は一個の国民として無産
政党に直接の関係を有たぬ様にと戒心するのである。この点を明にするのがこの小篇の目的である。
しばら
無産階級運動と無産政党との別 無産階級運動とは何ぞと云ふが如き細目の学究的説明は姑く措く。無産階級
の撞頭と其の自覚に基ける各種の運動は将来の社会に対する一光明として無条件に之を助成すべきものなること
を私は先づ許してかゝる。さて無産政党運動は所謂無産階級運動の一分派には相違ないが本来はその目的を達す
おのすか
る一手段として存在するものに過ぎぬ。此点に於て政党運動は自ら其の運用に条件の附せられないわけには行か
ゆえん いわ
ぬ。是れ無産政党運動がその佳直に無産階級の為の運動として無条件の承認を要請し難しといふ所以である。況
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やや
んや無産政党運動は政党運動としての本質上動もすれば無産階級の本筋より脱しがちの▼ものなるに於てをや。
無産政党運動はなぜ無産階級運動の本筋より脱し勝のも〔の〕と云はれるか。其の主たる理由は二つある。一は
政党運動止しての本質上其の主張に時に応じて種々の妥協が余儀なくさるこ」とであるひ出来合ひの衣物の様に
実際の事情に応じて多少の切り盛りを許さぬのでは政党運動にはならぬ。が、何処ぜでが許し得べき妥協である
かの見定めがなか〈困難だ。頑強に過ぐれば政界の落伍者たるを免れず、伸縮自在に過ぐれば遂に脱け難い堕
落の淵に陥る戯があるご衰共に頗る無産政党運動のあやまり易さ所と謂はねばならぬ。第二は多少の妥協を必
すこぶ
要とする結果、主義政綱の具体的声明に分派を生じ易く、従て全体を一つの意見にまとめることが困難になるこ
とである。而して政党運動として本質上之等の分派はまたブルジョア政派に対抗して協同動作に出づるの必要も
大にあるのだが、そこがうまく行くかが問題である。手短にいへば、分れて而して合するといふ六つかしい芸当
が要求さるゝのだが、問題は其分るゝや公明正大の進退を期し得るや否や又合すべき必要の起つたとき小異をす
ただ いたず
て、大同に合するの雅量を示すや否やにか、る。此点をうまくやらないと、膏に無産階級の要求を徒らに無効に
終らしむるに留まらず、時として敵の乗ずるにまかせて結局社会の進運を停滞せしむることなしとせぬ。斯う考
へて見ると、・無産政党運動は無産階級に取つては勿論のこと社会一般の発達の上にも大切なものではあるが、舵
かえつ
の取町棟如何に依ては却て可なりの弊害を来さぬとも限らぬものである○
然らば之等の弊害を防ぐ方法はないか。ある。唯一つある。所謂民衆的監督がそれだ。而して民衆は実に監督
者であるべきものなるが故に政党に直接の関係をもつてはいけないと私はいふのである。
〉民衆と政党との関係民衆と政党との関係に就て黎之れまで各種の機A頂述べた所は其俵無産政党の場合に
もあてはまる。私は従来政党は政治家の作るものであつて、政治専門家でない一般民衆は之に加入すべきでない
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と説いた。民衆が政党に加入すると、政党に取て所謂地盤なるものが出来、一方には地盤のあるのに安心して立
派な政治をするといふ熱誠がゆるみ、他方には地盤の維持開拓のために種々の腐敗行為を敢てするに至ると説い
た。若し我々一般民衆が政党に対して超然たる態度を維持し何れにもあれ良い方に賛成すると構へて居れば、各
政党は之等の投票を得る為に嫌が応でもよい事を為すに競争せざるを得ぬことになる。政党を潔め政界の健全な
る発達を期する唯一の良法は実に民衆一般の超然的態度に在りと主張して来たのであつた。この主張はいま無産
いささか
政党間題を論ずるに当ても些の変更の必要を認めない。
前にも述べた通り、無産政党の前途には幾多の暗礁がある。此暗礁をうまく乗り切つて正しさ針路を踏み外
きつと
さゞらしめんが為にはどうしても第三者の監視が要る。外部の批評と助言とがなければ吃度間違をやるにきまつ
わい
て居る。而して此大切な役月を為すものは実に民衆を措て外にない。故に民衆掛ぎしまでも厳正中立を守らなけ
ればならぬ。断じて特殊の政党と腐れ縁を結んではいけない。之がまた本当に政党を活かす所以でもある。
また政党に取つても斯うした超然的態度は本来決して不利益ではない筈だ。今まで地盤ときまつたものが今度
は当にならぬことになるのだから一見非常に不利のやうにも見へやうが、自分を離れた民衆が必しも敵党に鞍替
するとは限らない。従来のやうに盲目的に或党に投票するのではない。能く考へて良い方を翼賛しやうといふの
●
だから、今まで陰険悪辣な方法で民衆を瞞着して居たものでない限り、少しも心配は入らぬ筈である。却て敵の
〔政〕
党を離れた民衆の投票が自分の方に来ぬとも限トない。自信のある敵党に取て何の不安もない筈である。却て事
前の約束は当にならぬことにはなつたが良い事をしさへすれば幾らでも民衆的同情は殖へるといふ見込はあるで
はないか。斯うなると始めて政党も自然に良くなり社会の健全なる進歩も期せらる、のだ。故に私は繰返して云
ふ、民衆の超然的態度は政党の為に同時にまた社会の為に其の向上発達の不可欠条件だと。私が民衆に向つて無
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産政党に関係するなと勧也るのを以て一概に政党に同情なきの言とされては困る。
ここ
斯く論ずると滋に一つの反対説を立つるものがあるかも知れぬ。即ち私の説が民衆と政治家とを始めから分け
て考へて居るのを指摘し之を根本の誤謬と論ずるものがあるかも知れぬ。政治家などといふ特殊の支配階級を認
めるから民衆が彼等の弄ぶ所となるのだ。政治は民衆の仕事だ、政治家は民衆の指揮の下に犬馬の労を取る代弁
者に過ぎざる筈のものだ。斯の理を押して行けば始めて政治家をして真に民衆の用を為さしむることが出来る。
而して此計的を達する為に民衆の政党が必要になるといふのである。斯う云ふ考方は昨今相当に盛のやうだが、
実は之が根本の謬見であると思ふ。腹の痛い痺いは患者本人に開かねば分らぬ。併し如何して之を癒すかは医者
でなくては分らない。従釆の医者は患者を見もせず勝手に投薬したので、遂に民衆は其無責任を憤り医者無用論
を唱へ、甚しきは自分で医療のことが分るやうな気にも一時はなつたのだが、本当のところは矢張り医者に頼ま
なくては分らぬのである。只閏貰はその医者が絶へず誠実に患者と連絡を取て居るか否かに在る。政治に於ける
亦然りで、従来の政治家が頼むに足らざりしとて一槻に之を斥けるのは専門の智識なくして勝手に薬を手盛りす
る様なものである。政治は政治家にまかせる。只民衆は厳に其の監視を怠らない。之が理想的の状況だ。而して
政党は政治家の作るべきもので民衆は直療に之に与るべからずとする論拠も亦実にここに在る。
するとまた斯く論ずる人があるかも知れない。君の説の如きは無産階級政治運動の相当に発達した上ならい、。
たと え
今は仝民衆結束のカを以てブルジョアの金城鉄壁に当るべき時だ。仮令それが正則でないにしても、敵の堅塁を
倒す迄の繋ぎとして無産階級の仝衆を結束するの必要はあると。一応尤もの様だが、少しく綿密に考へて点ると
〔足〕
直ぐ是亦空言採るに取らぬ所以が分るだらう。
ヽ ヽ ヽ ヽ
明治初期政治運動の経験 之に付て想起すは明治初期の政治運動である。当町民間政客の旗職たる藩閥打破は
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正に今日の社会改造であつた。あの頃の藩閥の勢力と蛮勇とはとても今日のブルジョア階級の如きものではなか
った。この金城鉄壁に当るには一人でも多くのカを結束するの必要ありとして、地方の豪紳は先輩の勧誘に応じ
て進んで政党に加入するの責務を感じたが、其の結果ははたしてどうであつたか。「国民自由の権利」の為と操
起した彼等が第一に迷つたのは同じ目的を有する政党が二つも三つもあつたことだ。第二に迷つたのは其等の政
党が互に烈しく反目してゐたことであつた。政党が二つ以上あるといふ事実が既に自ら民衆の超然的態度を要求
するものだのに、当時識者はこゝに気附かず、各々好む所に依て入党を強いたので、無垢の民衆までが遂に党簿
を異にするに由て烈しく反目する様になつた。斯ういふ所から我国の政治史は吾人に二重の苦き経験を訓へて居
る。一は民衆の超然的態度を棄てしめたが為に政党そのものゝ健全なる発達を妨げたことで、も一つは早くより
反目の勢をなしたが為に藩閥に対する威力も案外強からず又不当の方法を以てする・に非れば全般的結束を見難き
の風を馴致したことである。之等の弊に懲りたればこそ今日更始一新の政を行ひたいなどといふのではないか。
然るに今また同じ誤りを繰返さんとするは何事ぞ。無産政党だけはせめて踏み出しの第一歩から純正公明のもの
であらしめたいと思ふのである。
無産政党結成の順序 無産階級の民衆は原則として政党に関係す可らずといへば無産政党は如何にして発生し
得るか。私の考としては、無産政党は決して作るべきものではない。少くと絹急いで作るべきものではないと信
書もいnソ
ずる。昨今新聞の報ずる所に依ると、日本農民組合共他の肝煎で此秋には無産政党の出来さうな勢が見える。新
開の社説などにも普選の実施を見てなほ無産政党の出来ないのはどうしたものかと、暗にプロレタリアートを煽
動するが如き論も見える。私の考では政治運動は大に起つてよし又起らないのが嘘だと思ふが、政党の結成には
機未だ熟して居ず、機に先じて之を作れば必ず其結果が面白くあるまいと思ふのである。
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政党を作れば政綱も定まる。政綱の走ることは夫れ丈門戸を狭くすることだ。人は感情の動物である。政党既
は い
に成立して幹部の顔触等が定まると、後に代議士にでもなつたものは主義立場を同うしても一寸それに這入り難
いといふこともあるのだ。要するに早く政党を作るといふことは門戸の狭き沢山の党派を分立せしめる恐れがあ
る。他日必要が起つても其の結束を甚だ困難ならしむる恐れが大にある。
故に私の考では、今日の政党運動は之を転じて単純な準備的政治運動となし、此際は将来の選挙の際に応ずべ
き物質上精神上の準備のみに専心する方がい、ではないかと思ふ。そしていよいよ総選挙のあつた時相当の人を
挙げて之を議院に送ることの出来るやうに用意しておく。 −斯くてこゝに既成政党に属せざる若干の労働代表
議員とでもいふ者が現れたとき、之等の人々が集つて尉新鮮が作られ、之から漸を追て政党を発達せしめるとい
ふのが最も適当の順序であるまいか。斯くすれば同じ傾向のあらゆる人々を網羅するにかたくないのみならず既
成政党から従来の不満に堪へ切れずして馳せ参ずるものもあらう。之れ〈の主義主張に賛成のものは来れとい
けんえん
ふよりも、既成政党の政策に慄焉たるものは来れといふ方は門戸が遥に広い。門戸を広くして多くの人材を集め、
其上で政党的結束を彼等に成さしむるといふのであれば先に政党としての力のこもつた本当のものが発達するに
違ないと思ふのである。
無産政党運動家に対する希望 無産階級に取て政党運動は無用ではない。併し無産階級の民衆一般は自ら進ん
で政党を組織し或は参加してはいけない。政党はどこまでも自家階級中の政治専門家に任かすべきである。而し
て民衆一般が無産政党と直接の関係がないからとてブルジョア政党の寵絡する所となる可らざるは云ふまで絹な
いが、無産階級だから必ず無産政党に投票すると固定するのは却て無産政党を堕落せしむる所以である。故なく
ブルジョア政党に籠絡せられざるの聡明を維持しっゝ場合に依ては之と結ぶこともあるべき位の自由の態度を失
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はず以て絶へず無産政党を緊張せしむることが必要である。要するに無産階級運動と無産政党運動とは二者混同
してはいけない。互に独立別個なる二つの運動として対立してゐなければならぬ。たゞ両者常時適当なる取引関
係に置かるゝを要するは云ふまでもない。
無産階級は政治問題の処理を無産政党に托するの村償として其の物質的支持を引受くべきは、他の政党と民衆
との場合と同様、当然の講だが、この点うまく行くかどうかは将来の問題だ。而して之等の点に無産階級を訓練
指導することは今日何よりの急務といふべきである。この意味に於て私は今日無産階級内の有識者間に政党運動
の起るのを必しも喜ばない、寧ろ之等の人々が教育運動に熱中し他日の準備を今日に築かれた方がどれだけ有意
義であるか分らないと考へて居る。
最後に私は繰返していふ。民衆一般の立場として政治運動に日を開くのは幾ら開いてもいゝが、無産政党には
断じて這入てはならないと。(九・九)
〔『中央公論』一九二五年一〇月〕